第28回 セクハラに悩む欧州の警察(ヨーロッパ女性警察官ネットワーク)
わかりやすいデザインである。
警察にあたる「POLICE」のアルファベットO(オー)に、オスマークとメスマークを抱き合わせた。いやらしい目つきで言い寄るオスマーク、迷惑顔のメスマーク。左上には道路標識の「ストップ」。
初めて見たのは20年前だが、表現の簡素さには、いつも感嘆してしまう。これなら、どの言語の人にも「男性警察官よ、同僚へのセクハラをやめろ」という警告だとわかる。
作成者はオランダの風刺漫画家アレン・ヴァン・ダム。世界的な授賞歴がある著名人らしい。さぞギャラは高かっただろう。
依頼主は「ヨーロッパ女性警察官ネットワーク」。ヨーロッパ諸国の男女平等と女性警察官の地位向上を目的にした非政府機関で、1989年にオランダのノールトウェイケルハウトで開かれた女性警察官世界会議で結成された。
このポスターは、創設から4年後の1993年12月にオランダで開催される「ヨーロッパ警察署内セクシャル・ハラスメント対策」会議のために作成された。オランダ自治省が財政的に援助をし、欧州連合EUも協力した。EU加盟国の警察官と各国政府代表が公式に参加した、史上初の国際的セクハラ対策会議だった。
会議では、各国から女性警察官へのセクハラ被害が発表された。たとえば、イギリス政府による国内全警察署内セクハラ実態調査によると、しばしばセクハラにあっている女性警察官は59%、1度はセクハラを経験した女性警察官となると99%にも上った。
開催国オランダの自治大臣は、「セクハラ被害の多さは警察が『男の世界』だったことの証拠。女性警察官の増員が必要だ」と力説した。
「ヨーロッパ女性警察官ネットワーク」の合言葉は「Quality through Equality平等を通じて質の向上を」。
クオリティとイクオリティを並べただけだが、韻を踏んでいるところがお洒落だ。
代表は2年ごとに選挙で決まる。現代表は、スペインのバルセロナのモンセラ・ピ―ナだ。就任にあたって「私は女性であることで性差別を受けた。しかし今やヨーロッパでは警察官全体の30%から40%が女性となった。女性を警察官や幹部にもっと増やして、警察の世界に新しい視点を入れたい」と語っている。
人身売買や性産業での被害女性の救出から、難民の家族内暴力への対応まで、女性警察官の国境を越えての出番は、確実に増えている。
さて日本だが、最新の調査では女性警察官は全体の7・7%だとか。警察庁や警視庁が、警察官のセクハラ被害調査をしたというニュースは、まだ聞かない。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2015年9月10日号)
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