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4歳児と考えたアメリカ大統領選

文字に興味を持ち出した娘に、ご近所さんが庭の前に掲げているサインは何かと聞かれた。
「ヒトも、動物も草花も、仲良く平和に暮らしせるようにこの国のリーダーを決めるの。誰がいいか、おとなたちが選ぶんだけど、自分たちががんばって欲しい人の名前のサインをああやって外に飾って応援してるんだよ」

わたしの希望的観測を大いに込めて4歳児に説明したら、少し宙を見上げてからこう返してきた。
「コロナウイルスをはやくおわらせてくれて、みんなにナイスなひとがいい!!」
至極真っ当な意見過ぎて、のけぞりそうになった。レッツボートと娘とふたり、腕を振り上げてみたところで空回り感は否めない。私たちにはそもそも選挙権がないのである。

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これまでにない盛り上がりを見せながら、国外移住も検討させてしまう選挙戦2020


数週間前の初ディベート中継の間、アメリカ人の国外移住検索率はスカイロケット級に急上昇した。移住先の一位はニュージーランド。二位はカナダ。両国共にコロナの感染者が圧倒的に多いアメリカからの渡航は受け入れていないという皮肉な現実。あのディベートのレベルを見たらどちらが勝つにせよ悪夢だ。という人も少なくなかった裏付けでもある。さらにアクセスした人が最も多かった州は私たちが暮らすオレゴン州!

民主主義と自然を愛するリベラルな開拓民の終着点として例えられるオレゴンだが、その物理的行き場はもはや米国内では行き場をなくしてしまったのかもしれない。そんな風にも考えられるし、その開拓スピリッツは国境なんてものに縛られずに、2020年のいまも脈々と受け継がれている、とも捉えられる。

各ソーシャルメディアのリマインダー、YouTubeの広告、郵便物、街のサイン、何を見ても、開いても選挙、選挙、選挙の日々。これで投票しないなんて無理でしょ、と思わせられるほどの全方位から攻めな姿勢だが、前回の投票率はたったの55%だった。45%のあなたへ、その一票をどうかわたしに回してくれ、と切に願ってしまう。
とはいえ、正直、4年前の前回選挙の記憶があまりない。家族や友人とも選挙についていまのように話したようにも思えない。それは私が、なかなか寝ない上にはいはいを始めたばかりの赤子のお尻を追いかけ回していたばかりだったからではなく、彼が大統領戦に出ていること自体が飛んだジョークであり、まさか当選するとは冗談どころか、夢にも思っていなかったからだ。出来レースと高をくくっていたからこそ、開票後、夢から覚めても変わらない現実に言葉と感情を失い、ただただ真顔で泣いたのだった。

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街全体が鎮まり、個々は心を平静にするために、としばらく店を閉めたところも珍しくはなかった。重く広がる雲の下、喪に服したように静まり返ったポートランドではあったが、数週間を経てそこここに現れだしたのは「平等」、「博愛」、「インクルーシブ」等を謳ったサインの数々。雨後の筍のごとく生まれたその流れは、4年間、絶えず勢いを増して今のいままで来ている。"彼"が破茶滅茶な言動を繰り返すほど、拍車をかけて反対派の意識と団結が高まっているのは明らであり、 パンデミック以降、さらに水面下で蓋をされ続けてきた数百年のルーツを持つ、根深い問題の口火を切った。今まではパワーによって押さえ込まれてきた企業内の人種や性差別、格差問題へと派生し、白人リーダーたちがその座を去っていった。これらの点においては、現大統領の横暴ぶりの”おかげ”とも言える。4年という月日を長いと考えるか短いと考えるか。そしてその影響力はいかほどか。私は娘の成長と重ねずにはいられない。言葉を発することも、歩くこともできなかった娘が、いまでは”BLM”と自作の旗を振りかざしてマーチするまでに至っている。そういった意味では、現大統領だからこそ生じた分断からの目覚め、気づき、ムーブメントには感謝さえしている。

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何はともあれ、”日本にもあったらいいのに”な選挙の仕組み


オレゴンの選挙投票にまつわることで日本にもあったらいいのに、という点は大きく分けて3つある(アメリカは州によって選挙の仕組みもだいぶ違う)。

・ひとつめは郵便で投票を送ることができ(州によりけりだけどオレゴンは20年以上、郵送投票を実施)その期間が数週間に及ぶこと。

・ふたつ目は、投票するのは候補者だけではなく、議題項目にも直接、一票を投じられること。たとえば、図書館の質の向上と数の増加。プリスクールの無料化。公共交通機関の強化。医療用きのここの政策を実施するにあたって、どの収入層を対象に、どのくらい課税されるかまで記載されている。

・3つ目は100ページ以上にも及ぶ解説書が投票権を持つ1人につき一冊、送られてくること(該当範囲地区外も含まれるので実際には30ページほどか。それでも実に詳細でわかりやすい上、簡易版の解説用紙も別途ある)。候補者のプロファイルにアジェンダ。各議題においては、賛成派と反対派の意見がアノニマスに数ページにもわたりつづられていて、改めて双方の視座から長所と短所を読み取ることができるのだ。


私には投票権がない。ずっとそう思っていたけれど、ここまで書きながら、それは完全に勘違いだったことに気づく。この膨大な解説書をめくりながらはたと閃いた。いつもギリギリの夫の投票用紙を一緒に一つ一つ埋めていこうではないか。一票にはBLMのマーチを握りしめる娘も含め、我が家三人分の思いが込められている。

コロナ対策をしっかりしてくれる、誰にでもナイスな大統領に!

そんな4歳児の思いもしかと受け止めて、レッツボート。今度は振り上げた腕に幾分、手応えを感じた。


追記1:10・16日[金]時点、 開票日まで2週間以上、2200万人の人が投票している! これは16年の投票率の16%以上に上る。1908年の大統領選以来、最多の見込みだそう。

追記2:投票項目にYES or NOを決め兼ねている人に向けてスクラッチカードで答えを出すお手伝いをする、というフライヤーがきた。楽しすぎ。これについてもまたレポートしたい。


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