【ショートショート】年末の瞬間、年始の瞬間
ずるずると蕎麦を啜ったのは二時間程前。風情のふの字もない、お湯を注ぐだけの簡易的な年越し蕎麦。インスタント特有の強い匂いが室内に未だ漂っている。その匂いが、「今年こそは年越し蕎麦を手作りしよう」と決意していた幾日前の自分を思い出させた。
「結局今年もインスタントで済ませちゃったなあ」
ローテーブルの上。随分と前に冷蔵庫から脱出させたまま放置し、少しぬるくなった缶チューハイのプルタブに指をかける。インスタント蕎麦の匂いを掻き消すように、ぐいっと勢い良くチューハイを喉に流