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【絵本屋さん日記】絵本屋のわたしに、絵本を贈る人たち

絵本屋のわたしに、絵本をプレゼントしてくれる人がいる。

それは前職の会社で一緒に働いていたお姉さんだったり、
三条で出会って仲良くしてくれるお姉さんだったり、お兄さんだったり、
ずっと近くにいるけれど絵本の話なんかしたことのなかった友人だったり。

それは誕生日や店舗プレオープンのお祝いだったり、
なんでもない日のプレゼントだったり。

絵本屋になるまで、絵本を貰うことなんて殆んどなかったのに
絵本屋を始めてから、絵本を貰う機会に恵まれている。

そのことが、矛盾を孕んでいるようで、なんだか不思議に感じる。


なんというか、たとえばお花屋さんにブーケをプレゼントすることってあるだろうか?
いつも花に囲まれていて、花のことなんて自分より詳しいだろうに、花を貰って嬉しいかな〜なんて考えてしまわないだろうか?

お酒屋さんにお酒を。ケーキ屋さんに洋菓子を。ラーメン屋さんにラーメンを。(ピンとくる例えにならないな……)
とにかく言いたいのは、専門分野を生業にしている人への贈り物に、その専門どまんなかのプレゼントを選ぶことには、少なからず葛藤があるだろうということだ。わたしだったら悩んでしまうと思う。

絵本を贈ってくれる人たちも、きっと同じような気持ちを少なからず持っていて、「絵本屋に絵本を贈るなんておこがましいけれど…」なんて丁寧に前置きしてくれる。前置きしながら、手渡してくれる。


わたしは、絵本屋のわたしに絵本を贈ってくれる人がいることを
不思議だなあと思いながらもとても嬉しく感じていて、実は少し救われている。

わたしが大人になってから絵本の魅力に気づいたのは、つい2、3年前のことで。その前は、幼少期の絵本時代を終えてから全くといっていいほど絵本に触れていない。小説や漫画の方が好きだった。

絵本は月に約160冊、年間2000冊以上もの新刊が出版されている。絵本屋を始めると決めてから、知識をつけるために沢山の絵本を読んだけれど、それでもまだまだ知らない絵本がある。わたしが知っているものなどほんの一部にすぎず、読んだことのある絵本はもっと少ない。

絵本屋を営む人は、子育てをひととおり経験した人や、保育や教育の現場で働いていた人、出版や書店関係の職に就いていた人が、それらの過程で絵本の知識を十分に得たうえで開業しているケースが多い。

わたしはいずれの経験も持ち合わせていなくて、そのことに引け目を感じる瞬間がたびたびある。

お客さんとのやりとりのなかで知らない絵本の話が出たとき、後ろめたさがある。大抵の場合は「まだ読んだことがないです、どんな絵本ですか。」などと明るく尋ねることができるけれど、
ときに絵本屋を名乗ってはいけないような、正しくないことをしているような、嫌な気持ちになるときがある。

プロでなくてはならない。店主として、商品を販売する者として、責任をもたなくてはならない。絵本に関して、お客さんよりも知らないことがあってはならない。
そんなことは到底無理で、知識の十分な蓄積を待たずに絵本屋を始めてしまったことを自覚しているのに、頭のどこかにはそんな自分がいる。「そんなんで絵本屋名乗っていいのか?」と問うてくる。


そんな嫌な気持ちから、わたしを掬い上げてくれるのが、絵本を贈ってくれる人の存在だ。

そういう人は、「わたしがその絵本を知らない、持っていない」ことを前提に絵本を贈ってくれる。(そしてやっぱり大概がわたしの知らない絵本なのだ。)

「わたしのお守りになっている絵本を贈るね」

と贈ってくれる人もいれば、

「さきちゃんのお守りになりますように」

という人もいる。

わたしがその絵本を知らないことを咎めることなんかなく、当たり前に知識や思い出を共有してくれる。
わたしはそれを読んで、知らなかったその物語を自分の知識や思い出にさせてもらっている。

「知らなくても大丈夫だよ」という、暗黙のゆるしに救われながら。



実は、それに付随してもうひとつ嬉しいことが起こっている。

わたしは貰った絵本のなかで、誰かにとってもお守りになりそうだと思ったら、同じ本を仕入れて絵本屋で販売している。そうすると、店頭に並ぶ絵本のなかには、それを贈ってくれた人の顔が思い浮かぶ作品が入り混じる。

その光景のなかに立っていると、自分ひとりで営む絵本屋だけど、自分だけのお店ではないと感じられる。

そばに居てくれる人たちのお守りが、または「お守りになりますように」という気持ちが、一緒くたになって絵本屋を構成してくれているような。

そんなふうに思うと、そのつながりが心強くて、勝手に涙が出そうになってしまう。

わたしに絵本を贈ってくれる人たち、ありがとう。

今日はそんな個別の感謝を込めて、noteを書きました。


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