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伝統芸能における新型コロナ感染対策について。

人形浄瑠璃文楽の太夫、豊竹咲寿太夫です。

コロナウイルスが蔓延して一年が過ぎました。

ここでいちど、感染対策としてどのようなことをしているか、まとめておきたいと思います。


◼️公演中の対策


人形浄瑠璃文楽が他の大きな劇と違うのは、演者だけで80から90人ほどいる団体の全員、メンバーが変わることなく各地の長期公演を回っているというところです。


歌舞伎や宝塚はそれぞれ「家」や「組」で各公演出演するメンバーが変わってきますが、文楽に関して、長期公演でそのようなことはありません。

登場人物1人を演じるためだけでも太夫1人、三味線1人、人形遣い3人が必要なため、絶対人数が多いのです。


そんな大勢が一堂に会する公演で、どのような対策がとられているか、ご参考いただければ幸いです。

また、現在の段階で、公演におけるクラスターは演者お客様双方に発生していないことを付け加えておきます。



・楽屋側、劇場の対策


まずは我々が楽屋入りする際の変化をパンデミック以前と以後で比べてみます。

まず建物自体に入る際、体温を測定します。

これは現在あらゆるところで行なっている対策かと思います。

非接触型の体温測定器で、正常体温であれば通れます。そのまますぐ隣にある消毒液で手を消毒します。

もちろんマスクは必須です。

エレベーターに乗れるのは基本的に4人までです。

私などは階段で楽屋階に上がります。


そして、楽屋口で楽屋番さんが控えていらっしゃって、楽屋入りする演者のリストをチェックしています。また、そこで検温と消毒を行います。

パンデミック前、楽屋番さんのお仕事はというと、師匠方の草履を用意し、履き替えた靴を直されたり(我々若手はもちろん自分でします)、楽屋に尋ねて来られるなじみのお客さまの応対をしたりされていました。

現在、どのようなお客さまも、メディアの方も楽屋に立ち入ることは禁止となっています。

さらには、師匠方のクラスの方々であっても、奥様も立ち入ることができなくなっております。

反対に、我々演者や番頭などがロビーに立ち入ることは禁止となっております。


廊下には各曲がり角に消毒液が設置されています。

楽屋に入ることができる人数は楽屋面積から計算され、制限されています。

楽屋の中にも消毒液があります。また、楽屋内での食事は禁止です。


舞台面では、舞台に上がる前に関取の方々と同じように塩をまくという願掛けをしておりましたが、禁止となりました。

舞台道具、特に見台は飛沫が飛んでいるので、基本的に各々個人個人で消毒をします。

見台に乗せる床本は、大勢が出演する並び物の場合、以前までは舞台上の様式美を意識し床本は見台の上に置いたまま、太夫は何も持たず舞台からはけていましたが、床本も飛沫感染の恐れがあるため、個人個人で舞台上から持ち帰ることとなりました。

人形遣いの黒子、左遣いと足遣いに関しては黒子の頭巾の下にフェイスガードを忍ばせています。初期、マスクを着用しての実験が行われましたが相当な運動量になり、過呼吸や呼吸困難の恐れがあるため、フェイスガードになりました。


また、舞台の裏方の皆さんとは廊下で接触することのないように、通路が分けられました。


現在、長期公演は三部制でひとまず落ち着いており、各部、自身の出演の演目並びに師匠の出演の演目時以外に特段の用事がない限りは楽屋での滞在は認められてません。

舞台前に各楽屋を回っての挨拶、舞台後の挨拶、廊下に並んでの挨拶も禁止となりました。



以上が現在、我々演者の楽屋側での対策となっております。



次回、演者の稽古時などにおける感染対策と、客席における感染対策を記述したいと思います。



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