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157. 性悪猫 【漫画】

この間まで全く存在を知らなかったやまだ紫さん。
この「性悪猫」がふと目に留まって読んでみたらこれが大当たりでした。

とにかく、ある感情を生きた言葉にとじこめるのが上手い。
丁度作家が出産・子育ての頃に描いた作品だからか、特に母の心情を描いたものがすばらしいです。
この作家はエッセイも書いているらしく、きっと日常のふとした出来事や心の機微を丁寧に掬い上げ、ぴたりと言葉に落とし込んでいるだろうことは想像に難くありません。

ただ、今回読んだのは漫画作品。絵・コマ割り・言葉、全てが一体となって作り出す空気感が何とも言えず心に沁みる作品が多いので、言葉だけを抜き出してここに書いてもあまり意味はない気がします。そもそもストーリーものではなく漫画というより詩画集の方がしっくりくる作りで、解説のしようがないのです……。

それでも一つだけ、前述したような生活の言葉はないものの、広がりがあってとても気に入った作品を紹介しておきます。
たった2ページの「天空」という作品。
日向に開かれた本、そこに載っているらしい写真を猫が見て、

蒙古の空だ 遥か蒙古の空だ

と思う。それだけなんですが、あ、たったこれだけでわたしの心はモンゴルまで飛んでいけるのだ、と静かな感動がありました。青く澄み渡った広い空は無限の可能性を暗示しているかのようでした。
(あの2ページを紹介するのにこんなに文字を使い、しかも全然魅力を表現できない言葉とわたしの表現力の虚しさよ。百聞は一見に如かずです本当に。)

「性悪猫」は猫を描いた作品群ですが、色んな人間模様がその姿に託されていて、作家の生活や体験が猫の向こうに透けて見えます。猫の姿も、そこに重ねられる人間心理もリアル。
多分読み手の心境によってその時々でぴったりな猫さんがいるので、折に触れて開きたい類の本でした。

残念ながら過去に出た単行本は全て絶版になっており、作家本人も2009年に亡くなっていますが、亡くなってからこの「性悪猫」含めいくつか復刊されたり単行本未収録作品を集めた新刊が出たりしています。
この間恵文社一乗寺店に行ったら置いてあったので、多分大きい本屋とか一部のセレクト書店なんかで手に入ると思われます。
猫嫌いでなければぜひ一度、ページを捲ってみてください。

ではまた。

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