叫ぶ芸術 ポスターに見る世界の女たち

I女のしんぶんの連載記事「叫ぶ芸術 ポスターに見る世界の女たち」。三井マリ子さんが集め…

叫ぶ芸術 ポスターに見る世界の女たち

I女のしんぶんの連載記事「叫ぶ芸術 ポスターに見る世界の女たち」。三井マリ子さんが集めたポスターは世界各国で女性解放や男女平等推進のための貴重なコレクション。それぞれの国で女性解放運動や男女平等推進の広報に使われました。※画像のみの転用や、無断での二次利用は固くお断りいたします。

最近の記事

第134回 WenDoで自分を守り闘う力をつける(ポーランド)

「なんてすばらしい! 日本語はよくわかりませんが、女性たちをとりまく問題は、一目でわかります。女性の怒りは世界共通ね」 当コラム『叫ぶ芸術—ポスターに見る世界の女たち』 をWebで見たポーランドのスワヴォーミラ・ヴァルチェフスカという女性から、メールが届いた。2018年のことだった。 スワヴォーミラは「クラクフ女性センターeFKa」の館長だった。古都クラクフは一度訪ねてみたいと思っていた。2019年3月、私はポーランドに飛んだ。 ■ 「クラクフ女性センター」は、199

    • 第133回 比例代表制の威力(ベルギー)

      2024年6月9日、ベルギーで国会議員選挙があった。女性は国会(下院)150議席のうち64議席を占め、42・7%となった。 30年前の1994年、ベルギー国会の女性議員は9%だった。私は当時、EU委員会の招待を受けて加盟各国を回った。9%は、EUの首都ベルギーとしては赤面すべき事態。解決すべく、ミット・スミット雇用・平等政策大臣が、女性議員を増やす法案を議会に提出中だった。彼女の秘書ミケ・ドゥヴリガーさんは語った。 「ベルギー史上初のクオータ制を定めた法の誕生です。いいタイ

      • 第132回 今も昔も「封建制の呪縛」(日本)

        2012年6月、東京の立川市でポスター展・講演会「ポスターに見るノルウェーの女性、日本の女性」があった。ノルウェーのポスターが主だったが、日本政府が作成したポスターも少し展示されていた。国分寺市議の皆川りうこさんが口を開いた。 「ノルウェーの作品からは女たちの叫びが聞こえてきて、三井さんの言う『ポスターは叫ぶ芸術』だと納得できます。でも、こっちからはいくら耳を澄ましても何も聞こえてこない。これは例外ですが…」 「こっち」とは日本のこと。そして「これは例外」は、本日の1枚で

        • 第131回 わが子を売られた奴隷は叫んだ(アメリカ)

          アメリカの最も偉大な女性解放運動家、黒人解放運動家は誰か、と聞かれたら、私は躊躇なくソジャーナ・トゥルース(1792?—1883)をあげる。ポスターからこちらを見ている女性だ。 ニューヨーク州アルスター郡のハドソン川のほとりに生まれた奴隷で、イザベラと呼ばれた。1827年、ニューヨーク州が奴隷制を廃止するまで、5人の主人に売り買いされた。オランダ人入植地で育った彼女は英語が話せず、ミスが目立ち、毎日、激しく殴られた。 20代の頃、男性奴隷に恋をして子どもを何人かもうけたが、主

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          第130回 収入の3分の2を弱者に寄付する市長(オーストリア)

          オーストリアで、首都ウィーンに次ぐ第2の都市グラーツは、人口30万。大学、美術館、オペラハウス、古城。その美しい街は世界遺産に指定されている。 このグラーツの市長エルケ・カーが、2023年世界市長賞に輝いた。「市議会議員および市長として、市と住民に対する無私の献身」と評価された。 国の中では裕福な都市だが、当然、貧しい人たちもいる。市長エルケ・カーも移民の多い地区で錠前屋の娘として育った。商業高校卒業後、銀行で働きながら、夜学に通った。 エルケは、幼い頃から「団結と社会

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          第129回 海の向こうのトランプに反撃!(フランス)

          3・8国際女性デーに向けて、4日前の3月4日、フランスのヴェルサイユ宮殿で両院議会が開かれ、人工妊娠中絶権を憲法に明記する議案が可決された。 その生中継が、セーヌ川対岸にエッフェル塔を望むトロカデロ広場の巨大スクリーンに映し出された。 国会議長ヤエル・ブロン=ピヴェ。マクロン大統領派の政党「再生」に属する彼女は、木槌を振り上げて、「賛成780、反対72」の大差で憲法改正が決まったことを告げた。議場はスタンディングオベーション。ほぼ同時に、トロカデロ広場にあふれる市民たちも

          第129回 海の向こうのトランプに反撃!(フランス)

          第128回 ボーヴォワールを忘れない(クロアチア)

          1月9日は、『第二の性』の著者シモーヌ・ド・ボーヴォワール(1908—1986)の誕生日だ。そして、「女性の自由のためのボーヴォワール賞」の授与日でもある。 2024年の同賞は、コートジボワールのマリー・ポール・ジェグ・オクリが受賞した。アフリカのフェミニストで、農学者。「女性の権利のためのコートジボワール連盟」を通じて、女たちのための農業の手法を開発し、提供している。女たちが野菜を生産販売して得たお金は、子どもたちの教育費となり、それが新たな解放を生み出しているという。ボー

          第128回 ボーヴォワールを忘れない(クロアチア)

          第127回 男女平等教育こそ平等社会への道(フィンランド)

          フィンランド女性は1906年に参政権を獲得した。ヨーロッパでは最も早かった。 かれこれ30年ほど前、私はヘルシンキにある「フィンランド女性会議」(1911年創設)を訪問した。同会議幹部たちから「女性参政権を世界で最も早く獲得したのはニュージーランドと言われていますが、原住民のマオリ族には参政権を与えませんでした。ですから、我が国こそが世界初なのです」と聞かされた。 さらに、こうも言った。「フィンランド女性は、男性と同じ年に参政権を獲得したので、世界で最もジェンダー・ギャップ(

          第127回 男女平等教育こそ平等社会への道(フィンランド)

          第126回 移民難民を受けとめる バイキングの末裔たち(ノルウェー)

          2023年9月18日夜7時半、ノルウェーに移住してきた大人たちにノルウェー語を教えるローセンホフ成人学校を訪ねた。分校も含めると教職員約180人、生徒約2000人。「世界最大のノルウェー語研修センター」だ。100年以上も昔にオスロの小学校として建てられ、ナチスドイツ占領時代は、親衛隊の本部・兵舎に使われた。 210番教室に入ると男女14人が座っていた。担任のビヤーネ先生が小声で言った。「出身はアジア、アフリカ、中東など全世界です。個人情報は、母国の当局と生徒とに悪影響を与える

          第126回 移民難民を受けとめる バイキングの末裔たち(ノルウェー)

          第125回 男はみんなこうしたもの(ドイツ)

          これは、ドキュメンタリー映画*『不屈の女たち』(2021)のポスターだ。古めかしい演壇に真っ赤なバッグ。ドイツを象徴する鷲は、なぜか右を向いて笑っている。 ジャーナリストのトルステン・ケルナー(1965〜)が、ドイツ連邦議会に挑んだ女たちの闘いを映像で描いた。 はじめに、ドボルザークの『新世界』が流れる。指揮は“マッチョ”のカラヤンだ。男だらけの楽団、内閣、国会、マスコミ…黒ずくめの「旧世界」を皮肉ったのだろう。 ケルナー監督は映画について「誰もが恥ずかしいと思って見てほしい

          第125回 男はみんなこうしたもの(ドイツ)

          第124回 性的搾取を許さない町へ(スペイン)

          この9月、私はノルウェーで地方選挙を現地取材していたのだが、思いがけなく、親友が「航空券をプレゼントするから数日間アリカンテに遊びに行こう」と誘ってくれた。オスロから直行便で3時間半。生まれて初めてのスペインだった。 スペイン・バレンシア州アリカンテ県アルテア。コスタ・ビアンカ(白い浜辺)がどこまでも広がる地中海沿いの町だった。「ノルウェーの1年の半分は白黒の世界でしょ。そこからカラーの別天地にやってくると、わくわくするのよ」と友人は言った。 ■ 滞在3日目だった。バス

          第124回 性的搾取を許さない町へ(スペイン)

          第123回 「死に票なしの社会」とは(ノルウェー)

          民主主義度世界一といわれるノルウェー。その地方選を取材するため、今オスロにいる。 1カ月間の長い事前投票を経て、9月11日(月)が投票日。政党の選挙ポスターがあちこちにあったのだが、翌12日にはウソのようになくなった。以前と違って電子掲示板なので、ボタン操作ひとつで消されてしまう。 ■ このポスターは、社会民主主議を標榜する労働党のもので、「若者たちに毎夏6000のアルバイトを約束します」とうたう。若い男女5人に囲まれた男性はレイモンド・ヨハンセン。2期8年間、オスロ市政を主

          第123回 「死に票なしの社会」とは(ノルウェー)

          第122回 「ウィシュマ事件」とミラ・センター(ノルウェー)

          「姉のウィシュマは、治療を受けていたら、35歳になって今も生きています。救急車を呼ぶこともしなかった卑劣な入管行政。その恐ろしさは言葉では言い尽くせません」 8月7日、参議院議員会館101号室。33歳で亡くなったスリランカ人・ウィシュマ・サンダマリの妹ワヨミは、怒りを込めた言葉でそう訴えた。もう1人の妹ポールニマも言った。 「こんなむごい人権侵害を国家機関が実行したことに、日本のみなさんは目をつぶっているのですか」 ■ ウィシュマは、日本語学校の学生だったが、学費を払

          第122回 「ウィシュマ事件」とミラ・センター(ノルウェー)

          第121回 男性ホルモンに毒された屁理屈で戦争は始まる(アメリカ)

          1945年8月6日広島原爆、8月9日長崎原爆、8月15日終戦。8月、私たちは憲法9条を手に反戦を誓う。 アメリカの反戦運動団体「コード・ピンク」は、なかなかのやり手だ。彼女たちがつくったポスターの「戦争やめよう、楽しいことしよう」というスローガンは、1960年代の「Make love Not war」をひねったものだろう。 「コード・ピンク」という名も、ひねりが効いている。2001年の9・11同時多発テロ後、ブッシュ政権はアフガニスタン・イラク戦争に突入。国土安全保障局は、コ

          第121回 男性ホルモンに毒された屁理屈で戦争は始まる(アメリカ)

          第120回 立ち上がれ10億人の女たち(クロアチア)

          クロアチア、首都ザグレブ。2009年4月2日、夜8時。アメリカの劇作家イヴ・エンスラー本人が登場して『ヴァギナ・モノローグ』の幕が開いた。女性への性暴力根絶をめざす一人芝居だ。 ポスターに描かれているのはタンポポの綿毛ではない。ヴァギナ、女性器である。イヴ・エンスラーがクロアチアにやって来たのは、この国にラダ・ボリッチがいたからだ。このポスターを私が紹介できるのも、ラダ・ボリッチがクロアチアからポスターを持ってきてくれたからだ。 ■ 旧ユーゴスラビアから独立したボスニア

          第120回 立ち上がれ10億人の女たち(クロアチア)

          第119回 夏だ、女のキャンプだ、フェム島だ(デンマーク)

          6月は、日本人には鬱陶しい梅雨だが、北欧人には、1年で最も美しい心弾む季節だ。 このポスターは、6月から8月にかけてフェム島で開かれる女性たちのキャンプ参加を呼びかけている。デンマーク語で書かれているのは「新しい女性キャンプ」。40年前の1983年のものだ。 フェム島は、コペンハーゲンから電車で2時間ほどのローラン島の、さらに北方の海に浮かぶ総面積11・38㎢の小島だ。ローラン島からフェリーで1時間。光り輝く海、一面の花畑が広がる。 始まったのは、女性解放運動真っ盛りの

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