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キナリ杯特別リスペクト賞「生と死をかんがえる賞」/読書の秋2020「蜜蜂と遠雷(幻冬舎…

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キナリ杯特別リスペクト賞「生と死をかんがえる賞」/読書の秋2020「蜜蜂と遠雷(幻冬舎)」読書感想文受賞

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おじいちゃんの死が美しすぎた(当日編)

【おじいちゃんの死が美しすぎた(前日編)】はこちらからお読みください。 【前日編のあらすじ】 『おばあちゃんが亡くなって、たった50日後におじいちゃんが亡くなった』 おばあちゃんの五十日祭(納骨)に参加した"元気な"おじいちゃん。自分でテキパキと喪服に着替えるし、山の上にあるお墓にも自分の足で歩いて行った。おばあちゃんをお墓に入れるまでしっかりと見届けた。そして、兄弟や親戚、子どもたちに囲まれて楽しくお食事。和食のフルコース。大好きなお刺身から始まり、全ての料理を平らげ、

    • 折込チラシ

      毎朝届く新聞の中に、たくさんのチラシが入っている。同時に夕刊も、何食わぬ顔をして朝刊と一緒にいる。新聞配達屋さんは、一日に二度も山間の小さな集落には来てくれないのだ。 早朝に届く夕刊は、前日の日付のものだ。朝刊だってほとんど読まないのに、夕刊なんてもっと見やしない。 目的は新聞に挟まれているたくさんのチラシだった。大きさも紙の質も、印刷の仕方も多種多様。スーパーの特売日のお知らせや、欲しいおもちゃの広告など必要なものは事前に抜いておく。その後にやることは、チラシの裏が白い

      • 小学校

        日曜日に正門から堂々と小学校に入っている。 新しく建てられたばかりの小学校。真っ白な校舎と整備された人工芝のグラウンドが、陽の光を反射して輝いている。 土の上を裸足で駆け回るような運動場と違い、芝生のグラウンドはどことなく格式高い晩餐会を彷彿させる。土足では決して入ることのできないような、お下品な行動は慎むべきというような。グラウンドに一礼をし、マナーを守って丁寧な走りをするよう求められているような気がしてしまう。 傍にある水飲み場の蛇口は、まだ手付かずのようで銀色の光

        • お弁当

          お弁当を忘れた。朝余裕をもって起きて、お弁当箱におかずを詰めてランチバックにお箸と共に入れ、保冷剤まで入れたのに、忘れた。 帰宅したら玄関脇にランチバックが目立つように置かれていた。忘れないようにドアのすぐ近くに置いたのに、意味がなかった。 いつも高頻度で入れるミニトマトを入れてなくてよかった。暑くなってきたからトマトとかきゅうりなどの水分が多い生野菜は腐りやすくなる。昨日の残り物の新じゃがを煮たのとかいんげん炒めたのとか、熱を通したものばかりでよかった。今日の夕飯は必然

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        おじいちゃんの死が美しすぎた(当日編)

          自由

          まっさらな五線譜に、定規で縦に線を引いて小節を作り、左端に覚えたばかりの歪んだト音記号を鉛筆で描く。先生の言った通りに、ト音記号の隣に四拍子を表す4/4と書いたら、あとは自由に音符を書いていきメロディーを作っていく。仕上げに「ド」は赤、「レ」は黄、「ミ」は緑というように、音符に色を塗る。カラフルになるとノートから音の粒が飛び出してきそうだ。 音楽ノートをオレンジと黄緑色の蛍光色のリュックから取り出して、教室にある二つの木箱を離して置き、その上に赤い板をのせた簡素な作りの長い

          紙カルテ

          電子カルテなら便利なのにと思うのだけど、私の働いているところでは今も紙カルテを使っている。 独特で個性溢れる文字が読めなかったり(まるで現代版象形文字!)、過去の情報を探すのに手間取ったりデメリットはあるけれど、何気なく手に取ったカルテを見たら、自分のいない世界のことを考えてしまった。これがメリットになるのかわからないけれど。 片手でなんとか持てるほどの具がたっぷり入ったサンドイッチのように分厚いカルテ。全体的に黄ばんでいて、紙がよれたりすれたりしている。今にも雪崩が起き

          紙カルテ

          ミートソーススパゲッティ

          夕飯の献立に度々登場するものに、「スパゲッティ」があった。 スパゲッティとは、小麦粉でできた細長い麺を茹でた上に、ひき肉とケチャップで作ったソースをのっけたものだった。細長い麺は、シャープペンシルの芯よりは太く、HBの鉛筆よりは細い。給食で出てくるソフト麺よりずっと細い。 家でスパゲッティといえば、そのことを指していた。 茹で時間7分の麺を使い、茹でた後は油を絡める程度に軽く炒める。ソースは、みじん切りにした玉ねぎと冷凍コーンとひき肉とたっぷりのケチャップのみ。純喫茶に

          ミートソーススパゲッティ

          2021年、「きのう何食べた?」にハマるまで

          きのう何食べた?(通称:何食べ)ファンとして、ここで愛を語りたい。 11月3日に劇場版「きのう何食べた?」が公開される。それに向けて、一人で盛り上がりすぎているため、ひとまず落ち着くために書いているものです。 とはいえ、予告映像『胸キュン編』を観てしまうと、全く落ち着けませんね。 ご存知の方も多いと思うけれど、「きのうなに食べた?」とはよしながふみさんの料理漫画のこと。そして、西島秀俊さんと内野聖陽さんのW主演で、実写化されたテレビドラマのことも指します。 原作漫画も

          2021年、「きのう何食べた?」にハマるまで

          かわいい作品を創る人との出逢い

          これは年末のお話。 私は、時間をかけて髪を巻き、ヘアセットをしてから美容室へ向かっていた。 いちばん「かわいい」姿で。まるでこれから大好きな人とデートに行くかのように。 着いたらすぐにシャンプーしてセットは崩れるのに。カットとカラーをしてもらうだけなのに。 それでもかわいい自分で美容室の扉を叩きたいのにはワケがある。 そう思うようになったのは、今のスタイリストさん(男性)と出逢ったからだ。 なーんて、こんな文面で始めてしまったら、スタイリストさんに恋をしたからなんじゃ

          かわいい作品を創る人との出逢い

          音楽を食べて生きている-蜜蜂と遠雷を読んで

          音楽をやる上で「自分らしさ」が大切だと思ってきたけれど、「自分らしさ」とは何か言い切ることができなかった。 *恩田陸さん著「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)の読書感想文です。 音楽の哲学書に出会った「趣味はピアノ。クラシック音楽が好き。」 自己紹介の決まり文句だ。 ピアノを弾くことが好き。 ピアノを弾くことができる。 でも、それと同時に、「全然ピアノが弾けない。」 おい、さっき弾けるって言ったばかりだろ!と突っ込まれそうなので、説明すると たとえばYouTubeを観る。する

          音楽を食べて生きている-蜜蜂と遠雷を読んで

          「恨んでいいよ」と父から言われたあの日。10年経ってお返事するよ。

          「お父さんのこと、恨んでくれていいよ。」 18歳になったばかりの私に、父がそう言った。 2008年春、日曜日の昼下がり、自宅で子ども3人集められて父から離婚の話を聞いていたときのことだ。 そのとき隣で弟は泣きじゃくっていたけれど、私は表情一つ変えず、ただそこにいた。 それから10年以上の月日が流れ、今。 父のことが好きだと自信をもって言える。 誰が見ても仲がいい父娘。 今まで、いろんなことを言われてきた。 お父さんのこと恨もうと思わなかったの?どうして縁切らなかった

          「恨んでいいよ」と父から言われたあの日。10年経ってお返事するよ。

          おじいちゃんの死が美しすぎた(前日編)

          2019年11月17日(日)午前8時38分、おじいちゃんが死んだ。 私は死を看取ることができた。 おじいちゃんが亡くなる前日、私は地元に帰っていた。 前日の11月16日(土)は、おばあちゃんの五十日祭をする予定があったからだ。うちは神道なので五十日祭と呼んでいるが、仏でいう四十九日のようなものだ。 五十日祭は家で行う。親戚など20人集まり、祭事をした後、お墓に納骨しに行き、お昼はみんなで会食して終わる、という流れだ。 おじいちゃんはおばあちゃんが亡くなってから たった5

          おじいちゃんの死が美しすぎた(前日編)