思春期の水曜日 其二六

 スマホでのカメラ撮影が趣味の男子が、昼休みに続いて教室内を騒然とさせた。人数のまばらだった教室内の全員が、男子の周りに殺到した。俺もゆっくり、頭を掻きながら人混みに近づいた。
 元々、おかしいと思っていた。昼休みに、何故ヤンキー如き三人に――――
 背の高いおれは、人混みの後ろから、撮影された動画を見た。三方向から同時に迫られながら、男子学級委員は鮮やかに三人をさばき、脛やみぞおちに一発ずつ打撃を見舞っていた。
「演技、じゃないよね?」
「じゃあ、昼休みはなんで――――」
 おれはこらえ切れずに、スマホを持つ男子に言った。
「おい、昼休みの動画、もう一度見せてくれ」
 おれの要求で、男子は昼間の動画を再生した。そして、最初の一人が殴りかかってきた時の、学級委員の動きを解説した。
「殴られそうになっているのを、余裕でかわしている。そしてうっかり膝蹴りしそうになって、慌てて動きを止めたんだ。ヤンキーとはいえ、学級委員が他の生徒に重傷を負わせるわけにはいかないからな。それで対処に悩んで考え込んでいるところへ、不意打ちで他二人のパンチが命中したんだ。
 あいつ、お人好しだからな」
 おれが説明を終えると、何人かの女子生徒はきまりが悪そうに、女子学級委員の席を見た。しかし、既にそこに学級委員はいなかった。

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