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秩父鉄道SLパレオエクスプレスのラストランにたまたま立ち会えた話

・乗り物推し

我が家の2歳児はずり這いを始めた頃からだろうか、とにかく車輪の付いたおもちゃを好んだ。ブロックの車輪部品だけを延々と転がし続け、それを床に這いつくばって眺めるのが日課。その趣向は1歳を超え2歳を超えても変わらず、今では立派な乗り物好きに進化した。「はたらくくるま」「プラレールの歌」がテーマソングで、トイザらスに行くともっぱらトミカとプラレールから離れない。家の中にはトミカとプラレールとそれに準ずる様々なおもちゃが溢れ、絵本やぬいぐるみ、知育玩具などは殆ど見向きもされなかった。
そんな彼の最近の口癖は「でんしゃのりたい!」である。撮り鉄より乗り鉄寄り?などと微笑ましく見守っていられる時期は過ぎた。電車に乗りたい熱は日々沸々と滾り続け、つい先日所用で私だけが電車に乗った日には「まま、でんしゃのった??○○(名前)も、のりたかたな!」と繰り返し微笑みかけられプレッシャーを与えられる始末。しかし我が家は車移動がもっぱらで電車に乗る用事は殆どなく、また冬のこの季節に電車に乗るのもリスキーだよなぁと乗せてあげたい気持ちvs風邪を引きやすい子供の体質とを天秤にかけて悩む日々を送っていた。

・息子推し

以前、私はオタク気質であると書いた。始まりは好きなバンドを追い掛けるいわゆるバンギャであったがその後アイドルを追い掛けるドルオタも経験した。そして産後は世の中の親達の例に漏れずしっかり息子推しとして日々オタ活に励んでいる。
そんな我が家にはもう一人、もともとオタク気質ではないところから強火息子オタクとしてデビューした新規ハイの人間がいる。当たり前だが夫である。口を開けば天使、息を吸えばなんとイケメン、抱っこをせがまれれば父ちゃんはお前を愛しているぞとそれはもう暑苦しい愛に溢れる彼は、良く晴れた日曜日の朝に突如として思い付いた。

「秩父に行って蒸気機関車見せてあげようかな」

確かに私、子供が電車に乗りたがっているからちょっとお出掛けしない?とは言った。言ったが、私的には最寄駅から一駅だけ電車に乗って移動し、反対側に回ってまた最寄駅に帰ってくる程度の気楽さを考えていた。が、彼は違った。先日蒸気機関車のプラレールを手に入れてからそれを大事に抱えて楽しそうに遊ぶ我が子を見る彼の目は、現場TO(トップオタク)が推しの幸せを願う強い眼差しそのものだった。

・ノープランで行く!秩父鉄道の旅2019

その日曜日は2019年12月8日であった。元々計画をしたりその通りに行動したりを好まない夫の「秩父に行ったら蒸気機関車に乗れるらしい」程度のざっくばらんな情報で、私たち家族は家を出た。全てを電車移動…は流石に大変なのでとりあえず秩父まで車で向かい、そこで適当な駅から適当な蒸気機関車に数駅分乗ればきっと息子を満足させられるだろう…という大胆な目論見だ。この念密さなど微塵もない大雑把な行き当たりばったりプランニングは私が主担当なら絶対に有り得ないのだが、その反動もあってか夫担当の家族行事に限り一切手も口も出さずにウェイウェイで乗る。結果的に上手くいかなくても、家族だけなら上手くいかなかったが笑い話になるので細かいことを考えるのをやめたのだ。が、既にこの時このプランニングに納得できない人間が誕生していたことを、私たち夫婦はまだ知らない(どう読み解いても息子なのだが)。
前日の曇りと寒さが嘘のようによく晴れた紅葉の山道は、ドライブをするにはもってこいのロケーションであった。ほどよく気温も高めで風も無く、心配していた渋滞もない。道が混みすぎているようだったら別のプランに切り替えようと思っていたが、比較的スムーズに私たちは秩父に到着した。道中息子が「とーますらむねたびたい!!」「おちゃちゃあったかいのいや!!」などと癇癪を起こし爆泣きしスーパーマーケットに駆け込んだり、さぁ秩父駅だぞというところでスヤァ…といつもより早いお昼寝に入ったりしたが、子連れにとってはこの程度ならスムーズな行程と言って過言ではない。そして前述した通り秩父駅に差し掛かったところで子がお昼寝に入ったので(車での睡眠は平均1時間弱だ)予定を変更して秩父より先にある終点の三峰口駅まで車を走らせることにした。

・登場!SLパレオエクスプレス

12時50分頃、スヤァ…とお昼寝に入ったままの息子を乗せた車は秩父鉄道三峰口駅に到着した。思っていたより小さい駅だし車を停めるところは見当たらないし(後々よく見たら駅前にパーキングがあった)、蒸気機関車と共に目当てにしていた秩父鉄道車両公園も見当たらない。

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(Google マップによると駅の反対側にあるようなのに?)
不思議に思いながら辺りをキョロキョロしつつ、停まれる場所も無いから一度秩父駅付近に戻ろうかと車を切り替えしたところだった。突然、踏切が鳴ったかと思うと目の前に蒸気機関車が出現!ゆったりと動くその姿に、本当に走っていたと私が大興奮。

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(その瞬間の写真は撮り忘れたのでこちらはその後の写真)
しかし息子はまだまだ夢の中であったので、やはり秩父駅付近に戻って車を停め、また来るであろう蒸気機関車に乗って三峰口駅に戻って来ようと話が決まり、ササッとその場を後にした。

・まさかのラストラン

秩父駅に戻る道中に寄ったガソリンスタンドで息子が目覚めた。ちょうど近くに武州中川駅があったので、秩父まで戻らずここから電車に乗ろうという話になった。時刻表を見ると10分後にちょうど電車があり、それを逃すと次は一時間半後。秩父まで戻ってたら結構待ったかもね〜などと笑いながら駅のホームへ向かうと、お花の手入れをしていた駅員さんが話し掛けてくれた。

「14時過ぎるとここをSLが走りますよ。今日がラストランなんです」

へぇー、そうなんですか!
………ん?ラスト、ラン??

「そうなんですよ、今日を最後に1年ほどお休みに入ります」
「14時過ぎの通過が最後ですよ」

え、ええええええ?!そうなんですか?!?!

何も考えずに今日来たけれど、来週だったら蒸気機関車見られなかったんだね…とゾッとしつつ、お礼を言ってホームで電車を待った。時刻はまだ13時台、次の電車も13時台。あれ?14時過ぎってお知らせしてくれたって事は、次の電車はSLじゃない??ふと疑問が過ぎったが、それはホームに現れた普通電車にはしゃぐ息子の愛らしさに紛れた。

念願の電車に乗り最高にご満悦な息子と共に三峰口駅に着いた頃、蒸気機関車はちょうど転車台の上でゆっくりとターンをしているところだった。その後踏切より先まで進んでホームまで後退し、客車と連結した。全てがゆったりと進むその様は、まるでファッションショーのようだななんてぼんやりと思った。

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(客車と連結中?のパレオエクスプレス。飽きやすいはずの2歳児が金網によじ登りながらジッと見ていたので、やはり相当好きな模様)

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(大きな音で汽笛を鳴らした様子。あまりの音の大きさに驚いて息子の身体が漫画みたいに跳ねたのが面白かった)

ここで問題が発覚。近くで見るだけで満足させようと思っていた私たち夫婦であったが、そういえば息子は撮り鉄よりも乗り鉄寄り。蒸気機関車の先頭車両には目もくれず、一目散に客車に乗り込もうとする。しかしこの電車は武州中川駅には止まらないので、乗っていくことは出来ないよと説得するも、イヤだ絶対に乗るんやと大号泣。後から調べたところそもそもSLパレオエクスプレスに乗車するには専用の券が必要で、そしてその日は満席であったため乗り込む術は残されていなかった。しかしそんなこと2歳児には関係ない、目の前に大好きな機関車があるのだ、乗るしかないのだ、離せ、乗せろ、じょうききかんしゃのぃたぁーーーーい!!!!!
彼の絶叫も虚しく、SLパレオエクスプレスはゆっくりと三峰口駅を後にした。ホームで手を振る私達に、乗客の方々がニコニコと手を振り返してくれる。その様を鬼の形相で見る我が子を見ながら、次は私主体で計画して思う存分に乗せてあげようと心に誓った。

・奇跡的な遭遇

SLパレオエクスプレスが姿を消し不貞腐れる息子と共に次の普通電車に乗り込んだ。あっという間の蒸気機関車との逢瀬は、彼にとっては物足りない上に「乗りたかったのに乗れなかった」という辛さを残す思い出となってしまったようだ。また今度乗ろうねが通用しない2歳児に、ギャンブルツアーは合わなかったかもしれない。可哀想な事をしたような気もするが、その日撮った動画を見返すと楽しそうにはしゃぐ息子がたくさん映っていたので、プラマイゼロで許してくれ息子よ。
しかし後々調べてみると、そもそもこのSLパレオエクスプレスは運行日が週末と少しの平日しかない上に1日1本しか走っておらず、三峰口駅での停車時間も1時間弱(12:50着14:03発)と、非常にレアな遭遇率の電車であることが分かった。今回たまたまその時間に到着したから良かったものの、これがランチの為に途中休憩を挟んでいたりそもそも午後から出発などのプランを組んでいたとしたら、蒸気機関車が走る姿を見ることは出来なかったかもしれないのだ。その奇跡的なタイミングの良さに、私は密かに感動していた。後から調べたらすぐ分かるようなことばかりを何にも調べず行き当たりばったりでプランニングする夫だが(現に三峰口駅向かいの秩父鉄道車両公園は数ヶ月前から解体が始まり今は入れないそうで、その事はGoogle マップの口コミにて容易に確認できた)結果オーライで上手くいくことがあるので、ついてるな〜〜〜と感心する。プランニングにおけるストレスフリーでそれなりの結果をリターンできるの、普通に羨ましい。いいなぁ。一歩間違えば蒸気機関車は来ないし公園は無いしでわざわざ秩父まで行く意味なかったんじゃん?となっていたけれど(なんと恐ろしい)。

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