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Brexit翌日、ベルファストで北アイルランド紛争の歴史を辿る 【Play back Shamrock #8】

※ご注意※ 本連載は2020年の同時期に経験した出来事を1年後に振り返る趣旨で公開しており、掲載の情報等は2020年当時のものです。

(見出し画像:Peace Wallに書き込まれた無数の寄せ書き)

 Brexitの瞬間を見届けた前日に引き続き、2月1日はイギリス領北アイルランドの中心都市・ベルファストで北アイルランド紛争にまつわるスポットを訪ねる。

 とその前に重要なミッションを1つこなさねばならない。歴史的な日の新聞を入手することだ。新聞を求めてベルファスト中心部へと繰り出した。しかし海外で新聞を買い求めた経験は皆無。取り扱いのある店舗がどこにあるのか、正直よく分からない状態で外に出た。書店に行けば取り扱いがあるのではないかと考え近隣の書店に足を運んだものの「当店では扱っていません」と言われ、別な書店を紹介されて事なきを得た。(なお、Google map等で“Newspaper stand”と検索をかければある程度の数の店舗がヒットすることが後日分かった。)
 この日の新聞各紙の多くの1面にはもちろんBrexitの話題が大々的に掲載されていた。その中から数紙をピックアップし、かなりの重量があったものの記念に購入し自分へのお土産にすることにした。

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(写真:ベルファスト・クイーンズ大学の建物)

 そうしてこの日の行程が本格的にスタートした。訪問先は2ヶ所。北アイルランド紛争関連の資料が展示されているアルスター国立博物館(Ulster Museum)と、紛争と平和の象徴であるPeace Wallだ(ちなみにアルスターは北アイルランド地域を指す言葉で、この地域ではUlster Bankが独自のデザインのポンド紙幣を発行している)。なお、翌日のスケジュールとの兼ね合いでベルファストを昼過ぎに出発する必要があり、今回はこれら2ヶ所を回るのが精一杯だった。
 ホテルから博物館までは1kmほどを徒歩で南下。道中、道沿いにはベルファスト・クイーンズ大学(Queen’s University Belfast)など歴史を感じさせる建物が時折目につき、静かで落ち着いた住み心地の良さそうなエリアだと感じた。観光客らしき人は特に目立たず、いわゆる観光地という感じではなかった。

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(写真:アルスター国立博物館の外観)

 アルスター国立博物館では北アイルランドの歴史や自然に関する展示がなされており、北アイルランド紛争に関するものはその一部だ。今回は時間の制約もあったことから北アイルランド紛争関連の展示に絞って観覧することにした。過激派組織IRAによる爆弾など紛争の生々しさを物語る展示品にはじまり、1998年の和平合意・Good Friday Agreementの合意文書(原本か否かは不明)に至るまで貴重な史料が展示されている。文化・自然などに関しても北アイルランドは興味深いコンテンツが数多く存在することから、紛争関連に限らず学ぶことの多いエリアであることを再度認識させられる訪問にもなった。

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(写真:昼間のベルファスト市庁舎)

 博物館を後にし、ベルファスト中心部を経由してPeace Wallへと向かった。博物館からPeace Wallまでは片道2km強。昼間の様子も見ておこうと、前日夜にライトアップをカメラに収めたベルファスト市庁舎に寄り道をした。その後でようやくPeace Wallへ向かう。
 詳細な歴史的経緯に立ち入ることはしないが、Peace Wallはベルファストを決定的に二分したカトリック系住民とプロテスタント系住民の居住地域を明確に分けていたまさしく「壁」そのものである。プログラム担当教員から見ておくことを事前に勧められ、ぜひ見ておきたい場所の1つとして記憶していたこともあり、今回は訪問を決めた。
 Peace WallはGreat Victoria Street駅などがある中心部から見て北西方向に所在している。あくまでこれは私の主観だが、先ほどまでいた駅の南側と、Peace Wallのある北側とでは若干雰囲気が異なるように感じられた。その感覚は間違いではなかったのだろうか。Peace Wallに近づくにつれ、物々しいものが目に付くようにもなった

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(写真:Peace Wallの脇に設置された頑丈な作りの門 ※画像の一部を加工)

 Peace Wallへと続く横道に入ってすぐ、頑丈な作りの門が道路に設置されている光景が目に飛び込んできた。これである意味、目的地が近いのを悟ることにもなったのだが、それまで一般の道路を遮断するための頑丈な設備を見たことがこれまでほとんどなかった私は「何か違う」ことを感じ取った。壁そのものを見る前から事の重大さを見せつけられたような気がする。

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(写真:Peace Wall)

 そしてまもなく、歩みを進めると目の前には十分に視界を遮るだけの高さの壁が立ちはだかった。一見すると「たかが壁」かもしれないが、「されど壁」でもあると強く感じる。壁の存在をここまで印象付けられたことは今までなかった。今や壁には平和や和解を願うメッセージが無数に寄せ書きされているものの、その壁が見てきたであろう壮絶な過去に思いを致し、しばらく立ち尽くしている自分がそこにはいた。過去の遺物であり平和の象徴でもある壁は今日も、あらゆる人々に重要な問いを投げかけ続けている。
 Peace Wallはこれが全てではないが、時間の制約もあり今回はここまでで引き返し、街中心部へと戻ることにした。昨夜も利用したGliderに乗車し、Great Victoria Street駅前を目指す。駅前に戻った後、近くのCAFFE NEROで軽いランチをとりつつ、ダブリンに戻るバスを待った。
 翌日のスケジュールとの兼ね合いからこの日はここまで。バスを乗り継いでダブリンのホストファミリー宅へと帰り着いたのは夕方だった。

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(写真:虹を収めようと撮った写真だが、よく見るとPeace Wallの一部も写っていた ※画像の一部を加工)

 最後に1枚、未来への希望を込めた写真を紹介したい。これはPeace Wallへと徒歩で向かう途中、虹が出ていたことから撮影したものだ。Brexitを経ても争いのない北アイルランドとなることへの願いを込めて撮影しようと思ったのだが、後で写真をよく見てみるとそこにはPeace Wallも写っていた。今回の北アイルランド・ベルファスト訪問を総括する1枚としてこの光景を心に刻んでおきたい。

 翌日の2月2日は、Brexitを受けた動向が注目されるイギリス・スコットランドの中心都市エディンバラを日帰りで訪れる。

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