Mark Guiliana's Beat Musicを見た 19.07.24

マーク・ジュリアナを最初に聴いたのは多分ブラッド・メルドーとの『Mehliana: Taming The Dragon』で、マーク・ジュリアナ関連作品の中でも特に好きな一枚だ。アルバムリリース前からYouTubeに上がっていたライブ映像は、映像自体のクォリティが高いこともあって何度も見た。ゴスペル系ドラマーとは違って、いわゆるジャズドラムのテクニックに基づいた、ある意味わかりやすいプレイという印象もあった。


その後、ダニー・マッキャスリンとの諸作にもハマったし、デヴィッド・ボウイの遺作となった『★』も傑作であった。アコースティックのプロジェクト、Mark Guiliana Jazz Quartetはクールでカッコよかった。


来日する度に見に行っているが、その引き出しの多さ、アイデアの多さに唸らされる。クリス・デイヴとかロナルド・ブルーナーJr.のような超絶テクというわけではないが、そのテクニックが「見てて分かる」だけあってむしろ、あらゆる手で演奏のテンションを上げていく様子に、いつも驚き、心を掴まれてしまう。

その底なしのアイデアと、どこまでも高いところまで上がっていく感覚は、カマシ・ワシントンを見ているときの感覚に近い。NYとLAだし音楽性も楽器も何もかも異なるミュージシャンであるが、現代ジャズミュージシャンの中ではトップクラスに好きな2人である。


とは言え、Mark Guiliana's Beat Musicに関しては、あまり聴き込めていなかった、というのが正直なところだった(元々そういうジャンルの音楽を聴いてこなかったことも大きいとは思うが)。一応2014年の2部作『My Life Starts Now』『Beat Music: Los Angels Improvisations』はどちらも聴いて、『My Life Starts Now』に関しては繰り返し聴く曲もいくつかあったのだが、ちょっと苦手意識というものは残っていた。

今年、2019年にリリースされたBeat Musicとして久々の新譜『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』。5年前の2部作よりも断然に聴きやすかった。それは5年前のアルバムや、マーク・ジュリアナの盟友たるBIGYUKI、その周辺の諸作を聴いてある程度耐性が付いたのかなとも思ったが、その聴きやすさや楽しさは、デヴィッド・ボウイとの共演、Mark Guiliana Jazz Quartetなどの活動を経たことによるアップデートだと捉えるのが正しいだろう。単純なビートミュージック、機械的、電子的な打ち込みの再現、といった次元から、もっと身体性が増した印象だった。

というわけで今回の来日公演は期待大だった(しかもBIGYUKI共演!)し、東京・大阪で一夜ずつ、というスケジュールはすごくもったいなく感じた。

そして結果的に、またもマーク・ジュリアナのプレイのマジックに魅了されてしまったのであった。

今回のライブは新譜の曲の再演という面が強い。でも単なる再演に止まっているわけではない。リズムとメロディを入れ替わりながら弾くBIGYUKIとニコラス・セムラッドのキーボード2人。前後に大きく動きながら、機械的なビートと身体的なグルーヴを行ったり来たりするクリス・モリッシーのベース。そして体全体でグルーヴを表現する(ように見える)、マーク・ジュリアナのエモーショナルなプレイ。曲の中にありながら、各々が自由に音を生み出し重ねていく。誰かが重ねた音に誰かが反応して演奏が変わる。ビートミュージックを標榜しながら、いわゆるジャズ的な即興の要素を端々に感じる。実にスリリング。

またアルバムからの曲ということもあるが、レゲエ/ダブ系が多いのも面白かったところ。あそこまで本格的にレゲエのビートを聴けるとは思わなかったし、それが曲として、あるいは演奏として全く違和感なく演奏されていて、その技量も素晴らしいと思った。彼らはジャマイカ系ではないが、ジャマイカフェスとか、レゲエ系の音楽フェスとかに出てもいいんじゃないか。っていうかむしろそこで見たい。

なんといっても一番アガったのは、アンコール含めた後半の曲(特に「Bloom」「Human」)での、マーク・ジュリアナの音量の上げ方。盛り上げ方。それこそが自分が見るたびに驚き、ときめく、マーク・ジュリアナの真骨頂である。どこまでもどこまでも上昇していくような感覚。限られた、点数の少ないドラムセットの中で、あらゆる手で演奏のテンションを上げていく。その引き出しの多さ、アイデアの底なしの深さにいつも驚かされ、その演奏に興奮するのである。


よく晴れた暑い日、屋外で仕事した後だったけど、ライブの喜びは疲れの大きさを気にさせなかった。

満足して、興奮して、恍惚として、Tシャツを買って帰った。


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