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『ぼくの火星でくらすユートピア』

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どうして繰り返している?何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
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2021年3月の記事一覧

『ぼくの火星でくらすユートピア⑵』

《ユートピア》──もしも、それが、本当のことであったなら  遮光カーテンの隙間から漏れ入る朝日。  ネクタイを締める、シュッと鳴る音。それが僕が、この人生の中で一番嫌いな瞬間だ。二番目が電車に駆け込む時。三番目がタイムカードを切る時。  つまり、ほとんどの人間が、大人になれば囚われることとなる、人生の義務を果たす時間。惨めな思いをするのは、いつも昼間だ。  それでも僕の家には、僕のことを見送り、そして出迎えてくれる犬がいた。要するに、僕が飼っていた犬、ということになる

『ぼくの火星でくらすユートピア⑶』

《ユートピア》──追いかけても追いつけない蝶を、追いかける行為の儚さを知る  冷たい風も限度を知らねば砂を積もらせる。  僕と相棒は風が運んできた砂漠という景色に、呆然と立ち尽くした。しかし後退するという選択肢は、僕らには無い。ここを抜け切るしか無い。  僕は今度こそ、しっかりとエンジンブレーキを下ろし切る。  「逃げたい」と思い続けた人生だった。  僕は常に逃げ道を求め、辛いことにも幸せ過ぎることにも、背を向けて生きてきた。僕の気持ちはいつだって、何も無い場所に辿

『ぼくの火星でくらすユートピア⑷』

《ユートピア》——望めば与えられる世界  砂を払っているものとばかり思っていた相棒のワイパーは、いつの間にか海の中を漂っていた。  纏わりつく魚眼の景色の中で、2本の黒い縦線が揺れ動く。 ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン 「相棒よ。こんな場所でもお前は動こうとしているんだな。僕もどうにか抜け出さないと」  僕はアクセルペダルを精一杯踏み込んだ。相棒は海底の砂を巻き上げながら、ゆるゆると動き出す。  相棒に必要だったのは、僕の、たったこれだけの僕の、合図だった

『ぼくの火星でくらすユートピア』

《ユートピア》——扉を開けたなら、爆発しそうな勢いで空気が入れ替わる  目を開ければ車の中だった。外は晴れ。いつもの日和だ。  車から降りたら、目の前にゴミ捨て場があるのはいつものことだ。大小高低関わらず、とにかく、そこにゴミ捨て場はある。  僕は燃え滓を放り投げて車に戻った。  「こいつ」とは長い付き合いになる。  レンタルショップで しょぼくれていた最後のひとつだった。  僕は店内のカウンターで、ぼんやり葉巻を吹かしていたイッカクに声を掛けた。 「すみません

『ぼくの火星でくらすユートピア(あとがき)』

こんにちは、はじめまして、サトウ サコと申します。 この度は、こんな、良く分からない物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。 挨拶も無しに突然、こんな尖り散らした物を無言で載せ続けていたこと、心よりお詫び申し上げます。 この場をお借りして、簡単に自己紹介をさせていただきます。 こんにちは、はじめまして、サトウ サコと申します。 普段は『小説家になろう』にて、中高生向けの児童文学を書いたりしております。 noteを始めるに至った経緯ですが、夜眠れなかったか