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「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」の調査について(NHK党浜田聡参議院議員のお手伝い)


はじめに

こんにちは。4回目の投稿になります、さかさき減税副業派と申します。今回は、「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」についての調査内容を書いていきます。

「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」について

まず、日本において裁判官はどれくらいおり、どのような種類の裁判官が存在するのでしょうか。裁判官には、以下の役職が存在しています。

  • 最高裁長官

  • 最高裁判事

  • 高裁長官

  • 判事

  • 判事補

  • 簡裁判事

 ちなみに、上の裁判官には定員が設けられており、「裁判所職員定員法」では、最高裁長官・最高裁判事を除き、高裁長官は8人、判事2115人、判事補842人、簡易裁判所判事806人と決められています。


                         引用元:法令リード「裁判所職員定員法

  裁判官のお給料(ここでは報酬)について書いていく前に、裁判官の身分を説明していきます。裁判官は「国家公務員法」において、「(特別職の)国家公務員」という扱いとなっています。その為、裁判官含め裁判所職員は国家公務員となります。裁判官の身分保障については、その職務の性質上、日本国憲法第78条でこう明記されています。

第78条 
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

出典:法令リード「日本国憲法(全文)

 また、最高裁判所裁判官は、任命後に行われる衆議院議員選挙で国民の審査(国民審査)に付し、また10年経過した後に行われる衆議院議員選挙でも国民の審査を受けます。この国民審査で投票者の多数が該当裁判官の罷免を「可」とした場合、その裁判官はクビになります。しかし、今現在罷免になった裁判官はいません。そう考えると、裁判官の身分保障は、公務員の中でも、かなりの厚遇と言えるでしょう。

第79条
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

出典:法令リード「日本国憲法

裁判官の身分について説明したところで、次に裁判官の報酬制度について見ていきましょう。まず、国家公務員は、給与額決定に関しては以下の手順を踏んで、決定します。

国家公務員の給与
 国家公務員の給与は、法律に基づいて定められており、職員の職務の複雑、困難及び責任の度合いに基づいて決められる俸給と、これを補完する諸手当から構成されています。職員の昇給・降給やボーナス(勤勉手当)には、人事評価の結果が反映されます。
 一般職の国家公務員は労働基本権が制約されており、その代償措置として人事院勧告制度が設けられています。
 給与に関しては、民間の賃金との適正な均衡を確保することを基本として、人事院が毎年度国家公務員及び民間の給与の実態を調査し、両者を比較した上で、通常は毎年8月に、国会及び内閣に対して所要の勧告を行っています(情勢適応の原則)。
 政府は、人事院勧告を受けて、給与関係閣僚会議でその取扱方針を協議し、その結果を閣議で正式に決定した上、一般職の職員の給与に関する法律の改正案を国会に提出しますが、内閣人事局はこの政府としての一連の事務を行っています。
 また、内閣人事局では、内閣総理大臣、国務大臣等の特別職の国家公務員の給与制度に関する事務も担当しています。

出典:内閣人事局「国家公務員制度 給与・退職手当

 人事院が民間の給与動向を調査・公務員給与と比較した結果を、国会及び内閣に勧告します。その後、政府が人事院勧告を受けて、給与に関する法律の改正案を国会に提出し、可決したら報酬額が決定します。ただ、裁判官は国家公務員ではありますが、「特別職」の国家公務員になりますので、一般職の国家公務員とは別で定められています。

 気になる裁判官の報酬額ですが、「裁判官の報酬等に関する法律」に別表で一覧としてあり、最高裁判所裁判官は「約200万円」です。判事補でも一号になると「約42万円」になります。(この給与が高いかどうかは読者の皆さんにお任せします)

 ここで、疑問に思った方もいるかもしれませんが、裁判官の昇給ってどうなっているのでしょうか。給与の昇降に関しては、「号俸」(地方公務員だと「号給」)と表記されたものが参考となります。
 「号俸」というのは、「勤務年数や実績、能力が反映された給与」になります。勤続年数や年齢に応じて、給与額が序列化されており、年数を重ねていくごとに俸給額も上がります。ちなみに、「級」というのは役職を意味します。係長→課長→部長と役職が上に行くほど、こちらも給与額が増えていきます。いわゆる、年功序列ってやつですね。

 裁判官も例外ではありません。まず、司法修習を終えた者の中から指名された者が「判事補」となります。判事補とは、法律の専門家として10年未満の者です。いわゆる「新人くん」みたいな扱いです。そこから、判事→裁判長→最高裁判所裁判官とポストがひしめいています。まあ、公務員は民間と違って、利益を出して、お金を稼ぐというよりは、組織の中で長く仕事に従事しながら、実績を出して、役職(ポスト)をゲットしていくというのが生きがいです。その為、判事補と最高裁判所裁判官では、報酬額が全然違いますし、勤続年数を重ねていくと自然と報酬は上がっていくので、裁判官も年功序列制度の中で、役職争いが報酬アップの肝と言えそうです。

  では、昇給があれば、減給があるのかと言えば、ほとんどありません。そもそも、日本国憲法の条文には裁判官の報酬についてこのような条文があります。

第79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

出典:法令リード「日本国憲法

 裁判官の身分保障を確保するために、在任中は減額することはできないことが憲法に明記されています。ただし、過去に報酬の減額が議論されたことがあります。第157回国会・衆議院法務委員会(平成15年10月3日)において、こんな質疑が行われています。

104 山花郁夫発言URLを表示
○山花委員 民主党・無所属クラブの山花郁夫でございます。  野沢大臣、星野副大臣、まずは御就任おめでとうございます。また、中野政務官におかれましては、留任ということで、引き続きよろしくお願いをいたします。(中略) ところで、きょうは、裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案、そして検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案、これが議題となっておりますが、過日、新しい法務大臣からもごあいさつをいただきましたので、そのことに関連をいたしました質疑もさせていただきたいと思います。  まず、法案について質問させていただきたいと思います。  昨年も同様の引き下げを行う法律案がございまして、その際も議論させていただきました。昨年に関しましては、例えば検察官についての俸給をそのままにして裁判官だけ引き下げるとか、そういう形であるとすると憲法上も疑義がございますし、また、今回のものについても、学説によってはそういう疑いという指摘があるところでございます。  ただ、昨年のときには、いや、今回のはこういった特例的なものだというふうに説明をいただいていたんですが、ことしまたこういった形で裁判官、検察官の報酬、俸給についての引き下げが提案されているその趣旨について、改めて簡単に御説明いただきたいと思います。

105 野沢太三
○野沢国務大臣 このたびの裁判官及び検察官の報酬及び俸給の引き下げにつきましては、今般の人事院勧告を受けまして、一般の政府職員につき同勧告どおりの給与の改定を行う旨閣議決定をしたことがございます。また、従来、裁判官及び検察官の給与については、国家公務員全体の給与体系の中で、その職務の特殊性を考慮しつつバランスのとれたものとする考え方に基づいて改定を行ってきたことなどを踏まえておるわけでございますが、政府といたしましては、裁判官及び検察官についても、一般の政府職員の給与改定に伴い、報酬月額を、その額においておおむね対応する一般の政府職員の俸給の減額に準じて改正する必要があるものとして措置を講ずることとしたものでございます。  ところで、裁判官の報酬の減額につき、憲法第七十九条第六項及び第八十条第二項が「在任中、これを減額することができない。」と規定しておりますことを承知しておりますが、法務省は憲法の解釈一般について政府を代表して見解を述べる立場にはございませんが、当省なりの考え方を申し上げますと、これらの憲法の規定は、裁判官の職権行使の独立性を経済的側面から担保するため、相当額の報酬を保障することによって裁判官が安んじて職務に専念することができるようにするとともに、裁判官の報酬の減額については、個々の裁判官または司法全体に何らかの圧力をかける意図でされるおそれがないとは言えないということから、このようなおそれのある報酬の減額を禁止した趣旨の規定であると解釈しております。  ところで、今回の国家公務員の給与の引き下げは、民間企業の給与水準等に関する客観的な調査結果に基づく人事院勧告を受けて行われるものであります。このような国家公務員全体の給与水準の民間との均衡等の観点から、人事院勧告に基づく行政府の国家公務員の給与引き下げに伴い、法律によって一律に全裁判官の報酬についてこれと同程度の引き下げを行うことは、裁判官の職権行使の独立性や三権の均衡を害して司法府の活動に影響を及ぼすということはありません。  したがいまして、今回の措置は、憲法第七十九条第六項及び八十条第二項の減額禁止規定の趣旨に反するものではなく、同条に違反するものではないと考えております。  以上でございます。

出典:国会会議録検索システム「第157回国会 衆議院 法務委員会 第2号 平成15年10月3日

 質問に立った山花議員(当時)は、「司法権の独立」という部分で裁判官の報酬を減額することに疑義を唱えています。対して答弁者である野沢大臣(当時)は、「憲法で明記されているのは事実だが、人事院勧告が出され、国家公務員である以上、その通りにやりました。報酬の減額が裁判官の仕事の独立性に影響は及ぼしません。」(意訳)というやり取りです。要は、どんなに憲法で保障されていても、人事院勧告や当時の経済状況を鑑みれば、報酬の減額は十分にありうるという答弁になります。

 さて、だいぶ長くなりましたが、裁判官の報酬に関して、法務省が「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」を提出しました。改正内容は、以下のようになります。

裁判官の報酬等に関する法律(昭和二十三年法律第七十五号)の一部を次のように改正する。 第十五条中「九十六万五千円」を「九十六万八千円」に改める。

出典:法務省「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案

九十六万五千円」から「九十六万八千円」に変えるという内容です。要は、「賃上げ」ですね。「三千円」の賃上げです。(国民から、だいぶ税金取っているのに賃上げかいというツッコミは置いときます。笑)
 

 そもそも、今回賃上げをしようとした経緯は何でしょうか。毎年、人事院が勧告を出して、公務員の給与額を決めていくのは書きましたが、今回の人事院勧告では以下のような内容が出されました。

4 本年の給与の改定
(1) 改定の基本方針
ア 月例給 前記3(1)のとおり、本年4月時点で、国家公務員の月例給が民間 給与を3,869円(0.96%)下回っていることから、民間給与との均衡 を図るため、月例給の引上げ改定を行う必要がある。この改定は、本 年4月時点の比較に基づいて国家公務員給与と民間給与を均衡させる ためのものであることから、同月に遡及して実施する必要がある。 月例給の改定に当たっては、人材確保の観点等を踏まえ、若年層に 重点を置いて、基本的な給与である俸給を引き上げることとする。

(イ) 行政職俸給表(一)以外の俸給表

行政職俸給表(一)以外の俸給表についても、行政職俸給表(一)と の均衡を基本に所要の引上げ改定を行う。指定職俸給表については、 行政職俸給表(一)の引上げを踏まえ、行政職俸給表(一)10級の平均 改定率(0.3%)と同程度の引上げ改定を行う。

出典:人事院「令和5年度人事院勧告

 という勧告が出され、政府が給与閣僚会議を経て、今回の改正案という流れになったわけです。どこを上げるのかというと、改正案の俸給表だと、「判事 三号」の部分になります。

 次の章では、「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」について書いていきます。

「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」について

 そもそも、検察官とは何でしょうか。以下、引用になります。

検察官は,次のような仕事をしています。
 警察等から送致を受けた事件,検察官に直接告訴・告発のあった事件及び検察官が認知した事件について捜査を行い,これを裁判所に起訴するかどうかを決めること(少年事件については,家庭裁判所に事件を送致すること)。なお,検察官には起訴できる事件でも,犯罪の軽重や種々の情状などによって起訴しない(起訴猶予など)権限があります。
起訴した事件について公判で立証し,裁判所に適正な裁判を求めること。
裁判の執行を指揮監督すること。
公益の代表者として法令に定められた事務を行うこと。

出典:法務省「検察官及び検察事務官の職務

   検察官は、警察が逮捕した犯人や告発した事件について捜査を行い、裁判所に起訴するかどうか検察官が決めます。木村拓哉さん主役のドラマ「HERO」がそれですね。たまに、警察ドラマで警察と対立するのは検察みたいな感じですね。(本当にそうかどうかは置いといて)

 次に、検察官の種類になります。裁判官同様に、様々な役職(ポスト)がります。

検察官は,検事総長,次長検事,検事長,検事,副検事に分かれています。検事総長は,最高検察庁の長で,全国の検察庁の職員を指揮監督しています。
次長検事は,最高検察庁に属し,検事総長を補佐し,検事総長に事故のあるとき,又は検事総長が欠けたときにその職務を行う検察官です。
検事長は,高等検察庁の長であり,全国8つの高等検察庁に1人ずつ配置されています。検事長は,その高等検察庁の庁務を掌理し,その庁並びにその管内にある地方検察庁及び区検察庁の職員を指揮監督します。
検事正(地方検察庁の長である検事)は,その地方検察庁の庁務を掌理し,その庁及びその管内の区検察庁の職員を指揮監督しています。
検事は,最高検察庁,高等検察庁及び地方検察庁等に配置され,捜査・公判及び裁判の執行の指揮監督などの仕事を行っています。
副検事は,区検察庁に配置され,捜査・公判及び裁判の執行の指揮監督などの仕事を行っています。

出典:法務省「検察官の種類

  検察官には「検事総長,次長検事,検事長,検事,副検事」に分かれています。裁判官と一緒で、様々なポストがあります。


引用元:キャリアガーデン「検事の階級は?

 この階級(ポスト)を巡る争いや政治との関係をもっと知りたい方は、倉山満著「検察庁の近現代史」(光文社新書2018年)をお読みください。

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 さて、そんな検察官ですが、身分は「特別職の国家公務員」となります。「検察庁法」という法律があり、仕事内容や役職の種類など細かく規定されています。検察官の給与に関しては、「検察官の俸給等に関する法律」というものが制定されており、役職ごとに報酬額が決められています。

 検察官の給与も裁判官同様に、昇給することになります。上記であげた人事院勧告でも給与の引き上げが勧告されています。給与改定の法案が「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」になります。では、中身を読んでいきます。まずは、どこを昇給するのか。

検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律

検察官の俸給等に関する法律(昭和二十三年法律第七十六号)の一部を次のように改正する。 別表俸給月額の欄中「二七七、六〇〇円」を「二七八、〇〇〇円」に、「二五六、三〇〇円」を「二五 八、〇〇〇円」に、「二四七、四〇〇円」を「二四九、二〇〇円」に、「二四〇、八〇〇円」を「二四三、 四〇〇円」に、「二三四、九〇〇円」を「二三七、七〇〇円」に、「二二三、六〇〇円」を「二二六、五〇 〇円」に、「二一五、八〇〇円」を「二一八、八〇〇円」に改める。

出典:法務省「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律

  改正の理由は以下のようになります。

理由

一般の政府職員の給与改定に伴い、検察官の俸給月額の改定を行う必要がある。これが、この法律案を提 出する理由である。

出典:法務省「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律

 俸給表を見てみると、検事と副検事の「十七号」や「二十号」などといった、号の数が大きい所、いわゆる「新人」や「若手」のポストの俸給が上がっています。(近年の若者の公務員離れや民間が初任給を上げているのが影響しているかと思います)

 

今回の改正案を通じての問題点(疑問点)

 
 国家公務員の給与水準は、このような形で決まっていきます。

人事院は、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給 与水準と均衡させることを基本として(民間準拠)、同じ 条件(役職段階、勤務地域、学歴、年齢階層)にある者同 士の官民の給与を比較した上で、所要の勧告をすることに なっています。

出典:人事院「令和5年 人事院勧告・報告の概要

 人事院勧告があり、その後は政府で閣僚会議をひらき、改正案を提出して承認をもらうという流れです。私が気になるのは、「国家公務員の給与水準」が「民間企業従業員の給与水準」と「均衡させる」という「民間準拠」の手法です。
 そもそも、「民間」とは何でしょうか。「民間」は、「一般庶民の社会、世間」「公的機関に属さないこと」(goo辞書)という意味です。
民間の給与水準と合わせる理由はなんでしょうか。

答 国家公務員の給与は、民間企業の従業員の給与水準に合わせることを基本に決められています。このような決め方をしている理由は、公務員の給与は民間企業のように収益・業績などを基にして決めることが難しいため、その時々の景気の動向などを反映している民間の給与に合わせることが最も合理的であり、広く理解を得られる方法であるためです
 そのため人事院は、毎年、民間企業の月例給と特別給(ボーナス)を調査し、国家公務員と民間企業の従業員について、主な給与決定要素である役職段階、勤務地域、学歴、年齢を同じくする者同士の給与を比較し、国家公務員給与を改定する必要がある場合には、国会と内閣に同時に勧告を行います。
 国家公務員の給与は、法律によって定められており、人事院の勧告を受けた内閣はその取扱い方針を決定し、給与を改定するための法律案を国会に提出します。国会での審議を経て法律が改正されることにより、国家公務員の給与が改定されることになります。

出典:人事院「おしえて!人事院

   民間に準拠しているのは、「公務員の給与は民間企業のように収益・業績などを基にして決めることが難しいため、その時々の景気の動向などを反映している民間の給与に合わせることが最も合理的であり、広く理解を得られる方法であるためです。」としています。景気動向を反映している民間の給与基準に合わせて、国家公務員の給与を決めていくのは一見、合理的で国民の理解も得やすいかもしれません。
 しかし、「民間」の定義とは何でしょうか。私は、公務員から民間企業に転職しました。民間企業で働いて、昔から言われている「民間」のイメージはだいぶ違ってきているなと思いますし、民間での働き方も大きく変化しています。
 人事院が定義している「民間」について、公務員の給与改定をするために実施された調査資料を見ていきます。

人事院は、公務員の給与を改定する勧告の基礎資料を得るため、毎年、職種別民間給与実態調査を実施しています。令和5年調査の実施概要は次のとおりです。

1 調査期間

  令和5年4月24日(月)~6月16日(金)
 (54日間:土日祝を除いた実日数は37日間)

2 調査対象事業所

企業規模50人以上で、事業所規模50人以上の事業所 約11,900所
(母集団事業所数 約58,800所)

出典:人事院「令和5年職種別民間給与実態調査の実施

  「企業規模50人以上で、事業所規模50人以上の事業所 約11,900所」と言うのが、人事院が定める「民間」なのかなと思います。ですが、今やフリーランスや個人事業主など、多くの種類の仕事が存在しています。さらに、副業に従事する人も増えてきており、本業の給与に限らず、色んな所から給与をもらっています。転職して給与が変化した人もいるでしょう、意図してフリーターになった人もいるでしょう。現在は「働き方改革」と言われ、多様性が叫ばれています。そのような状況で、「民間が上げたから公務員も上げます」というのは、理解は得られにくいのではないでしょうか。そもそも、調査手法は正しいのか、見直すできではないのかと考えます。公務員の給与水準を民間基準にするならば、調査方法の見直しも視野に入れるべきでしょう。

 国会での疑問の声が上がっています。第210回国会の参議院法務委員会(令和4年11月10日)において、梅村みずほ議員(日本維新の会)がこのような質疑を行っています。

今日は法案審議ということで、裁判官の報酬法、検察官俸給法についての質問を私も用意しておりましたので、質問をさせていただきたく思います。  (中略)
 人事院勧告の説明は、人事院のホームページを見ますとこのようにございます。労働基本権制約の代償措置として、職員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものであり、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させることを基本に勧告を行っているということで、前半部分は私もそうだなと思って見ております。  社会一般の情勢に適応した適正な給与に合わせていきましょうと、なるほど、そうだなと思うわけなんですけれども、後半部分ですね、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させるとありまして、皆さん御存じのように、かつての日本とは違いまして、今は働き方が大変多様になってきております。この水準の中にどういった方が含まれるのかといいますと、非正規の方であるとかアルバイトの方であるとかフリーランスの方であるとかという方は含まれないということになっているんですね。それが本当に今のこの日本社会の、この社会一般の情勢に適応した適正な給与を反映できるのかというところに私ども日本維新の会は疑念を持っておりまして、毎年毎年このように訴えをさせていただいております。  

人事院のホームページから、こちらも出ておりました。今回のその基準となるベースの民間の給与実態というのはどのように調査したかなんですけれども、全産業の企業規模五十人以上かつ事業所規模五十人以上の全国の民間事業所、約五万五千あるわけですけれども、そこから抽出したおよそ一万二千事業所、このサンプルをもって民間がお給料上がっているか下がっているかというのを判断するということなんです。で、今回は、裁判員と検察官、あっ、裁判官と検察官ということで、主に若手の方を対象にはしておりますけれども、この人事院勧告というのが大本になっておりますので、お伺いしたい質問をしていきます。  

今現在、日本の有する企業の総数を教えていただきたく思います。総務省さん、お願いします。

出典:国会会議録検索システム「第210回国会 参議院 法務委員会 第5号 令和4年11月10日

 私の問題点と同様に、現在の調査方法が果たして適正な水準を出しているのかと質問しています。梅村議員は、日本の企業数や従業員数を聞いたうえで、このような質疑をしています。

○梅村みずほ君 ありがとうございます。 この二千四十数万人というのが今回の調査対象になっているというふうに考えられますので、常用雇用者数、全体の四千七百、これ企業限定ですけれども、個人事業主とか含まれないわけなんですけれども、その半数以下の方しか対象になっていないということなんですね。  
ここで、人事院にお尋ねいたします。五十名以上の企業を対象とする理由を教えてください。

084 岩崎敏
○政府参考人(岩崎敏君) お答え申し上げます。 給与は、一般的に、職種のほか役職段階や勤務地域等の給与決定要素を踏まえてその水準が定まっていることから、国家公務員給与と民間給与の比較を行う際には、単純平均で比較するのではなく、給与決定要素を同じくする同種同等の者同士を比較することとしております。 調査対象につきましては、企業規模五十人以上かつ事業所規模五十人以上としておりますが、その理由についてのお尋ねでございますが、企業規模五十人以上の多くの民間企業におきましては、公務と同様、部長、課長、係長等の役職段階を有しており、公務と同種同等の者同士による比較が可能であり、また、現行の調査対象となる事業所数であれば調査員による精緻な調査が可能であり、調査の正確性を維持することができるといったことにより、このような調査対象としているところでございます。

085 梅村みずほ
○梅村みずほ君 ありがとうございます。 同種同等というような言葉も出てきたわけなんですけれども、要は類似しているのでということかなと理解しております。 けれども、人事院勧告の説明には、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものでありということで、社会一般の情勢というのを反映させる必要がございます。そう考えたときに、企業、フリーランサーとかではなく、企業という縛りであっても、常用雇用者数に照らして半数以下となっているこの実態が社会の一般の情勢に適応しているのかということなんですけれども、この個々の時代と言われている現代ですけれども、この基準というのは社会一般情勢を反映していると言えるでしょうか。人事院にお尋ねいたします。

086 岩崎敏
○政府参考人(岩崎敏君) お答え申し上げます。 非正規雇用やフリーランスが入っていないのではないかというお尋ねかと承知いたしました。 非正規雇用者につきましては、労働時間が短く時給制が多いなど、雇用形態や賃金形態が様々であり、職務や職責の重さを共通の尺度で測ることが難しく、精密な比較を行うことは困難であるものと考えております。また、会社に所属せずに業務に応じて個人が契約を結ぶいわゆるフリーランスにつきましては、個別の業務単位で報酬が定まるものであり、組織的に業務を分担しながら毎月の給与を得る者とはその報酬体系が根本的に異なることから、比較になじまないものと考えております。このため、国家公務員の常勤職員の給与につきましては、官民の常勤同士の給与比較により社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保し、国家公務員の非常勤職員の給与につきましては、常勤の職員の給与との権衡を考慮して決定することとしているところでございます。

出典:国会会議録検索システム「第210回国会 参議院 法務委員会 第5号 令和4年11月10日

 非正規雇用やフリーランスを入れないのは、「給与は、一般的に、職種のほか役職段階や勤務地域等の給与決定要素を踏まえてその水準が定まっていることから、国家公務員給与と民間給与の比較を行う際には、単純平均で比較するのではなく、給与決定要素を同じくする同種同等の者同士を比較すること」ので、「組織的に業務を分担しながら毎月の給与を得る者とはその報酬体系が根本的に異なることから、比較になじまないものと考えております」ということです。
 これをどう思うかは皆さんの判断にお任せしますが、私自身、これでは世間の理解は得られないだろうと思います。民間の方は、自分の給与を上げるために、自身の評価をよくしようとその会社で頑張る人もいますし、会社に所属せず、自分で仕事を得た方が収入がいいと考えて、フリーランスになる人もいます。なんなら、年収がもっと欲しいから、転職する人・副業する人、起業する人、様々な人がいます。給与水準という視点で考えれば、確かに今の手法は官庁側は「合理的」かもしれませんが、世間の理解が得られるとはいいがたいでしょう。繰り返しになりますが、調査対象の拡充・あるいは調査手法の見直しを求めたいです。

そこで、国会で質問するとしたら、以下のような点でしょうか。

質問:国家公務員の給与水準の改定について。今回の裁判官と検察官の俸給の引き上げに関しては、人事院勧告を受けて行われたものかと思う。しかし、第210回国会参議院法務委員会(令和4年11月10日)で日本維新の会所属梅村みずほ議員が調査対象の実態や調査対象に選んだ理由、フリーランスと非正規雇用を含んでいない理由について質疑し、参考人側から発言があった。民間による働き方は多様性を帯びており、杓子定規的に「同種同等の者同士を比較検討」する調査手法では、調査側は「合理的」ではあるが、国民からの「理解」は得られにくいとは思うが、今の調査方法について改善する意思があるか否か、ご見解を伺いたい。

質問:裁判官と検察官に関して、別途法案があり、令和5年11月1日参議院予算委員会で音喜多駿参議院議員(日本維新の会)から、「各種の公務員給与改定法案が提出されているところ、総理大臣・国務大臣・副大臣・政務官の給料がアップする法案も提出されているが、これは人事院勧告に連動するものか。他の給与アップ法案との関係性を伺う」という質疑があり、政府参考人に立った内閣人事局の窪田修氏から「内閣総理大臣は人事院勧告の中に触れられていない」という答弁があり、それならば「内閣総理大臣を含む、特別職の国家公務員は人事院勧告とは連動しない形」で行えるはずである。本来なら、その仕事の特殊性を鑑みて、仕事における業績評価や国民への貢献を通じて、柔軟に給与額の改定ができるはずである。「民間が引き上げたから、公務員も引き上げます」だと、今回の給与引き上げの法案に批判の声が上がっているのも致し方ない。民間の賃上げ動向やその時の景気動向ではなく、民間同様の業績評価を通じて、公務員の職種に応じた給与改定(減額も含む)を行うべきだが、総理の見解を伺いたい。

質問:今回の、検察官と裁判官の俸給に関しては、仕事の特殊性を鑑みると、国民から見たら、給与改定の是非がなかなか判断しづらい事案である。そこで、今取り組んでいる法務省における行政事業評価レビューの見える化を目指すべきだと思う。行政評価レビューを広く国民に周知する。その上で、これだけの取り組みをして、これだけのお金がかかって、これぐらいの成果がでました。今後はこうしていきます。という説明があるだけで国民の理解度が高くなると思います。岸田総理は、「EBPMに基づいた行政評価レビューを推進」と言っておられましたが、今後の国家公務員給与改定の際に、国民への説明に行政事業レビューを使われる予定はあるか。

終わりに

 今回、「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」の調査を行いました。最後に、自分の所感を述べて終わりたいと思います。まず、私自身、地方公務員として勤務していました。給与体系については、民間と比べてだいぶ手厚い印象を受けました。もちろん、民間は本人の頑張りやその時の景気動向によって、1年目から給与額が上がるなど公務員に比べて自由度は高いです。ですが、民間に比べ公務員の方が安定しているなと感じます。それを実感できたのが、2020年から起きたコロナ騒動です。コロナによって、一斉に自粛となり、今までの業務がストップしました。業種によっては、無一文になってしまった方もいるのではないでしょうか。私も緊急事態宣言発令により自宅勤務という名の休業状態になりました。(でも、その他事務作業やオンライン対応で出勤しましたが・・)ほとんど満足に勤務することができず、「これ、お給料どうなるんだろう」と心配になりました。そして、宣言中に給与明細を見たら、ほとんど満額支給でした。もちろん、ボーナスも出ました。(ちょいと減りましたが)この時ほど、「公務員は、強いな」と実感した時はありませんでした。知り合いには、苦境に陥り、資金繰りや生活レベルを落として苦労した人もいっぱいいました。
 これは、選んだ環境なので、それだけで「公務員、けしからん」にはなりませんが、今回の給与改定を見るにつけ、「民間が上がったから、上げるって安直すぎないかい」と思ってしまいます。そうではなくて、公務員も色々な職種がある訳ですから、仕事の業績評価を通じて、報酬額を柔軟に変えてほしいなと思う次第です。

参考資料

国家公務員3年ぶり給与増 平均5万円、改正法成立 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

001381712.pdf (moj.go.jp)

<190926修正版>02-2_改め文・理由(検察官俸給法) (moj.go.jp)

(7) 社会保険料の負担を下げて、世代間格差を是正せよ!岸田総理&武見敬三厚労大臣と真っ向勝負 予算委員会 (2023/11/01) - YouTube

第210回国会 参議院 法務委員会 第5号 令和4年11月10日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム (ndl.go.jp)


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