思春期の水曜日 其一

 中学生になって初恋をした。同じ学校、同じ学年、同じ組の女の子だ。芸能人の親戚で、とても綺麗な顔立ちに、端正な長身が目立つ。勉強でもスポーツでも好成績で、学級委員で、教師でも従わないヤンキーまでがその子の言う事を聞いた。
 一方で、俺は学年全体の平均的存在だ。その女の子よりは若干背が高い程、成績はどれも真ん中。目立つ特技も人徳もない。いじめられっ子でもいじめっ子でもない。良く言えば平凡、悪く言えばその他大勢の一人。
 いくら神様に祈っても、その子には近づけない。そしてある日、俺はその子が別の組の学級委員と手を繋いで登校している場面に遭遇した。相合い傘で、雨の中を歩いている。50m先からでも、判別はついた。
 絶望して立ちすくんだ。あの子が信号を渡って視界から消えても、動く事ができなかった。傘を持つ手が震えた、
 不意に、そこで、肩を叩かれた。
「よう!どうしたのよ?ぼーっと突っ立ったままで」
 ややがさつな、幼なじみの女子だった。俺はため息と共に、ありのままを言った。
「畜生……失恋した」
 幼なじみは俺の顔を覗き込み、
「ははぁ、さては学級委員だな。昨日、手を繋いで下校しているのを見たからね。あんたもあの子に惚れていたんだ?」
と、からかってきた。俺は少しむっとして、
「うるせぇ、だったらなんだよ?」
 そう尋ねた。幼なじみはいたずらっぽく、
「じゃあ、あたしがもらってあげようか?」
 そんな事を言ってきた。俺は動揺して、
「な、なんだよ、突然?」
 声が上ずった。すると幼なじみは、
「ははぁ、本気にしたな?このスケベ。冗談に決まっているじゃない」
 悪い笑みを浮かべている。幼なじみは笑いながら、
「ほら、突っ立っていると遅刻しちゃうぞ」
 そう言って歩みを再開した。俺は、
「おい、待てよ!」
 幼なじみを追うように、歩き出した。
 雲間から、一筋の「天使の梯子」が、地上に差していた。

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