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生活に溶け込むテクノロジーと、穏やかな通知のアプローチを考える | UI/UX Weekly vol.08

先日、あるZoomウェビナーに参加してきました。
すごく興味深い内容のウェビナーですが、どうしても気になることが一つありあまり集中することができませんでした。

それは、メインで話している登壇者の「スマホの通知音」が連続的に、しかもかなりの頻度で鳴っているからでした。
しかし、当人は気づいていないのか、気にならないのか、そのまま話し続けていました...。

冷静に考えると、これはかなりおかしな現象です。
そもそも「メッセージが届いたこと」は、本人以外知る必要がない、パーソナルなものであるべきなのでは?と考えました。

そんな一件から、今回は、人間とテクノロジーのコミュニケーションと、
通知」について、考えてみたいと思います!

生活の中に溶け込む..."カーム・テクノロジー"

通知について考えていたときに、カーム・テクノロジーという本に出合いました。

ユビキタスコンピューティングを提唱したマーク・ウェイザーによって1996年に発表された、「カーム・テクノロジー(Calm Technology)」という思想を元に、5年ほど前に書かれた本です。(日本語版が最近発売されました)

人が無意識的に活用できるテクノロジー/あるいはそれらが存在する環境を総称してカーム・テクノロジー(穏やかな技術)と呼んでいます。
テクノロジーと人間のコミュニケーションに関して特に学びが多くあったので、学んだことや考えたことを書いてみたいと思います。


見えなく・聞こえなくなった、「通知」

使っているサービスやプロダクト、ユーザー自身の属性や性格によっても、ユーザーの「通知」に対する付き合い方は様々です。

例えば、通知バッジがあると気になってすぐに既読にする人、逆にメールの未読が何万件もあるのに気にしない人。


後者は、もはや通知バッジは「新着メッセージの数を伝える」という本来の役割を果たしていません。
配信解除が面倒だから届き続けるメルマガやお知らせメールと何年間も付き合い続けた結果、ホームアイコンのデザインの一部になってしまっているようにも思えます。

同じく冒頭の例の登壇者にとってスマホの通知音は、
洗濯機が稼働する音、扇風機の送風音、外から聞こえる工事の音...
といった、意識の遠くで鳴っている環境音になってしまったのではないかと考えました。


気がつくと「通知」に溢れていた

1人が1つのコンピュータを使う時代から、1人が複数のコンピュータを扱う時代に移り変わりました。

パソコンを目の前にして、タスクに集中していると思っていても、
解約するのも面倒なメルマガがひっきりなしに届き、
iPhoneにはLINEやSNSの通知が届き、
AppleWatchには「座りっぱなしです!」と怒られ、
声を発せば「お役に立てそうにありません」とGoogle Homeが誤反応してしまう...

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こんな時代に、昔のような1人が1つのコンピュータを使っていた時代の考え方は通用するはずもありません。

サービスを作る側に立つと、自分たちのサービスの通知が一番大事であると思い込み、
いかにプッシュ通知の開封率をあげるか、ほかの通知と差別化できるような通知はどんなものか、に考えることに注力しがちです。
しかし実際その通知は、ある一人のユーザーが受け取る何百何千もの通知の1つに過ぎず、ということをいつも念頭に置いておくべきだ、と、この本を読んでまずハッとさせられました。


そのプロダクトは「主役か、脇役か」を考える

本で例として取り上げられていますが、例えばSlackは、元々はGlitchというオンラインゲームを作っている会社でした。(画像元

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今となっては世界的に使われているコミュニケーションツールになっていますが、当初はゲーム中のプレイヤー同士がチャットをするための「脇役」のツールでした。(参照:Slack timeline
そしてゲームではなく、そのコミュニケーションツールだけが残り、今のSlackがあるそうです。

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チャンネル名が太字になり新規メッセージを知らせるささやかな通知は、メインの活動である「仕事」を邪魔しないし、
通知を受け取る時間を設定できる機能は、「仕事以外の活動」をしているときにその活動を邪魔することはありません。

Glitchでは主役はゲーム、チャットは脇役であった発想が、メインのタスクを邪魔せず脇役としてコミュニケーションをサポートするツールであるSlackにも引き継がれていることが分かります。


文脈を考えて、最適な「伝え方」を考える

身の回りにある全てのデバイスが「見てくれ!聞いてくれ!」と言わんばかりに通知やアラートを送り続けても、
ユーザーはそんな一つ一つに構っている暇も余裕もないのです。

Slackの例のように、ユーザーがそのサービスを使っているときの状況や環境、つまり文脈を考慮することが、今のテクノロジーには求められています。
『カーム・テクノロジー』では、メッセージやテキストで注意を引く以外に、どんなアプローチがあるか?がいくつか紹介されていました。
その中で「ステータストーン」と「ハプティックアラート」について紹介します。

ステータストーン

ゲームをクリアした時の、「テッテレー♪」という軽快な音楽のように、
短い音でもポジティブなトーンとネガティブなトーンを作り出すことができます。
これを活用したロボット掃除機のルンバは、掃除が終わると『幸せそうな音』を、逆に身動きが取れなくなると『悲しそうな音』を発します。
「掃除が終わりました!」とロボットのような声で発せられるより、そのトーンを聞くことで意識の端っこで「あ、掃除が終わったんだな」と感じることができます。

他にも動画のように、airpodsは電源オンオフやバッテリーが少なくなったときの状態をトーンで表します。
以前私が使っていた、「Your headset is connected!」「Battery low!」と叫んでくるイヤホンに比べ、airpodsのステーターストーンは「音楽を聴く」と言う行為をなるべく邪魔しないアプローチで設計されていることが分かります。

ハプティックアラート

五感の一つであるハプティック(触覚)を利用した通知方法です。
ゲームでダメージを受けたときコントローラーが振動したり、スマホのバイブレーションもハプティックアラートの例です。
前者は主にゲームの没入感を深める役割が大きいですが、後者は「知らせる/伝える」ために用いられます。
ハプティックアラートは、スマートウォッチの通知や、姿勢矯正センサーなど、通知を受け取る本人のみが知るべき情報を知らせるのに適しています。

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通知だけではなく、例えばTwitterで文字数オーバーした時の警告や、充電や購入が正常に行われていた際のフィードバックとして、ビジュアルと一緒に使われる場合もあります。
多用しすぎると逆にユーザーを混乱させてしまいますが、ビジュアルやインタラクション、トーンなどと上手く組み合わせることで、より良い体験を構築できる一つの要素となります。


この2つ以外にも、
意識が向いているモノやコト以外の空間を利用して、認識させるアンビエント・アウェアネスや、
位置情報や時間等から必要な情報だけを知らせる文脈型通知など、
様々な例と共に人のメインの活動を邪魔しないカーム・テクノロジーのパターンが紹介されていました。

ユーザーが受け取る情報を視覚以外の感覚器官も上手に活用して整理しやすくするアプローチや、文脈や環境をより考慮した通知のアプローチは、今後ますます増えていきそうです。


最後に

身の回りにはたくさんのデバイスがあり、睡眠などを邪魔して人間的な生活を妨げる要因になっているというのは全く新しい話ではありません。

この本を読んで、サービスやプロダクトをデザインする側として、
ユーザーがより人間らしい生活ができるような「穏やかなテクノロジー」をつくるために何ができるかを考えられる良いきっかけになりました。

ユーザーの人間らしい生活をサポートする(または邪魔をしない)「カーム・テクノロジー」の考え方は、今の時代に、そしてこれからもっと発展していくテクノロジーを考える時に、作り手が必ず持つべき思想であると感じました。

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著者のAmber Caseさんが登壇したカンファレンスの動画でも、カーム・テクノロジーに関する基本的な考え方が分かりやすくまとめられています。


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