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42. フレデリック・エヴァンス「階段の海」 【写真】

この写真です。

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(1943年に没した写真家なので恐らくパブリックドメインになっているだろうと掲載しましたが、問題があれば速やかに削除します)

先日何かの図録か美術書をぱらぱら捲っていた時に目について、メモしておきました。
建築写真家フレデリック・エヴァンスの写真です。
調べてみたところ写真集は英語のものが二冊出ているきりで入手が容易でなく、近場の図書館にも所蔵されていないようだったのでこの写真一枚を取り上げてご紹介することとしました。


フレデリック・エヴァンスは元々書店を経営しており、挿絵画家オーブリー・ビアズリーや作家バーナード・ショーなどもよく店に訪れていたのだとか。
その後写真に専念するようになり、特に教会建築をよく被写体に選んでいたそうです。

「階段の海」も教会内部を写した一枚です。

波打つ階段は、タルコフスキーの「ストーカー」のポスターを思い起こさせました。日常と少し離れた場所にあるような造形美です。
何人もの人が通って削れたのだろう、曲線の石段はその途方もない時間を体現しながら静かに横たわっています。じっと見ていると吸い込まれていくような、体が地面を離れてふわふわ浮き上がるような心地がします。

柱の装飾やアーチの形も印象的です。
この画面構成でなければ、繊細な美しさを切り取れなかったように思います。ほんのわずかでも視点がずれれば、たちまち海が動き出し、階段から水が溢れてしまうような。

これはプラチナプリントという技法を用いて現像されています。
プラチナプリントは色調の階調の幅広さが特徴。一口に白黒グレーと括ることのできない、繊細なグラデーションを表現することが可能です。

フレデリック・エヴァンスは自らの写真表現に完全な美を求めたということで、プラチナプリントという技法がその美意識を支えていました。
彼の見た美しい光景をそのまま紙に落とし込んだおかげで、わたしたちはこうしてその美的感覚を共有することができます。
改めて見た時の、階段の表情の豊かなこと。

残念ながらこの写真をどこで見られるのかは調べきれませんでしたが(恐らくイギリスのどこかのギャラリーなどが所蔵しているのではないかと推察していますが、写真集等見なければ定かではありません)他の写真が幾らか清里フォトアートミュージアムに収蔵されています。
冬場は長く休むため今すぐ、というわけにはいきませんが、できれば今年中には一度訪れてみたいものです。


いつもより短めですが今日はこの辺で。
ではまた。


<参考文献>
清里フォトアートミュージアム Curator's Choice フレデリック・エヴァンズ「階段の海」
照井康文 世界の写真家達 フレデリック・H・エヴァンス

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