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恩を返せるにはとうてい至らない

知り合いの営業する珈琲屋さんが、古物商の許可を取ってこれから新書も古書もお店で販売を試みるという。今日は常連が持ち寄った本を店内でフリーマーケットという形で各々販売するイベントを開くと聞いていたので、様子を見に行ってきました。

この夫婦で営まれている珈琲屋さんはお店を立ち上げたときから親交がはじまり、鍼灸師でオーナーの旦那さんは事故のケガの後ずっとリハビリに付き合っていただいたおかげで左腕が正常に動くようになった恩人。

店長の奥様は毎回独創的な発想と行動力を目の前に、前回来た時から更新された状況に、なんでこうなるに至ったかを聞かせてもらうのがお店に行った時のはこび。

予想はしていたけれど、戸口の外から覗くと、お店の中は大勢の人たちが座敷に本を並べて各々くつろいでいて、沓脱石や式台の下にはもうこれ以上靴を置けないくらい。毎度のことながら、このご夫婦の人柄を感じさせる光景。

これは挨拶だけして帰るか・・・

と土間に降りていたお客さんが掃けるのを待っていると、自身に気がついたらしく店長がわざわざ戸口の外まで呼びにきてくれるという、いつもながらあたたかいおもてなし。

「この辺に本屋さんできたって噂を聞いたんだけど。」(実は先週も来ていて店長から古物商を取って新書と古書の販売をする計画を教えてもらっていました。)とあいさつ代わりの冗談を振ると
「あれ?よく知ってますね。ここですよ。」
と冗談で返してくれる。毎回このくだらないやりとりがとっても楽しい。

土間に入って、炊事場で忙しそうに注文をさばくオーナーに挨拶して、来月から本稼働させる書籍の品ぞろえを見させてもらうことに。新書が今日間に合わなく、棚に並んでいるのは店長の蔵書(古書)だとか。

(ああ、こんな本を読んできたんだ。なるほどな。)って思いながら。とても座敷に上がってお茶を注文できるような状態ではなかったので、いつも通り持ち帰り用の容器で「今日一番おいしいアイスコーヒーをひとつください。」と店長にお願いする。一番も二番もないのだけど。受け取ったアイスコーヒーを土間で本のタイトルを見ながら立ったままいただく。

ちょっと手がすいて土間に出てきてくれたオーナーと「他人に本を紹介するって難しいですよね。本ってその人の生き方とか、考え方の根底にあるものだから。」そんな話をしているといつもの展開なのだけど、店長が憧れていたフリーペーパーを作ったので持って帰って読んでほしいと。(小学生が「学級新聞作ったから読んで!」って持ってくるような状況を想像していただければいいかと。)よくがんばったね的な笑顔を返して、冊子をいただく。

市内に引っ越してしまったから同じ町内に住んでいた頃のように頻繁には来られないし、肉を食べなくなってしまったから看板メニューのランチ「ドライカレーセット」も「竜田揚げセット」も手をつけられない。ケーキもアイスも乳製品が使われている。冬場なら一番手の込んだホットコーヒー、夏場ならアイスコーヒーでしか売り上げに貢献できない。アイスコーヒーもそんなに何杯も飲めるものではないので。なので理由をつけて施術をお願いしたりもするけれど、それでも自身がいただいている冗談を言い合う楽しさや、リハビリの恩を返せるにはとうてい至らない。



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