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推しふねが無戸籍 下

上こちら


【経緯2】

オガさんは白くて大きくて見た目はとても美人さん(※船です)だったのだが、結局商業運行しなかったのでグッズも存在しないし、ノベルティらしいノベルティもない。進水式は行ったので進水記念はがきくらいあるだろうとも思うのだが、少なくともヤフオクやメルカリでは一枚も見かけたことがない。
かろうじて、(進水時などに?)関係者に配布されたらしいパンフレットがあることは把握している。

どうしてもオガさんの登録事項証明書が欲しかったのはこの遺品(※船です)の少なさにもよるし、この船の存在そのものがほぼ黒歴史扱いされていてあまりにも悲しく、せめてそういう船が存在していたという公的な記録を物理的にほしいと思ったからだった。

しかし船舶番号がわからない。
フォロワーさんに教えていただいたところによると、無線局は臨時のものもあるそうだ。
当時使われていたコールサインが「7JAH」だったことは船舶位置情報サービスの履歴に残っていたが

オガさんの船舶無線局が臨時登録のまま、造船所のある岡山県玉野市と宮城県石巻市の往復航海などを行ったのなら、たしかに本登録じゃないので官報に載っていないだろう。
これでは船舶番号の調べようがない。困ったなあ…。

ここで前回「上」で触れられていなかった内容、登録事項証明書を取ろうと思っていたうちの他2隻についてもちょっと説明する。オガさんと関係なくもないので我慢して聞いてほしい。

みらいさんのこと

1隻目、現在海洋調査船の「みらい」としてJAMSTECで働いているこの船は、もともと1969年に進水した原子力実験船「むつ」だった。

経緯を話せばむちゃくちゃ長くなるのだが…

…要点だけ話すと、オガさんのように親方日の丸オブ親方日の丸な国家プロジェクトのもとに生まれた実験船のむつに、実験船時代から船舶番号があるんだから、オガさんにないわけはないんじゃない?

希望さんのこと

2隻目、かつて静岡県の高速カーフェリー兼防災船として働いていた「希望」は、実はもともとオガさんと同じテクノスーパーライナープロジェクトの実験船「飛翔」だった。
こちらについては実験船からフェリーへの改装を行ったのち運用入はしたものの、やはりオガさんと同じく燃費が絶望的で、短期間で引退してしまった。こちらも経緯を話せば長くなるのだが…

…要点だけ話すと、同プロジェクトで元実験船だった希望さんも船舶番号があるんだから、じゃあ実用船になるはずだったオガさんにもきっとあるでしょうよというわけ。

どうしよう…

しかしどう調べたらいいんだ…。
オガさんは就航しなかった船だから、運輸安全委員会に怒られたこともないぞ…。

サキノさんはダメ元で、メーカーである三井E&Sホールディングス御社(2018年に三井造船から社名変更)に問い合わせメールを送った。
翌日、翌々日と待ったが、返事は来なかった。
それはまあ…こんな限界おふねオタクから、お宅の娘さんのプライバシーに関する(※船です)変な質問が飛んできてもな…。

とりあえずほか2隻の申請をすることにして、近くの運輸支局に電話した。
電話口で訊いた限り2隻は問題なく申請できそうだったのだが、ダメ元でオガさんの申請についても質問してみる。
船舶番号以外の項目の全て、船名も船籍港(普通船尾に書いてある。オガさんは「東京」と書いてあった)も所有者もわかっていても、やはり船舶番号はどうしても書かないといけないそうで頭を抱えたが

運輸支局の職員さん「数回の航海だけだと、臨時運行の申請だけで本登録されてないかも…」

ええっ!?

【あるのかい!?ないのかい!?】

その後フォロワーさんからも教えていただいたことも合わせると以下のようになる。

船は基本的に、車でいう車検証にあたる「船舶検査証書」がないと航行してはいけない。しかし船の納入前の性能確認のために行われるテスト航行などの臨時の場合では、車で言う仮ナンバーでの航行が認められているのだ。

まだ車検に通ってない車を車検証ありで動かすことはできないんだから当たり前なのだが、船の場合もこれは仮であって、本登録とは別物だ。
もしテスト航行も、石巻との往復の航海も、解体場所への移動も、全部この臨時航行で済ませられていたら、そもそもオガさんには船としての本登録データが残っていない

い、いやまさかよりによって、旧運輸省が音頭とった親方日の丸大型プロジェクトで作られた船の正式な登録が国交省に残ってないなんてことは……ないよね……?

【答え合わせ】

サキノさんはとりあえず2隻分の申請書に記入して運輸支局に向かった。
先日の電話で色々と教えてくれた職員さんが迎えてくれ、

職員さん「こちらの方でも小笠原TSLについて調べてみました」
サキノ「わ、ありがとうございます…!」
職員さん「…調べてみたんですが、やはり正式な記録は見つかりませんでした。臨時の運行等で済ませられてしまっていた可能性が高いです

まじか~~~~~~

他2隻の方の登録事項証明書は無事受け取ることができた。
ただしここでも一つ発見があった。

みらいさんが「むつ」時代から記録があった一方、オガさんと同じテクノスーパーライナープロジェクトの実験船「飛翔」だったはずの希望さんには、飛翔時代の記録が存在しなかったのだ。

テクノスーパーライナープロジェクトでは、他に「疾風」という実験船(実験後は民間で運用されたりはせず神戸港で陸揚げされ展示されていたが、数年前に再開発で解体撤去)もいた。
「まあそのうち船舶番号がわかったらそっちも申請しようかな~」などと軽く考えていたのだが、希望さんが実験船時代を全部臨時航行でこなしていたとなると、たぶんこっちにも本登録データ自体存在しないだろう。

【答え合わせ その2】

消沈していたサキノさんのもとにメールが届いた。

三井御社「お返事遅くなってごめんね」

驚くべきことにオガさんの親御さんの三井御社からお返事が来たのである。二度見した
自分は「もし可能なら船舶番号と船籍港を教えてほしい」という旨の問い合わせを送ったのだが、仮ナンバーを教えていただくことができた。
……だけでなく、なんとこの船には船籍港が存在しないこともわかってしまった。船尾に書かれた「東京」の文字は、受け取られなかったことで形だけのものになってしまっていたのだった。

ダメ元で再び運輸支局に問い合わせてみる。
サキノ「かくかくしかじかというわけで、この仮ナンバーから船の登録情報を引っ張ることってできますか…?」
先日の職員さん「調べてみますね」

~数分後~

職員さん「だめでした…。臨時運行のための番号だから、やっぱり本登録データは残っていないです」
サキノ「そうですか…。お手数おかけして恐れ入ります、ありがとうございました…!」

……ということで、旧運輸省主導の大型プロジェクトの一応の結実であり、物理的には10年以上存在していたはずのオガさんには、船としての戸籍がないことがこうして確定したのだった。

オガさんが原子力船むつのように「船としての合格を貰うこと」をひとつのゴールとした実験船だったなら、合格した時点で晴れて国交省お墨付きの船となり、民間運用に入らずとも船舶原簿にデータが残ったかもしれない。
また、オガさんが希望さんのように、(たとえその後どうなったとしても)一旦は船として納入先に受け取られたなら、その時点で船舶原簿にデータが残っただろう。

オガさんはその隙間に落っこちて、「そういう船がいた」という記録自体、国交省のデータベースに残らなかった。


【補足】

ここまで書いたが、実は国交省の船舶登録の他に、残っている可能性がある公的なオガさんの記録がある。
船の「財産としての」記録、船舶登記簿だ。

船は動産でありながら法的扱いとしては不動産に近い。なので20トン以上の日本籍の船には登記簿がある。
国税庁HP船舶法第5条第1項を見る限りでは、船の登記は船舶原簿への登録より先にやるようだ。また、国税庁的には「船舶として航行の用に供することができる程度に完成していないもの」は船ではなく、「航行することができる程度に完成しているもの」が船らしい。
そしてオガさんは20トン以上あるし、航行できるくらい完成していて、少なくとも(スクラップ目的ではあるが)三井御社から解体業者のフルサワに売却されたことが明らかだ。
だから、もしかしたら登記簿になら「SUPER LINER OGASAWARAという船があった」という記録が残っているかもしれない。

こちらについてはまだ請求できていない。
船は船籍港を管轄する登記所でしか謄本の申請ができないそうなのだが

…船籍港のなかった船って、どこに申請すればいいんだろう?

それに、残ってたら残ってたでオガさんはほぼ動産でしかなかったことになるし、残ってなかったら残ってなかったで本気で落ち込んでしまいそうな気がして、いまのところこれ以上は動けていない。

【2023.3.23追記】

湯の沢さんがスーパーライナーオガサワラの登記簿取得チャレンジをしたそう。

なかったか~~~~~~~~~~
_(X3」∠)_

というわけでこれにて、オガさんの微かな航跡を探すnoteはひとまずおしまいとしたい。オガさんことSUPER LINER OGASAWARA(スーパーライナーオガサワラ)の公的な登録は、どこにも残っていなかったのであった。

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