はじめに
こんにちは。4回目の投稿になります、さかさき減税副業派と申します。今回は、「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」についての調査内容を書いていきます。
「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」について
まず、日本において裁判官はどれくらいおり、どのような種類の裁判官が存在するのでしょうか。裁判官には、以下の役職が存在しています。
ちなみに、上の裁判官には定員が設けられており、「裁判所職員定員法」では、最高裁長官・最高裁判事を除き、高裁長官は8人、判事2115人、判事補842人、簡易裁判所判事806人と決められています。
裁判官のお給料(ここでは報酬)について書いていく前に、裁判官の身分を説明していきます。裁判官は「国家公務員法」において、「(特別職の)国家公務員」という扱いとなっています。その為、裁判官含め裁判所職員は国家公務員となります。裁判官の身分保障については、その職務の性質上、日本国憲法第78条でこう明記されています。
また、最高裁判所裁判官は、任命後に行われる衆議院議員選挙で国民の審査(国民審査)に付し、また10年経過した後に行われる衆議院議員選挙でも国民の審査を受けます。この国民審査で投票者の多数が該当裁判官の罷免を「可」とした場合、その裁判官はクビになります。しかし、今現在罷免になった裁判官はいません。そう考えると、裁判官の身分保障は、公務員の中でも、かなりの厚遇と言えるでしょう。
裁判官の身分について説明したところで、次に裁判官の報酬制度について見ていきましょう。まず、国家公務員は、給与額決定に関しては以下の手順を踏んで、決定します。
人事院が民間の給与動向を調査・公務員給与と比較した結果を、国会及び内閣に勧告します。その後、政府が人事院勧告を受けて、給与に関する法律の改正案を国会に提出し、可決したら報酬額が決定します。ただ、裁判官は国家公務員ではありますが、「特別職」の国家公務員になりますので、一般職の国家公務員とは別で定められています。
気になる裁判官の報酬額ですが、「裁判官の報酬等に関する法律」に別表で一覧としてあり、最高裁判所裁判官は「約200万円」です。判事補でも一号になると「約42万円」になります。(この給与が高いかどうかは読者の皆さんにお任せします)
ここで、疑問に思った方もいるかもしれませんが、裁判官の昇給ってどうなっているのでしょうか。給与の昇降に関しては、「号俸」(地方公務員だと「号給」)と表記されたものが参考となります。
「号俸」というのは、「勤務年数や実績、能力が反映された給与」になります。勤続年数や年齢に応じて、給与額が序列化されており、年数を重ねていくごとに俸給額も上がります。ちなみに、「級」というのは役職を意味します。係長→課長→部長と役職が上に行くほど、こちらも給与額が増えていきます。いわゆる、年功序列ってやつですね。
裁判官も例外ではありません。まず、司法修習を終えた者の中から指名された者が「判事補」となります。判事補とは、法律の専門家として10年未満の者です。いわゆる「新人くん」みたいな扱いです。そこから、判事→裁判長→最高裁判所裁判官とポストがひしめいています。まあ、公務員は民間と違って、利益を出して、お金を稼ぐというよりは、組織の中で長く仕事に従事しながら、実績を出して、役職(ポスト)をゲットしていくというのが生きがいです。その為、判事補と最高裁判所裁判官では、報酬額が全然違いますし、勤続年数を重ねていくと自然と報酬は上がっていくので、裁判官も年功序列制度の中で、役職争いが報酬アップの肝と言えそうです。
では、昇給があれば、減給があるのかと言えば、ほとんどありません。そもそも、日本国憲法の条文には裁判官の報酬についてこのような条文があります。
裁判官の身分保障を確保するために、在任中は減額することはできないことが憲法に明記されています。ただし、過去に報酬の減額が議論されたことがあります。第157回国会・衆議院法務委員会(平成15年10月3日)において、こんな質疑が行われています。
質問に立った山花議員(当時)は、「司法権の独立」という部分で裁判官の報酬を減額することに疑義を唱えています。対して答弁者である野沢大臣(当時)は、「憲法で明記されているのは事実だが、人事院勧告が出され、国家公務員である以上、その通りにやりました。報酬の減額が裁判官の仕事の独立性に影響は及ぼしません。」(意訳)というやり取りです。要は、どんなに憲法で保障されていても、人事院勧告や当時の経済状況を鑑みれば、報酬の減額は十分にありうるという答弁になります。
さて、だいぶ長くなりましたが、裁判官の報酬に関して、法務省が「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」を提出しました。改正内容は、以下のようになります。
「九十六万五千円」から「九十六万八千円」に変えるという内容です。要は、「賃上げ」ですね。「三千円」の賃上げです。(国民から、だいぶ税金取っているのに賃上げかいというツッコミは置いときます。笑)
そもそも、今回賃上げをしようとした経緯は何でしょうか。毎年、人事院が勧告を出して、公務員の給与額を決めていくのは書きましたが、今回の人事院勧告では以下のような内容が出されました。
という勧告が出され、政府が給与閣僚会議を経て、今回の改正案という流れになったわけです。どこを上げるのかというと、改正案の俸給表だと、「判事 三号」の部分になります。
次の章では、「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」について書いていきます。
「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」について
そもそも、検察官とは何でしょうか。以下、引用になります。
検察官は、警察が逮捕した犯人や告発した事件について捜査を行い、裁判所に起訴するかどうか検察官が決めます。木村拓哉さん主役のドラマ「HERO」がそれですね。たまに、警察ドラマで警察と対立するのは検察みたいな感じですね。(本当にそうかどうかは置いといて)
次に、検察官の種類になります。裁判官同様に、様々な役職(ポスト)がります。
検察官には「検事総長,次長検事,検事長,検事,副検事」に分かれています。裁判官と一緒で、様々なポストがあります。
この階級(ポスト)を巡る争いや政治との関係をもっと知りたい方は、倉山満著「検察庁の近現代史」(光文社新書2018年)をお読みください。
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さて、そんな検察官ですが、身分は「特別職の国家公務員」となります。「検察庁法」という法律があり、仕事内容や役職の種類など細かく規定されています。検察官の給与に関しては、「検察官の俸給等に関する法律」というものが制定されており、役職ごとに報酬額が決められています。
検察官の給与も裁判官同様に、昇給することになります。上記であげた人事院勧告でも給与の引き上げが勧告されています。給与改定の法案が「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」になります。では、中身を読んでいきます。まずは、どこを昇給するのか。
改正の理由は以下のようになります。
俸給表を見てみると、検事と副検事の「十七号」や「二十号」などといった、号の数が大きい所、いわゆる「新人」や「若手」のポストの俸給が上がっています。(近年の若者の公務員離れや民間が初任給を上げているのが影響しているかと思います)
今回の改正案を通じての問題点(疑問点)
国家公務員の給与水準は、このような形で決まっていきます。
人事院勧告があり、その後は政府で閣僚会議をひらき、改正案を提出して承認をもらうという流れです。私が気になるのは、「国家公務員の給与水準」が「民間企業従業員の給与水準」と「均衡させる」という「民間準拠」の手法です。
そもそも、「民間」とは何でしょうか。「民間」は、「一般庶民の社会、世間」「公的機関に属さないこと」(goo辞書)という意味です。
民間の給与水準と合わせる理由はなんでしょうか。
民間に準拠しているのは、「公務員の給与は民間企業のように収益・業績などを基にして決めることが難しいため、その時々の景気の動向などを反映している民間の給与に合わせることが最も合理的であり、広く理解を得られる方法であるためです。」としています。景気動向を反映している民間の給与基準に合わせて、国家公務員の給与を決めていくのは一見、合理的で国民の理解も得やすいかもしれません。
しかし、「民間」の定義とは何でしょうか。私は、公務員から民間企業に転職しました。民間企業で働いて、昔から言われている「民間」のイメージはだいぶ違ってきているなと思いますし、民間での働き方も大きく変化しています。
人事院が定義している「民間」について、公務員の給与改定をするために実施された調査資料を見ていきます。
「企業規模50人以上で、事業所規模50人以上の事業所 約11,900所」と言うのが、人事院が定める「民間」なのかなと思います。ですが、今やフリーランスや個人事業主など、多くの種類の仕事が存在しています。さらに、副業に従事する人も増えてきており、本業の給与に限らず、色んな所から給与をもらっています。転職して給与が変化した人もいるでしょう、意図してフリーターになった人もいるでしょう。現在は「働き方改革」と言われ、多様性が叫ばれています。そのような状況で、「民間が上げたから公務員も上げます」というのは、理解は得られにくいのではないでしょうか。そもそも、調査手法は正しいのか、見直すできではないのかと考えます。公務員の給与水準を民間基準にするならば、調査方法の見直しも視野に入れるべきでしょう。
国会での疑問の声が上がっています。第210回国会の参議院法務委員会(令和4年11月10日)において、梅村みずほ議員(日本維新の会)がこのような質疑を行っています。
私の問題点と同様に、現在の調査方法が果たして適正な水準を出しているのかと質問しています。梅村議員は、日本の企業数や従業員数を聞いたうえで、このような質疑をしています。
非正規雇用やフリーランスを入れないのは、「給与は、一般的に、職種のほか役職段階や勤務地域等の給与決定要素を踏まえてその水準が定まっていることから、国家公務員給与と民間給与の比較を行う際には、単純平均で比較するのではなく、給与決定要素を同じくする同種同等の者同士を比較すること」ので、「組織的に業務を分担しながら毎月の給与を得る者とはその報酬体系が根本的に異なることから、比較になじまないものと考えております」ということです。
これをどう思うかは皆さんの判断にお任せしますが、私自身、これでは世間の理解は得られないだろうと思います。民間の方は、自分の給与を上げるために、自身の評価をよくしようとその会社で頑張る人もいますし、会社に所属せず、自分で仕事を得た方が収入がいいと考えて、フリーランスになる人もいます。なんなら、年収がもっと欲しいから、転職する人・副業する人、起業する人、様々な人がいます。給与水準という視点で考えれば、確かに今の手法は官庁側は「合理的」かもしれませんが、世間の理解が得られるとはいいがたいでしょう。繰り返しになりますが、調査対象の拡充・あるいは調査手法の見直しを求めたいです。
そこで、国会で質問するとしたら、以下のような点でしょうか。
質問:国家公務員の給与水準の改定について。今回の裁判官と検察官の俸給の引き上げに関しては、人事院勧告を受けて行われたものかと思う。しかし、第210回国会参議院法務委員会(令和4年11月10日)で日本維新の会所属梅村みずほ議員が調査対象の実態や調査対象に選んだ理由、フリーランスと非正規雇用を含んでいない理由について質疑し、参考人側から発言があった。民間による働き方は多様性を帯びており、杓子定規的に「同種同等の者同士を比較検討」する調査手法では、調査側は「合理的」ではあるが、国民からの「理解」は得られにくいとは思うが、今の調査方法について改善する意思があるか否か、ご見解を伺いたい。
質問:裁判官と検察官に関して、別途法案があり、令和5年11月1日参議院予算委員会で音喜多駿参議院議員(日本維新の会)から、「各種の公務員給与改定法案が提出されているところ、総理大臣・国務大臣・副大臣・政務官の給料がアップする法案も提出されているが、これは人事院勧告に連動するものか。他の給与アップ法案との関係性を伺う」という質疑があり、政府参考人に立った内閣人事局の窪田修氏から「内閣総理大臣は人事院勧告の中に触れられていない」という答弁があり、それならば「内閣総理大臣を含む、特別職の国家公務員は人事院勧告とは連動しない形」で行えるはずである。本来なら、その仕事の特殊性を鑑みて、仕事における業績評価や国民への貢献を通じて、柔軟に給与額の改定ができるはずである。「民間が引き上げたから、公務員も引き上げます」だと、今回の給与引き上げの法案に批判の声が上がっているのも致し方ない。民間の賃上げ動向やその時の景気動向ではなく、民間同様の業績評価を通じて、公務員の職種に応じた給与改定(減額も含む)を行うべきだが、総理の見解を伺いたい。
質問:今回の、検察官と裁判官の俸給に関しては、仕事の特殊性を鑑みると、国民から見たら、給与改定の是非がなかなか判断しづらい事案である。そこで、今取り組んでいる法務省における行政事業評価レビューの見える化を目指すべきだと思う。行政評価レビューを広く国民に周知する。その上で、これだけの取り組みをして、これだけのお金がかかって、これぐらいの成果がでました。今後はこうしていきます。という説明があるだけで国民の理解度が高くなると思います。岸田総理は、「EBPMに基づいた行政評価レビューを推進」と言っておられましたが、今後の国家公務員給与改定の際に、国民への説明に行政事業レビューを使われる予定はあるか。
終わりに
今回、「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」の調査を行いました。最後に、自分の所感を述べて終わりたいと思います。まず、私自身、地方公務員として勤務していました。給与体系については、民間と比べてだいぶ手厚い印象を受けました。もちろん、民間は本人の頑張りやその時の景気動向によって、1年目から給与額が上がるなど公務員に比べて自由度は高いです。ですが、民間に比べ公務員の方が安定しているなと感じます。それを実感できたのが、2020年から起きたコロナ騒動です。コロナによって、一斉に自粛となり、今までの業務がストップしました。業種によっては、無一文になってしまった方もいるのではないでしょうか。私も緊急事態宣言発令により自宅勤務という名の休業状態になりました。(でも、その他事務作業やオンライン対応で出勤しましたが・・)ほとんど満足に勤務することができず、「これ、お給料どうなるんだろう」と心配になりました。そして、宣言中に給与明細を見たら、ほとんど満額支給でした。もちろん、ボーナスも出ました。(ちょいと減りましたが)この時ほど、「公務員は、強いな」と実感した時はありませんでした。知り合いには、苦境に陥り、資金繰りや生活レベルを落として苦労した人もいっぱいいました。
これは、選んだ環境なので、それだけで「公務員、けしからん」にはなりませんが、今回の給与改定を見るにつけ、「民間が上がったから、上げるって安直すぎないかい」と思ってしまいます。そうではなくて、公務員も色々な職種がある訳ですから、仕事の業績評価を通じて、報酬額を柔軟に変えてほしいなと思う次第です。
参考資料
国家公務員3年ぶり給与増 平均5万円、改正法成立 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
001381712.pdf (moj.go.jp)
<190926修正版>02-2_改め文・理由(検察官俸給法) (moj.go.jp)
(7) 社会保険料の負担を下げて、世代間格差を是正せよ!岸田総理&武見敬三厚労大臣と真っ向勝負 予算委員会 (2023/11/01) - YouTube
第210回国会 参議院 法務委員会 第5号 令和4年11月10日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム (ndl.go.jp)