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宝石

水面がキラキラと光に反射して輝いている
その日、エムはクレアに連れられて、
森の奥にある湖の畔まで来てみた

ーーこんな所に湖があるんだ
エムは森のこんな奥の方まで来るのは初めてだったから、その静かで大きな湖をみて目を丸くした。

ーーそう、ここは“幸せの湖”というのよ
クレアは瞳をキラキラ輝かせて、そう囁いた

ーーこの辺りだったら、見つかるかなぁ
ーーきっと見つかるわ。さあ、一緒に探しましょ
そう言ってクレアはエムを促して、辺りを散策した

エム達の通う学校では、生徒の間で、今流行ってる事がある
それは綺麗に輝く小石を見つけて集める事

クラスのみんなはお気に入りの小箱に見つけた小石を並べ
その輝きを比べ合ったり、見惚れたりしている

赤や青、あるいは緑、色とりどりの小石を綺麗に
光沢が出るまで磨き上げ、それを小箱に詰める
形や模様も様々だ
人それぞれに好みも違う
誰もが互いの小石を褒め合うが
自分の小箱が一番
綺麗に見える

そんな中でも
クレアの小箱は
誰よりも綺麗で素敵な小石が
キラキラといっぱい並んでいる
魔法の光みたいで
クラスの誰よりも
輝いて見えた

エムとクレアは幼馴染で
とても仲が良かったけれど
華やかなクレアと
いつも地味で目立たないエムは
まるで光と影の様に
クラスでは対照的だった

エムは
なかなか良い石に巡り会えない
エムの小箱は
他の友達と比べると
何だか色も形もみすぼらしくて
変な形の小石ばかり並んでた
だから
いつも恥ずかしそうに俯いて
そっと小箱を机の隅に隠した


幸せの湖の畔で
日が暮れるまで
小石を探した
でも黄昏の鐘が鳴ると
森を出て家に帰る

帰りの道で二人は
拾った小石を見せ合った
クレアは紅と象牙の縞模様の
小石をいくつか見せた
エムは綺麗だなと思った
エムが拾った小石は少なく
色も形もそれに見劣りしていた

家に帰ったエムは
家族揃って夕食を済ませ
お家の手伝いをした後
今日一日の出来事を
父さんに話した
父さんは優しく微笑みながら
エムの話を最後まで
耳を傾け、うんうんと頷いた

父さんが見せてごらんと言うので
エムは小石の小箱を取り出した
今日、幸せの湖で拾った小石も
新しくそこに並んでいた

父さんは良い石を集めたねと
エムを褒めたが
エムはクレアの石や
クラスのみんなが持ってる石は
もっと素敵だと
父さんに話した

父さんは
それでエムはどう思う?
と尋ねた
エムはじっくり考えた
それはもちろん、
羨ましいと思うけど
でも、やっぱり
あたしはこの石が好き
あたしはこの小箱が一番好き
と、そう答えた

父さんは、そうだねと頷いて
エムはみんなが持ってる
小石を褒めてあげなさい
クレアの小石を綺麗だと
たくさん言ってあげなさい
と言う
エムはエムの小石を磨けば良い
父さんにはエムの小石が
たくさん並んだ宝石みたいに見えるよ

そう言ってくれたので
エムはその夜
すっかり気持ちが安らいで
ぐっすり眠れた

次の日からも
エムは小石を見つけては
それを一生懸命に磨いた
みんなの小石を見ては
綺麗だねと笑顔を見せた

いつしか時は流れて
もう誰も小石を集めて
見せ合う事も無くなった
クレアは外国に引っ越して
会えなくなったが
今でも親友だと思ってる

その後もエムはひとりで
幸せの湖に出掛けて
小石を探した
ここに来ると
クレアの事を思い出す
そんな時間がエムには
大切だと思えたから
そして、
これと思う小石を見つけると
それを拾って
一生懸命、磨いて
小箱に並べた

エムの小箱は今ではもう
こんなに沢山になった
それらのすべては
エムの宝物であり
かけがえのない
光輝く、宝石だった

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