思春期の水曜日 其七

 スクールカーストは厳として存在する。
 おれは「いじられキャラ」扱いされているが、おれがその扱いに歯向かうと、皆がしらける。皆の失望に晒されたくなければ、黙って期待通りの役割を演じるしかない。
「なあ、今日の昼休み、購買で焼きそばパン二つ買って来てくれよ」
「俺はメロンパン一つな」
 こうしてパシリに使われる事も珍しくない。おれは頼まれ事を忘れないよう、スマホにメモする癖が付いていた。
 おれの席の後ろ、窓際最後尾の席の友人は、今日も遅刻らしい。チャイムが鳴ってもまだ来ない。遅刻の常習者として、教師たちからも目を付けられている程だ。
 教室内は学級委員カップルの話題で持ち切りだ。しかしスクールカースト下位のおれに、発言権はない。おれがあれこれ言おうものなら、「いじられキャラ」が「いじめられキャラ」になってしまう。また、学級委員の二人は差別を許さないために、おれを庇う事もある。それが、かえって事態を悪化させる。
 ため息をついて窓外を見ていると、教室の扉が勢いよく開いた。皆が学級委員かと思ったが、おれの友人だった。皆の視線を不審に感じながら、友人は席に着いた。
 おれは友人に、事態を説明した。
「今、学級委員同士のカップルができたと、大騒ぎなんだよ。今委員の二人は呼び出されてる。てっきり、学級委員か先生が来たものだと、皆勘違いしたんだ」
 そう言うと、とんでもない答えが返ってきた。
「学級委員のカップルったって、もう付き合い出して一、二ヶ月経つだろ?今更騒ぐ意味なんてねぇだろ」
 おれすら驚く言葉に、級友たちは友人の席を取り囲んだ。まるでインタビュアーのように、組の半数の人間が、友人に群がり、手に負えない騒乱となっていた。
 ふと教室の扉を、静かに出ていく級友が目に付いた。

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