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観劇 猿之助と愉快な仲間たち『ナミダドロップス』

キャスト

清日古 市川猿之助/帯刀 下村青/陽光 大知/翡翠 松雪泰子

スタッフ

脚本 藤倉梓/演出 市川青虎/音楽 SADA/スーパーバイザー 市川猿之助
原作 鶴屋南北『金弊猿島郡』/ヴィクトル・ユーゴー『ノートルダム・ド・パリ』

東京公演

神田明神ホール 2023年3月8日(水)〜3月14日(火)


市川猿之助さん率いる歌舞伎俳優さんたちによる演劇です。
恥ずかしながら、歌舞伎に関してはまったくの無知。女優の松雪泰子さんが客演で参加されると知ってチケットを取りました。当然ながら観客は歌舞伎ファンの方々も多く、終演後SNSを巡っているとファン目線での感想に新たな気づきや発見もあり、またひとつ知らない世界に触れることができました。

今回、私にとってはじめましての神田明神ホール。その名の通り神田明神の敷地内にあります。この日は天気が良く、春らしい気候。観劇前に参拝したり敷地内のショップを見たりと過ごすこともできて、立地は最高でした。

神田明神
お天気が良くてたくさんの絵馬もキラキラ

外階段をのぼって会場に入ります。
ロビーには、ファンから出演者へのメッセージが書かれた熨斗や絵馬が飾られています。事前に公式SNSなどで募集していて、参加するにはまぁまぁの金額がかかるのですが、どのメッセージもあたたかく、こんなふうにかたちにして役者さんを応援できる、それを来場者みんなで共有できるっていいなぁと開演前まで眺めていました。絵馬は、出演者の手書きメッセージが書かれたものも飾られていました。

松雪さんの絵馬

ホール自体は300名ほどのキャパ。最近は1000名キャパでの観劇が続いていたので、これほど舞台と客席が近い箱で、生の声でお芝居を観るのは久しぶりでした。後方列でしたが、舞台が近く、肉眼で役者さんの細かい表情までわかります。いい意味で、映画を観ているかのように、舞台のすべてが目の前に迫り、飲み込まれるような感覚でした。

物語は、現代劇と言いつつも舞台は戦乱の続く街。時代も国も(日本なのかな?)どこか曖昧で非現実的で、しかしそれがまたこの作品の雰囲気を創り上げているようにも感じます。
土地を治める権力者の帯刀(下村青)、帯刀に拾われた鐘撞き人の清日古(市川猿之助)、警備隊長の陽光(大知)。彼らが踊り子の翡翠(松雪泰子)をめぐって悲劇に巻き込まれていく。愛憎の物語、というのでしょうか。
清日古は青髪に奇抜な衣装。その個性的な容姿から、鐘楼堂に閉じこもり夜にだけ街を歩く孤独な暮らしをしていたが、街にやってきた「キサラギ舞踊団」の踊り子・翡翠に惹かれる。帯刀もまた、翡翠に心を奪われる。一方で、翡翠は恋人の陽光との再会を喜ぶ。その様子を見た帯刀は・・・

本作には、若手俳優たちの活躍の場を、という意図もあるようで、「キサラギ舞踊団」をはじめとして若手俳優さん方の歌やダンスを含む生き生きとしたお芝居も特徴的です。事前に見ていたリーフレットの顔写真ではあまりわかりませんでしたが、最も目を奪われてしまったのが市川翔三さん(後からお名前調べました)。1幕の途中で「あれ?なんかかっこいい人いるぞ?」と発見。アイドルのような綺麗な顔でスタイルが良く、赤髪もお似合いでした。

一方で、ベテラン勢が舞台を引き締めます。特に、初日レポートの舞台写真にも出ていましたが、清日古と翡翠が鐘楼堂で語り合うシーン。猿之助さんと松雪さんの2人芝居は、それまでの賑やかでダイナミックな演出から一転、青く焚かれた照明の中で、独特の雰囲気を醸し出していました。静かなのに想いが伝わり、それも決して暑苦しくなく、穏やかに見られるというか。猿之助さんの台詞のリズム、松雪さんの落ち着いた声のトーンがそうさせているのか、とても神秘的なシーンでした。

上演時間は1幕1時間、2幕1時間とコンパクト。1幕は翡翠の登場からある事件までを描く序章、2幕では先に書いた翡翠と清日古の交流からはじまり、クライマックスの猿之助さんの見せ場へと向かいます。
劇中の台詞、ただの酸っぱいレモンも甘露を注げば甘いレモネード。それを象徴するかのように、登場人物たちの立つ舞台に無数のドロップスが降り注ぎ、幕が降ります。

劇中にレモネードとタルトタタン(アップルパイ)が出てくるのですが、なんだか無性にその組み合わせが恋しくなったのは、作品のメッセージに感化されたからなのか、ただお腹が空いただけなのか…。
いろいろある毎日、たまには甘いもので癒やして頑張りたい。(本作はたぶんそういうメッセージではありません。笑)

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