東京九州フェリー「はまゆう」の船舶登記簿を見る

登記できるのは原則として不動産だけですが、動産である船舶にも登記簿があります。小さい船は農業用動産として登記され漁船などに限られますが、20キロトン以上の日本船舶は船舶登記簿に登記されます。

登記されていない船舶は一般的な動産と同様に引き渡しが対抗要件となりますが、登記されている船舶は不動産と同じように扱われ、登記が対抗要件となり、抵当権や貸借権の登記もできます。また、登記された船舶は質権の目的とすることができません。

なお、日本船舶の所有者は、登記をした後、船籍港を管轄する管海官庁に備えられた船舶原簿に登録して船舶国籍証書の交付を受けなければ航行することができないため、事実上船舶の登記は義務となっています。これは所有権保存だけでなく、相続や売買などにより所有権が移転したときも同様です。

不動産は表題登記が義務となっておりその後所有権保存登記をするという流れですが、船舶は所有権保存登記のみを申請し、表題部は職権で登記されます。また、船籍港の更生登記についても管海官庁が発見したときは嘱託されることになっており、申請する必要はありません。

はまゆうの登記簿

さて、タイトルにしたように、今回は東京九州フェリーのフェリー「はまゆう」の登記簿謄本を取得しました。船舶登記は電子化されていないため船籍港を管轄する登記所でしか謄本の申請ができず、今回は札幌法務局小樽支局に郵送で申請して取得しました。申請書に600円分の収入印紙を貼って返信用封筒を添えれば誰でも取得できます。

なお、船舶の管轄登記所は原則として不動産登記の管轄と同じですが、船籍港は市町村しか指定しない(例外として23区の場合は「東京都」)ため複数の登記所の管轄地域に跨ることがあり、その場合は23区内については東京法務局、川崎市内については横浜地方法務局川崎支局、その他の場合は商業登記につき事務の委任を受けた登記所が扱うとされています。

「はまゆう」の登記の表題部です。見出しは船名で管理されており、汽船/帆船の別やトン数などが登記されています。ご覧の通りです。甲区が存在しない船舶登記は無いため、枚数が2から始まっているのが特徴的でしょうか。また、表題部に所有者の表示欄もありません。

続いて甲区(所有権の部)です。就航の1か月ほど前に所有権保存登記がされており、新日本海フェリー株式会社が所有しています。

乙区(抵当権及び貸借権の部)は壱号(や)まで36件の抵当権が同順位で登記されています。全て画像を掲載するには多いので、概要だけ記しますので、詳細まで気になる方はご自身で謄本を取得されるか、FFの方でしたらDMでご連絡ください。

抵当権設定登記の申請は令和3年8月3日受付となっており、新日本海フェリー株式会社を債務者として32の金融機関が債権者となって、債権額の総額は2200億円となっています(共同担保あり)。共同担保は姉妹船かと思いますが、共同担保目録を取りそびれてしまったので不明です。取った方がいたらお見せください。

債権者の数と抵当権の数が一致しないのは同じ金融機関・支店で複数設定しているためです。上の画像ではどちらもみずほ銀行(大阪営業部取扱)が抵当権者となっていますが、原因となる消費貸借契約の日が違い、また利息も(い)では年1.529090%ですが、(う)では年1.519090%と、0.01%の差があります。このように差があるのは稀ですが、分けられるのは契約日が違い追加調達している形です。

一方で、複数の契約でも1つにまとめて登記されているものもあります。この場合でも利息などは同一でも2回分けて記入されています。先ほどのみずほ銀行などと同時に申請されているものですが、金融機関などによって登記方法の慣例があるのでしょうか。

また、抵当権が設定されている債権は所有権登記後に契約されたもののほか、令和1年12月6日と進水より前の契約も複数あります。未完成の船舶にも抵当権を設定することはできますが、この事例では抵当権設定日は令和3年6月25日です。全て同じ日付ですので、造船にあたって共同でなされた融資でしょう。

追記
姉妹船それいゆの登記簿を取ったところ、やはり共同担保はこの2つの船でした

参考文献

五十嵐徹「各種動産抵当に関する登記-船舶・建設機械・農業用動産-」日本加除出版2020(ISBN9784817846419)

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