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唐揚げと豚の角煮

父方の祖母は、とにかく誰かにご飯を振る舞うのが好きな人だった。

私の実家は、父方の祖父母の家のすぐ近くにあって、母親の仕事が遅くなる日はきまって夜ご飯を祖母の家で食べさせてもらっていた。

食べ盛りの孫たちにご飯を振る舞うのが楽しかったのか、よく、もっといらんか?おかわりは?と聞かれた覚えがある。
なんなら外食する時も、いつもあれこれ色んなものを注文して「おばあちゃんはこんなに食べきれないから、好きなだけたんまりお食べ」と言っていた。でもだいたいは父親が食べきっていた気がする。

あと、月に数回一日かけてとんでもない量のパンを焼いて、親戚からご近所さんから私の友達にまで、町のみんなにパンを配っていた。
スーパーでお惣菜やお菓子を買った日は、帰り道に私の実家に寄って孫たちに渡していたから、母親は少し困っていたような覚えもある。

十五夜のお月見の日には、お月見団子を用意してくれたし、年末年始は親戚で祖父母の家に集まってすき焼きと年越しそばを食べた、バレンタインにはカステラで作るトリュフを私の友達も交えて一緒に作った覚えもある、あといちご大福を一緒に作ったこともあったっけ。

祖母には他にも日本人形作りや油絵など色々な趣味があったのだが、私の印象に残っている祖母はいつもだれかにご飯を振舞っていた。

私はどうやら大層美味しそうにものを食らうそうなので、祖母はよく「あやちゃんは本当に美味しそうにご飯を食べるねえ」と嬉しそうに言っていた。当時は照れくさかったのだが、親にも友達にもバイト先の先輩にも恋人にも、私と一緒にご飯を食べたことのあるだいたいの人にそう言われるので、最近は数少ない才能だと思うようにしている。

祖母の手料理の中で特に心に残っているのは、鶏もも肉の唐揚げと豚の角煮、あとは果物だ。果物は料理じゃないかもしれない。
でも、半分に切ってお砂糖を少しまぶしたグレープフルーツや、沢山の苺や梨、すいか、りんご、ストーブの上で焼いた焼き芋、炬燵の上のみかんなど、夜ご飯を食べたあとはだいたい季節の果物が出てきて、それが密かに楽しみだったんだ。

唐揚げは、だいたい私は5個か4個で、妹たちはそれより1個少ないくらい。申し訳ないが、唐揚げに関しては、祖母の作った唐揚げを超えるものは存在しないんじゃないかと半ば本気で思っている。

私は肉の脂身がそこまで好きではないのだが、不思議と豚の角煮が食卓に並ぶ日は機嫌が良かった。もちろん角煮もおいしいのだが、多分一緒に煮込まれて味が芯まで染みたごぼうが大好きだったんだろう。

祖母が私たち孫にご飯を作ってくれていた時は、みんな思春期反抗期真っ盛りで時には心無いことを言ってしまったこともある。だから面と向かって「あなたのご飯はとても美味しかったです。作ってくれてありがとう」とちゃんと言ったことはなかったかもしれない。もちろんいただきます、と、ごちそうさま、は忘れたことはないが。

私が近しい人との別れを経験したのは、祖母が初めてだった。

叶うならば、豚の角煮の作り方を教えて欲しかったこと、唐揚げと果物が美味しかったこと、そして第一志望の大学に受かって今はそこそこ楽しくやっていることが祖母に伝わっていれば、と思う

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