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「千と千尋の神隠し」鎮まれ妹よ、塩辛いキャラメルポップコーン

「千と千尋の神隠し」鎮まれ妹よ、塩辛いキャラメルポップコーン

わたしにとって、一番古い映画館の記憶を思い出すとしたら、間違いなくこの、「千と千尋の神隠し」になる。
超大ヒット映画という言い方が安っぽく思えるくらいに名作中の名作な映画だから、この映画を挙げる人なんて”ススワタリ”の数くらい多いんじゃないかと思われるかもしれないが、わたしの千と千尋の神隠しの記憶は、物語ではなく「その日の映画館の中」そのもの。
じゃあ、ここで一度あの頃に戻ってみよう。

2001年、夏。わたしは9歳、小学3年生。
映画館など無いド田舎町で暮らしていたわたしにとっての映画は、当時は母と月に1、2回買い物ついでに街に出た際にビデオショップでレンタルするビデオと、テレビで見る金曜ロードショー程度だった。
そんな中、突然映画館に行く機会が訪れる。
近くの街に大きな映画館が出来たことがきっかけに、集落の子供会で年に1度、「映画鑑賞会」が開催されるようになったのだ。
子供会、とはいえ、田舎町のいち集落の子供を全部集めても10人に満たないくらいの規模ではあったが、日頃派手な娯楽のないわたし達にとっては、想像のつかないワクワクと、どことなく近未来感があったことを覚えている。

さて、2001年の夏に戻るが、この日はそう、「千と千尋の神隠し」の鑑賞会の日。
初上映の7/20日からは少し日にちが経っていたものの、当時の映画館はまだまだパンパンで、席も子供から大人まで満席だった。
その日の子供は、近所の子数人とわたし、そしてわたしの妹ふたり。
一番下の妹は当時まだ4歳(5歳になる手前くらい)で、まだ話の内容をイマイチ理解できるか出来ないかくらいの年齢だし、落ち着きがないし、わたしは映画が楽しみな気持ちと同じくらい、大丈夫だろうか、、という不安があった。
しかも、「子供会」という名目を律儀に?守り、子供のみでの映画鑑賞で保護者は外で待っていたから尚更だった。今思うと本当に、、とんでもないなと笑えてくる。

さて、映画が始まって1時間半ほど経過。
・・・あれ?思っていたほど妹がおとなしい。もっと序盤で飽きて、騒ぎ出すのでは無いか、もし泣き始めたり「おしっこ」などと言い始めたりしたら、お母さんが言っていた通りこっそり外に出てお母さんに任せよう、頭の片隅でそのような計画を立てながら鑑賞していたのだが、心配をよそにスムーズにおとなしく過ごせているじゃないか。
よかったよかった、、そんな調子でいよいよ物語もクライマックス。
千尋達が銭婆の家からハクの背中に乗って帰る途中に、子供の頃の記憶を思い出した千尋の話を聞いているうちに、ハクが自分の過去や姿、本当の名前を思い出し、人間の姿になって手を繋いで空を飛ぶシーン。
気付いたら周りから徐々に鼻を啜る音、静かに泣いている声が聞こえだす。
わたしの左隣にいた同級生の子も涙ぐんでた。

ハク「千尋、ありがとう。わたしの本当の名は、ニギハヤミコハクヌシだ!」
千尋「ニギハヤミ?」
〇〇「タララララ〜ララララン♪」
ハク「ニギハヤミコハクヌシだ」
〇〇「チャンチャカちゃんチャンちゃん♪ね〜まだ〜?」
千尋「すごい名前、神様みたい!」
妹「ね〜えなんで泣いてるのぉ〜??」

やばい!!!!!

妹がここに来て痺れを切らしてしまった!!
え!?ここで!!!!???待って!!!!今多分一番静かにしてないといけないとこ!!!どうしよう!!!

姉、焦りで冷や汗と脇汗が止まらない。
パニックになると、計画していたこと(静かに外に出る、お母さんにパスする)など吹っ飛ぶもので、ましてや当時は私も小学生、どうにかその場で妹を鎮める事しかできないのだ。
「鎮まれ!!!鎮まりたまえ!!!」
あれ???わたし達が見に来たのって「もののけ姫」だったっけ??

焦った私は妹に売店で買ってもらったポップコーンを食べさせ気を引かせようとする。
「美味しいよ、ほら、もう少しで映画終わるけんね」
そう言って食べたポップコーンは、キャラメル味なのにしょっぱい。あ、これ私の手汗のせいだわ。
そんなこんなで、某CMの曲を歌い出したり、後ろを向いて泣いている大人に向かって「なんで泣いてるのぉ〜???」ととんでもねぇ煽りをかます妹を押さえつけながら、映画は無事に終了したのである。

今思い返せば、小学生という幼い時期に感じた焦りトップ5の中には確実にランクインする出来事だったと思う。
ちなみに第1位は、5年生くらいの頃にスーパーのトイレの赤ちゃん用椅子にふざけて座って外れなくなり、トイレの個室から叫んで、お店総出で救出してもらった事件である。(本当に申し訳ございませんでした)

あの時、同じ劇場にいらっしゃった全ての方々へ、大人になったわたしから改めて謝罪申し上げます。あの時はうるさくして本当に申し訳ありませんでした、、!
でも、小さい妹の歌に笑ってくださってありがとうございました、、!
そして、約2時間にも渡る長い映画をよく耐えたな、妹よ、、、!
あの時の周りにいた大人達の「いいよいいよ、よく頑張ったね」という優しさと微笑みは今でも忘れられない。周りみんな釜爺とリンだったかもしれない。

今でも、改めて「千と千尋の神隠し」の映画を見るたび、クライマックスの千尋とハクが降りていくあのシーンになると、あの日を思い出してちょっと塩辛い気持ちになる。
心臓がひゅっとする気持ちは、千尋が湯屋の外の階段を駆け下りていくシーンのあれに似ているかもしれないな。

#映画にまつわる思い出

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