72. バンパイアハンターD 【アニメ映画】
懲りずに吸血鬼もの。
わたし史上最も良かったアニメ映画ベストスリーに入るだろう作品。
菊地秀行の小説「吸血鬼ハンターD」が原作の、2001年に公開された映画です。
原作は80年代から今まで続いている息の長いシリーズもので、吸血鬼と人間のハーフ”ダンピール”のDの孤独な旅が描かれています。
幻想的な絵柄が持ち味の天野喜孝がすべての挿画を手がけており、表紙がどれも美しい。
内容的にも恐らく日本の吸血鬼小説の代表作と言っても過言ではない(根拠はない)、とか言いつつ未読なのが口惜しいです。時期的な問題か、シリーズ初期の作品があまり古本屋などに出回っていない気がします。
で、この「吸血鬼ハンターD」、85年に一度OVAが作られています。
あまりはっきりとは覚えていませんが、話は悪くなかった気がします。
が、如何せん作画がよろしくない。わりと80年代OVAにありがちな絵と言いますか、天野喜孝のイラストでイメージしている世界とはかけ離れた見た目の人々が動いていて、がっかりした記憶があります。
対して今回ご紹介する2001年の映画版は、天野喜孝の絵がそのまま映像になって動いているような映像美なのです。
Dの多くを語らない切れ長の目や細いのに筋肉質な肉体といった細かな部分から、ゴシック建築とSF要素の混じった荘厳な城建築など背景まで、全体に神経が行き届いています。バトルシーンも素早く且つ美しく描かれています。
マントが大仰に翻ったり、剣で建物の柱が切れたり、誇張された表現も美しさを支える要になっています。
天野喜孝の挿画からのイメージの他、自然描写などにはジブリの影響が強く見られ、D以外の登場人物にはジョジョっぽさがあります。またラスボスのカーミラの姿は石岡瑛子のデザインを彷彿とさせるなど、様々な文化のいいとこ取りをしている感じです。
(貴族(吸血鬼)のマイエル=リンクは少女革命ウテナの鳳暁生に似ている気がしたけれど、改めて調べたら思ったほど似ていなかった)
特にお気に入りはサンドマンタの大群が砂漠の中から出現するシーン。
サンドマンタとは読んで字のごとく砂地に住むマンタ(エイ)で、この世界における生ける化石的生物のようです。
群れをなして空を移動していく古代生物たちの上を駆けていくD。
なかなかにジブリ味に溢れていますが、圧巻です。
左手の人面痣が煩いのが玉に瑕ですが、このシーンを繰り返し見たいがためにDVD買っちゃいました。
もちろん作画だけでなくストーリーもなかなか良く出来ています。
あんまり言うとネタバレになるので詳しくは言いませんが、「貴族マイエル=リンクと人間シャーロットの悲恋とミスリード」と、「ハンターのレイラの心理描写」が並行して描かれます。前者にはダンピールであるDとしての、後者にはハンターであるDとしての複雑な気持ちが絡み、それによってストーリーが進行していきます。
Dは最低限の感情表現しか示しませんが、それによって見ている側があれこれ考えを巡らせることができます。
マイエル=リンクたちのラストシーンとレイラのラストシーン、どちらも感動の演出でうるうるしてしまいます。
ところでこの映画は少し変わっていて、スタッフは日本人なのですが英語で作られアメリカで先に公開されています。
日本での劇場公開も英語に日本語字幕で放映され、DVD化の際に吹き替えバージョンも発売されました。
この英語というのは結構重要で、登場人物が皆西洋人の顔立ちなので、英語の方がしっくりきます。Dの囁くような声も、英語だからこその迫力と色っぽさがあるように思います。
吹き替えバージョンも見ましたが、英語版が断然おすすめ。
DVD全体の難点を挙げるとしたら
・セリフより背景音が大きいこと
・再生メニューに至る前のアニメーションがやたら長いこと(スキップできるのかもしれない)
・特典映像のインタビューが大体聞き取れないこと
くらいかなあ。
あと暗いシーンが多いので、なるべく大きい画面で観た方が細部までしっかり見られると思います。
ああ多分これは原作と繋がっているんだろうなあというシーンがあったり、ストーリーには原作とは違う部分もあるらしいので、ますます原作が読みたくなりました。すぐには読めなくとも、そもそも表紙を眺めるためにコレクションしたい。
ではまた。
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