溢れる色と北端の港町
「ジブラルタル海峡を渡ってイスラーム圏のモロッコからキリスト教圏のスペインへ」
そもそも私が時計回りにぐるりと地中海を一周してしまおうなんて考えたのは、この長年の夢をどうしても叶えたかったからだ。
確か一年と少し前、青の町シャウエンに行った時も同じルートのバスに乗った覚えがある。世界一の迷宮都市フェズからモロッコを北へ北へと走り抜け、ジブラルタル海峡を臨む北端の港町タンジェへと、7時間ほどバスに揺られる。
「あれ、暑くない。むしろ涼しいくらい」
到着してまず驚いたのはその気候。海に面していて風通しがいいからなのか、北アフリカの他の街よりもずっと涼しい。一番賑やかな夜の旧市街のメイン広場だって、モロッコ特有のあのむせかえるような熱気は少なく、どこかさわやかな雰囲気だった。
翌朝、さらりとした風に誘われて宿を出る。どうやら海に面している方の旧市街の壁は要塞になっているらしい。ひらけた場所まで登って、じっくりと目を凝らすとはるか遠くにイベリア半島が見える。おお、本当にジブラルタル海峡までやってきたのか。
タンジェの旧市街には、なんというか、心がくすぐられるような、ずっとそこに居たくなる不思議な魅力があった。
お絵描き帳みたいなカラフルな街並みと、しつこ過ぎない程度に構ってくれるおじちゃんたち、猫たちはみんな私のことなんかお構い無しにまったりしている。ああだめだ、もう既に好きになりそうだ。
小さな門をくぐった先の景色も、
まるで絵の具をひっくり返したようなロマン溢れるカラフルな路地裏も、
細い道を奥に進んだ、涼しくてとっておきの場所を教えてくれる猫たちも、
どこもかしこもときめきとかわいいで一杯で、この空間を全部余すことなく日本に持って帰りたくて仕方なくて、何枚も何枚も写真を撮った。
そしてひたすらに坂道を登って登って、少し疲れてふと後ろを振り返った先にはこんな景色が広がっている。
ああもう既にこの街が忘れられなくなってしまった。
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