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60. 再会の奈良 【映画】

数日前にこの映画の存在を知って、観られる劇場がもう残り少なかったので、昨日急いで観てきました。
初めてシネスイッチ銀座に行ったのですが、銀座の大通りを少し入ったところに映画館にあるなんて全然知らなかったし、思いの外広くてびっくりしました。しかも金曜日はレディースデーで950円と、とても安い。ありがたい。

しかし肝心の映画の方はなんだかなあという出来。
内容は“中国残留孤児”を扱ったもので、日本に帰した残留孤児の養女からの連絡が途絶え、心配したおばあちゃんが中国からシャオザーを頼って単身日本にやって来ます。
シャオザーは中国に戻った残留孤児の娘で、日本語はちょっと片言で、何だか色々うまくいかない。そこに定年退職して暇を持て余している元警官が加わり、奈良をあちこち回って人探しの日々が始まります。

“中国残留孤児”とは
戦中、開拓民として満州へ移り住んだ人々の子供で、第二次世界大戦末期にソ連侵攻から避難する際に家族離散などによって身寄りがなくなり中国人の養子として育った人々。
一旦1958年に集団引き揚げを終了した後、日中の国交正常化に伴い再開。

中国で育って、日本語は全く話せないし、少なくとも今回のケースでは中国での親子関係もとても良かったようなのに、なぜわざわざ日本に帰って来なければならなかったのか、映画を観ただけではちょっと理解できませんでした。

一応wikipediaには肉親との血縁関係確認のためと書いてありましたが、確認したからといってそれが何になるのだろうか……? それに日本側の親が子供の消息を求めたとのことですが、実際に帰って来たら文化や言葉の違いからなかなか受け入れられないということもあったようです。
生みの親が日本人だからといって、日本に来た方が良いとは限らない。なぜ戦後三十年以上も経ってから残留孤児を呼び戻すに至ったのか、少し調べてみようかと思っています。


で、なんだかなあポイントは大きく三つありまして。

まず冒頭に挿入される残留孤児の説明のアニメが謎。
映像が切り替わり唐突に、稚拙なアニメーションが流れます。ナレーションはなく、解説の字幕と絵で説明されるのですが、寧ろ文字だけで良いじゃんと思うし、その解説もちょっと分かりづらかったです。
リアルな映像に挿入されているので、脳が咄嗟に対処できないというか、なぜ? という疑問が大きかったです。どうしてこういう構成にしたんだろう。

それから、サントラのセンスも微妙。
ここら辺は中国と日本の感覚の違いなのかもしれませんが(スタッフはほぼ中国人なので)映像と音楽がことごとく合っていないように感じました。
日本の風景に中華風の曲が合わせられ、シリアスな場面で明るい曲調の音が流れ、環境音が大きいのにそこにさらに音楽を挿入する……普段そこまで映画音楽に意識を向けないのですが、今回はずっと気になってしまって、あまり集中できませんでした。
やっぱり音の要素は大事なんだなあ。

最後に、登場人物たちのキャラクターに全く惹かれないこと。
細かなエピソードを見ていくと面白い場面もあったりはするのですが、その基盤となるキャラクターがそもそもあまり深掘りされていないので全体の印象がぼやけています。
性格的にも、特に主人公のシャオザーとその元彼は全然共感できないと言いますか、こんな人が周りにいたら嫌だなという感じ。

シャオザーは色々なバイトを転々としていて、おばあちゃんが来た時は柿の仕分けのバイトをしていました。それが、おばあちゃんの人探しに同行するので当日になってから欠勤連絡をしたり無断早退しようとしたり、迷惑極まりない行動を取ります。
せめて事情を話すとかすれば職場の理解を得られるかもしれないのに、何も言わないし直前になって急に休むので、ただただサボっている迷惑な人になっている。そしてそれに対して、本人はそれほど深刻に捉えていないようで、雇用者側の苛立ちの方が共感できてしまいます。

元彼の方も、本当にこの人たち付き合ってたのかな、と思いたくなる理解のなさと、意志の弱さが垣間見えて嫌でした。
でもやっぱり内面が中途半端にしか描かれていないというのがキャラクターの気持ち悪さに繋がっているのかなあと。

ところでこの作品、奈良と世界を映画製作プロジェクト「NARAtive2020」から生まれたとのことで、舞台は奈良の御所市というところ。
映し出される風景がとても奈良っぽいです。植生とか家の感じがそうなんだと思うけど、なんでなのかはっきりとは分かりません。

エグゼクティブプロデューサーを務める河瀬直美さんの奈良作品「Vision」を以前観ましたが、やっぱり微妙だったことを思い出したので、この人の感覚がわたしとは合わないのかもしれない。

良かった点も挙げておくと、日本語が分からないなりのおばあちゃんのコミュニケーションの仕方が素敵です。
特に肉屋に羊肉を買いに行くシーン。店員さんと動物の鳴き声によって肉の種類を伝え合う様は、面白いし、こういうやり方があったか、と新たな発見でした。
このシーンは予告編にもちらっと出て来るので、気になる方は見てみてください。

ではまた。


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