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ヒトラーのユダヤ人とドイツ人の定義

今日のおすすめは!

2冊の典拠となる智から、ヒトラーのユダヤ人とドイツ人の定義を読み解いていきます。


*『ヒトラーとは何か』
セバスチャン・ハフナー著

著者セバスチャン・ハフナーとは…

・教養を備えたドイツ人なら知らない人はいないと言われている、ビスマルクからヒトラーまでのドイツ現代史を語らせたら右に出る者はいないと言われている稀代のジャーナリスト
ヒトラーが政権を獲得して頂点へと上り詰めていった時代を生きていた

・セバスチャン・ハフナーは、ペンネームで、セバスチャン・バッハとモーツァルトがザルツブルクの貴族ハフナー家の為に作曲した「ハフナー・セレナーデ」「ハフナー・シンフォニー」からとっている。

・この著書『ヒトラーとは何か』は晩年に書かれた古典的名著とされており、『魔の山』の作者で知られるトーマス・マンに「卓越した分析力」と賞賛し、ヒトラー伝で有名なヨアヒム・フェストも「この瀟洒しょうしゃ(すっきりしてあか抜けている事)な一冊が世にあふれるヒトラー本の山を一掃してくれる」と脱帽している。

*『ホロコースト ナチスによるユダヤ人大量虐殺の全貌』
芝健介著



*ヒトラーのユダヤ人の定義


Q ヒトラーのユダヤ人の定義は?

A

  • ユダヤ人は宗教共同体ではないとはっきり言い切っている。
    しかし、理由は一切説明せず、執拗に繰り返している。

  • 宗教共同体ではないのだから、宗教を捨てても安心はできない。

  • アーリア人と結婚してユダヤ人種から抜け出すと、アーリア人種が墜落して、生存競争に必要な資格が失われてしまう。

*ちなみに

ヨーロッパは19世紀から20世紀の転換期に、多産多死から少産少子化への人口革命を経験した。
ドイツでは、乳幼児死亡と出生減少の問題を抱え、人口の質の保持、改善を考える優性学的な「人工衛生学」の中から、第一次世界大戦による戦力確保の課題から「量」の確保も求められ、「戦時多産推奨」政策を優先させるようになった。

戦争の逼迫した中で、乳幼児死亡についての考え方が
「全体を犠牲にして劣等者を成人にならせることも許しえない
来たるべき新国家に座を占めるのは壮健な者だけだからである。」
と変化していく。

世界恐慌以前から公的支出の増大と予算の制限という現実に直面していた
中央・州政府は、
「乳幼児死亡は一つの淘汰である。
乳幼児ケアがたとえ十分に行われたとしても、それはこの劣性を改善できるにすぎず、劣等者を正常な人間にすることはできない。」
と語るアーダルベルト・チェルニー医師のような考えから、財政の合理化と簡素化を進めた。 

その即効的解決として「断種・不妊化」を挙げ
①「優生学的教育によって結婚および家族形成に影響を与える」
②「遺伝的に負荷を負った者の数を減らす
③「遺伝的に健康な家族の保護をする」
という3つの重要施策を提案した。

この流れはユダヤ人を排除し、抹殺していく考えに通じている。


〈法律上でのユダヤ人定義の変遷〉

①1933年 「職業官史再建法暫定施行令」の第2条。 
「非アーリア人とは、非アーリアの、わけてもユダヤ系の両親、祖父母の系統を引く者で、両親・祖父母のうち一人が非アーリア人であれば十分である。
特に両親の一人あるいは祖父母の一人がユダヤ教徒であればユダヤ人とみなしうる。」

→キリスト教徒とユダヤ人の結婚を「異宗婚(ミッシュエーエ)」、
そのカップルから生まれた子を「混血児(ミッシュリンゲ)」
差別化したが、ナチ党関係者の縁戚にもこれらは少なからず存在したため、対応に苦慮した

②1935年 「ニュルンベルク人種法」
祖父母4人がユダヤ人→ユダヤ人
祖父母3人がユダヤ人→ユダヤ人
祖父母2人がユダヤ人→「2分の1ユダヤ人」(第1級混血)
祖父母1人がユダヤ人→「4分の1ユダヤ人」(第2級混血)

「4分の1ユダヤ人」をユダヤ人に組み入れようとするとドイツ人縁戚が膨大にいるため、慎重だった。
この「○分の△ユダヤ人」というにはこの法を通して公用語になり、さらに差別化が進んだ


〈ヒトラーの人種についての考え〉

  • ヒトラーは反ユダヤ主義を理論的に説明し、さらに合理的に実現する為に「人種」と「人種間の戦い」について語っている。

  • 「人種問題こそは世界史の鍵である」「唯一最高の人種が支配民族として」「民族の人種的価値」と語っているが、
    「人種」について定義しておらず、人種と民族を同じ意味で使ったりしている。

  • 当時ユダヤ人がひとつの人種なのか、それともひとつの民族なのかヒトラーは決めかねていた。

  • 世界を支配する人種が、アーリア人種なのか、ドイツ民族、ゲルマン民族なのか、ユダヤ人を除く白色人種なのか、ヒトラー自身はっきりと分かっていなかった。
    また、白人、黒人、黄人の違いには興味を示さなかった。

  • ヒトラーの時代になって、白色人種を顔立ちによって、
    ゲルマン人種、ロマン人種、スラブ人種などと区別して呼んだり、
    骨格や頭蓋骨の違いで、北欧人種、地中海人種、アルプス人種、ディナル人種などと呼ぶようになり、そこには様々な偏見や根拠の無い価値観が混ざっていた。

  • ゲルマン人種や北欧人種のほうがスラブ人種や地中海人種よりも上等に見られていた。

  • ユダヤ人を「劣等人種」「人種が違う」「インターナショナル的(世界規模)」という二重の意味でも使用していた。

  • 反ユダヤ主義について詳しく述べた著書の中で、ユダヤ人のことをユダヤ民族とよぶ場面がある。

  • 「「国際ユダヤ国家」は他の全ての国家の敵であり、ユダヤ人はあらゆる手段を用いて、世界中の国々を情け容赦なく撲滅する。
    あらゆる手段の外交的手段とは、平和主義、インターナショナリズム、資本主義、共産主義、国内的には、議会主義、民主主義を用いる。
    これらは、国家を弱らせ破壊するための手段であり、汚い手段なので絶滅させる必要がある。」と語っている。

*ちなみに

第一次世界大戦敗北後、ヴェルサイユ講和条約によって戦争責任を負わされたドイツでは、
次の戦争では絶対に負けることができないをいう焦りから、
勝利のためには何をやってもよい、民族の敵、国家の敵、非国民を容赦するなという論理がまかり通るようになっていた。
  • ユダヤ人の目的は、アーリア民族が生存圏獲得闘争に邁進するのを妨げて、その勢力を弱らせる事であると考えた。

  • ユダヤ人以外の民族は、自分たちの生存圏獲得闘争に邁進する為に一致団結して、ユダヤ人を排除しなければならない。

  • 1848年、フランスの二月革命の影響を受けたドイツやオーストリアの三月革命をリードした自由主義者や急進派には
    ユダヤ人が多く、彼らは「ユダヤ人解放」を目的の一つに掲げたため、
    保守的な人々はユダヤ人を体制の破壊者として見るようになっていた。

  • 当時急速に普及しつつあった新聞などのジャーナリズムにはユダヤ人が多く、「新聞はユダヤ人のもの」という右翼によるメディア批判が行われていた。

  • 自分が唱える反ユダヤ主義が、世界中から支持され、ドイツに有利に働く、反ユダヤを世界中に広められると考えていた。

  • ヒトラーが反ユダヤ主義を掲げ、実際にユダヤ人迫害が始まった際、ドイツ国民は恐怖と驚愕にかられた。
    普段からユダヤ人に反感を持つ人々ですら、ヒトラーが流布するユダヤ人脅威論や偏見妄説にはついていけなかった。

  • ユダヤ人が、居住する祖国の為に命も惜しまないと言っても、
    「金と宣伝の力で自ら支配者にのし上がってしまう」から見過ごしてはならないとした。

*ちなみに

ドイツに居住するユダヤ人は、「ユダヤ人はドイツに恋狂いしている」とあきれ顔で言われるほどの最も熱烈な愛国主義者であった。

1916年10月11日、プロイセン陸軍省によって
「ユダヤ人は戦時利得者であり、ユダヤ人は祖国のために戦っていない」
という非難に証拠付けをする為に「ユダヤ人統計計画(ユダヤ人サンセス)」を行った。

志願兵、戦死者、被顕彰者、兵站(へいたん)部勤務兵(作戦に必要な物資の補給や整備、連絡等にあたる機関。)などの
ユダヤ人の数だけを徹底調査する偏向した作為的なものであったが、
結果は目論見に反して、祖国へのユダヤ人の忠誠が明らかになる結果だった。
  • ヒトラーに最も苦しめられた東方のユダヤ人の大半は、ヘブライ系ではなく、元来ボルガ河とカフカズ山脈の間に居住していた「トルコ系カザール人の末裔」だと明らかになっている。

*ちなみに

ヒトラーが取り付かれる原因になった東ヨーロッパの反ユダヤ主義に「根絶論」は存在していなかった。

・東ヨーロッパでの反ユダヤは「陰謀説」ではなく、東ユーロッパにのみまとまった異民族として住み着いているという事情から来る嫌悪感であった。
反ユダヤ主義が起こっても、「宗教的反ユダヤ主義」という宗教的な性格のものであり、あくまで改宗させる事が目的であった。

・ヒトラーが行ったのは職業選択・交際・居住・結婚の自由等の権利を奪う
「人種的反ユダヤ主義(アンティ・セミティズム、反セム主義)」であった。

・ユダヤ人差別で、職業は高利貸ししか許されていなかったが、憎悪から金貸しをいじめた事で、19世紀半ばにユダヤ人解放が進み、迫害を逃れる為に多くのユダヤ人は別の職業に就くようになった。
医者、弁護士などユダヤ人エリートや成金達は重宝され、称賛を浴びると同時に、嫉妬や反感の種になった。
しかし、根絶やしにしてしまえば良いという考えまでは生まれていなかった。
*ちなみに

当時のユダヤ人社会は過去3000年の歴史でもかつてなかったほど内部分裂していた。
なので、ヒトラーの言うような「陰謀論」どころか、共通の目的すらなかった。

・ユダヤ教の伝統を守ろうとする派と宗教の束縛を脱して近代的な世俗化に向かおうとする派の分裂
・同化主義とユダヤ復興主義(シオニズム)の分裂
・ナショナリズムとインターナショナリズムの分裂
・ドイツ系ユダヤ人は、貧しく不潔であるイメージがあるロシア・東欧のユダヤ人を「東方ユダヤ人」として区別したがっていた。


*ヒトラーのドイツ人の定義

Q ヒトラーのドイツ人定義は?

A

  • オーストリア、スイスのドイツ人

  • 「ドイツ語を話す圏」「ドイツ入植地」で生活しているドイツ系民族。

  • エストニアやラトヴィアのバルト・ドイツ人のように、中世におけるドイツ騎士団の遠征、東方進出や征服、植民活動を起源とする人々。

  • 圧倒的な非ドイツ系民族のあいだに定住した人々。

  • 中欧、東欧、バルカン各地域に生まれた人々。

→ナチスは彼らをドイツ領域内に移住させようとし、その空きスペースを設ける為に、ヴァルテガウからはユダヤ人とポーランド人が強制立退きを命じられた。




*ユダヤ人の定義について曖昧だが、反ユダヤを提唱し抹殺していくヒトラー。
ユダヤ人はドイツを祖国として熱狂的に愛し、戦争にも多大な貢献をしていたが、ドイツ人は異民族が住み着いているという嫌悪感を募らせていく。
戦勝国になる為にならば何をしてもよいという風潮になっていくドイツと、根絶論を提唱するヒトラーに戸惑うドイツ国民。

*ヒトラー研究の第一人者のセバスチャン・ハフナーの分析はいかがだったでしょうか?
数あるヒトラー本の典拠として扱われる本著を是非手に取ってみてください!


*それでは次回「ユダヤ人犠牲者数」の記事でお会いしましょう!


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