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行く春

私は天井に止まる蠅を、一時間も面白く眺めてゐた。床にさした山吹の花を、終日倦きずに眺めてゐた。実につまらないこと、平凡無味なくだらないことが、すべて興味や詩情を誘惑する。
『病床生活からの一発見』萩原朔太郎

きょうは曇り。もう花曇りとは呼べない空だけれど、その色は過ぎる春を惜しむようにみえます。待っても花は戻らない、わかってる。と、失恋みたいな曇り空です。そういえば、季語には行く春、行く秋とあります。しかし行く夏、行く冬とはありません。同じく、春を惜しむ、秋を惜しむとはいいますが、夏を惜しむとはいいません。

春になると哀愁を感じ、秋は寂しいもの思いに耽る、あれはどこから湧くんでしょうね。感覚的なものなのか、よみがえる記憶からくるのか。

昔みた花を思い出したから、そのときの感情が蘇るのか。それとも寂しい気持ちになったから、昔ながめた花を思い出すのか。そんな記憶と感情の結びつきについて思いふけ、なつかしさに身をひたすのも、いまどきの季感でしょうか。行く春に。今日もいちりんあなたにどうぞ。

シロヤマブキ 花言葉「細心の注意」


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