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普通じゃないことが身近かもしれない可能性 【紗倉まな著:最低。】

32年間生きてきて、いまだに愛や恋や性のことはよくわからない。
何が正解なのか、どういうのが賢いやり方なのか。

AV女優、という仕事がある。
騙されて撮影に臨まされた、とか、お金に困ってどうしようもなく、とか、とかくよくないイメージを抱かれがちな仕事のように思う。
(もちろん、そういう境遇の人も実際にいて、騙したり搾取したりする人は許されないと思うが)
ただ、AVを観ない私でも名前を知っている女優さんが何人かいて、彼女たちは誇りを持ってAVの仕事をしているように見える。
「私もなりたい!」というのとは違う方向性ではあるけれど、彼女たちの誇り高い姿には憧れを抱くし、美しいと思う。

そんな女優さんのひとりである、紗倉まなさんの著作「最低。」を読んだ。
4人のAV女優とその周辺の人を描いた連作短編小説だ。

4人の女優には、それぞれの目的や考えがあり、人生がある。
彼女たちなりの原理原則があって、それに基づいた行動がある。
カメラの前で性行為をし、それを不特定多数の人に観られるということは、私の人生においては普通のことじゃない。
彼女たちも普通だと思っていた訳ではなさそうだ。
それでも、それぞれにきっかけがあって、その仕事を始める。

私と彼女たちに、どれほどの違いがあるだろう?
私は絶対に、何があってもその仕事をしないと言い切れるだろうか?

もし、私がAVに出演することになったら、どんな理由で出演するだろう?
もし、私の家族がAVに出演していたら、どう接するだろう?
もし、夫や家族に私がAVに出演していることが露見したら、どうするだろう?
もし、出演後に恋人ができたら、どんな恋愛やセックスをするだろう?
もし、AV女優を扱うプロダクションに勤めることになったら、どんな思いで仕事をするだろう?

そんな、たくさんの「もしも」の選択肢を空想している。
「最低。」を読み終わった私には、どの選択肢もありえないことだとは思えない。

こうして、読む前までの人生では遠かったことが近くなるのは、喜ばしく豊かな気持ちになることだ。

32年間生きてきて、いまだによくわからない「愛や恋や性」のことを、新しい目線から見てみることができそうだ。

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