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オススメ

友達によくオススメをする。

自分はいわゆる漫画やアニメなんかが好きなオタクだ。3ヶ月ごとのアニメの改編期には、まずまとめサイトで紹介されているアニメ10個くらいに目星をつける。全部録画してまずは1話をチェックする。オープニングで見るのをやめるのもあるし、3話まで見といてなんか違うと思うのもある。でも、必ず「はあ、尊い…」「これ今期の覇権だ!」「超面白い、超面白い、超面白い!」というダイヤの原石が存在する。そんな時、会う友達友達に「見て!見て!絶対面白いから!」とふれまわる。いわゆる”布教”だ。

アニメはブルーレイやDVDなどの円盤になるまで布教しづらい。アニメを口頭で宣伝してもいっても見る手間を考えるとなかなか見る人っていないと思う。いつやっているのかを調べて(だいたいおススメ作品は深夜や地方局で放映しているものが多い)、録画予約や深夜まで起きていて見なければならない。見るまでにかかるエネルギーは大きい。

まだ魅力を知らない人にとってそこに自身をプッシュするのは難しい。魅力を知っているこちらからすれば、もうすでに慣性の法則が働いている。心のエンジンから運動エネルギーが加速度的にかかり、燃料が切れるまで止まれない、止まらない。

その燃料はエネルギーはアニメの放映が続くうちはノンストップで、その情熱は今伝えたいのだ。この興奮とアニメへの愛が新鮮なうちに、今伝えたいのだ。円盤が出る頃では遅すぎる。

その点、本というのは布教しやすい。心を揺さぶられるようなキュンを描く少女マンガ、青春が溢れてくる少年マンガ、お気に入りの作家さんの新作小説。味わった興奮が冷めやらぬうちに「読んで!今度持ってくから!」と宣言して押し付けてしまえばいいのだ(←迷惑)。

そうしたオススメを宣伝するとき私は特に口下手になる。「いい!」とか「好き!」とかいう感情が先走ってそれを言語化できないうちに、走り出している。「この本の主人公のこういう言葉がね、これこれこういう私の感情と重なってよかったんだよー」なんて言えないし、考えてない。理性より直観、理屈より感情。

だからいつも、「めっちゃいいから!」「キュンてなるの!」「やばいから!」みたいに曖昧で単純な言葉2割、あとは感情を乗せた勢い8割で宣伝している。細々した言葉に表せない。その感情が全部なのだ。それが私のオススメしたい理由の全てなのだ。

昔から、よく泣く子供だった。弱虫の典型みたいな子供で、ちょっとからかわれたくらいで泣いた。学校の先生とか友達になんで泣いているのかを説明できない。涙ばかりがあふれてしまう。「悲しい」とか「悔しい」とかそんな単純だけど強い感情が自分を支配してしまって、涙というシンプルかつ分かりやすいもので表現していたのだと思う。だれがやったとか、なんで泣いているとかじゃやなく、「悲しいきもち」「悔しいきもち」しか重要じゃない。そんな子供だったのかもしれない。その名残なんだと思う。言葉じゃ表現できない、そこにある感情が大事って思うのは。

相手を見て、オススメをするようにしている。相手の顔、趣味、嗜好を思い出して、その人の笑顔になる顔、興奮してる顔が思い浮かぶ人に貸す。「この人はこのアニメが好きだから似ているジャンルのこれは好きなはず!」とか、「この人は恋人の浮気で悩んでいるからこのマンガは刺さるのでは?」とか考えながら作品をオススメする。自分と同じくらい好きになってほしい。自分と同じくらい笑顔になったり、キュンとしたり、涙したりしてくれたらな。そういった感情を共有できたらいいな。

自分と相手は違う人間。ある一つの作品をとっても同じように感じるとは限らない。でも、オススメした相手が「よかったよ」「面白かったよ」って言ってくれると嬉しい。自分が好きだと思ったものを、「いい」とか「好き」と思ってもらえると、違う人間でも同じ輝きを世界に見ているようだ。同じきれいな景色を見て、同じ場所で、同じように「きれいだね」と思えるような感覚に似ている。

「キュンンンンンンンンンンンン」

というLINEのメッセージが昨日友達から届いた。一昨日オススメのラブコメ系少女マンガを貸していた。なんと「ン」の数が12個もつくほど胸がきゅんとなってしまったらしい。おいおい、胸が高鳴りすぎじゃないか(笑)。

きっとこれが友人の気持ちを表す最高の表現だったのだろう。「キュン」というなんとも形容しがたい言葉で表現してくれる友達が、まるで感情先走りがちな自分と同じように感じてくれるたのかな、と思って嬉しかった。そして、読み終わって真っ先に連絡したくなるような作品を届けられたのかなと思って、さらに嬉しくなった。投げたダーツがストっと、真ん中の赤いところのど真ん中にあたった感じ。そのラインを見た後30分くらい顔がニヤついて抑えられなかったのは友達には秘密だ。それくらい、心地いい感覚だった。

いつもがいつも、こうして人の心の真ん中を射止められるとは限らないけど、同じものを、同じように「好きだ」、と思ってくれる人を見つけるという快感が、同じ思いを共有できたという嬉しさがやっぱり忘れられない。

誰かと同じ景色を見たくて、同じ気持ちを感じたくて、私は明日もオススメをする。



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