見出し画像

日本女子サッカー発展のためのWEリーグ・リブランディング戦略を考える

あと2週間足らずで女子W杯が開幕するが、日本国内での放映権が決まっていない。
様々な要因があるとは思うが、日本国内での女子サッカーの認知度の低さが一因であるのは間違いない。



WEリーグの立ち位置

果たしてWEリーグは存続していけるのだろうか?

WEリーグの認知度は2021年1月時点で26%だそうだ。少し古いデータだが、この2年でWEリーグの知名度が飛躍的に高まったとは思えない。
私自身、なでしこJAPANの試合は観るがWEリーグの試合はほぼ観たことがない。

バルセロナの女子チームが9万人を観客動員したことが話題となり、「欧州女子サッカーの人気を日本のWEリーグにも繋げて…」などという人もいるようだが、欧州と日本では根本的なブランド力が違い過ぎると思う。

欧州女子サッカーは、基本的に歴史と伝統のある男子チームありきで成立している。
そもそもクラブに男子チームを応援する絶対的なファン・サポーターが付いている。
時代の流れから女子サッカーを盛り上げるために、男子サッカーで得た資本を投入し、ノウハウをなぞっているに過ぎない。男子チームを応援するサポーターは、必然的に同じクラブの女子チームも応援する形になる。
もちろん女子サッカーと男子サッカーでは応援するファン層には少なからず違いがあるようだが、ベースとなっているのは歴史と伝統あるサッカークラブであるということだ

それに引き換え、日本のWEリーグの加盟クラブはJリーグの女子チームだけで構成されているわけではない。女子チームのみのクラブもあり、欧州のような歴史や伝統を含めた蓄積があるわけではない。

しかし、歴史や伝統がないことは必ずしもマイナスではないはずだ。
何もないところから、真新しく作り上げられるWEリーグの強みも必ずある。

欧州サッカーの真似でも、
Jリーグの真似でもない、
まだ何者でもないWEリーグだからこそできるリブランディング戦略を考えていきたい。


WEリーグの現状考察

まず、そもそもWEリーグはやり過ぎている。

女子サッカーに関わらず、どんなスポーツにも普及・育成・強化という3段階の局面がある。資本力があり十分インフラが整備されている状況であれば、普及・育成・強化の3局面を同時に展開することで、大きなサイクルが完成すると思う。

しかし、現状の日本の女子サッカーには3局面すべてを同時に展開させるだけの資本力もノウハウも体力も整っていない。
にも関わらず、3局面すべてを頑張ろうとしているが、どう考えても無理が
ある。
26%の認知度しかない者が、どんなに頑張ったって誰も見ていない。
現実を直視して認識を改めるべきだ。

ここで必要なのは選択と集中だ。
資本力、人材、時間など少なくて限りあるコストを、最も優先すべきモノに集中すべきだ。

ではどこに集中すべきかと言えば、当然「普及」というフェーズに全振り全ベットするしかない。


人材流出による損失を補うための普及活動の強化

現在、なでしこJAPANに選ばれている日本代表選手の海外流出が続いているが、これは非常にまずいと思う。

Jリーグでも若手有望選手の欧州挑戦が続いているが、Jリーグは既に全国に60クラブあり、そのすべてのクラブに下部組織が存在している。
さらに大学・高校サッカーもある。
Jリーグは、下から優秀な若手選手が生まれてくるサイクルがすでに完成している状況だ。

一方でWEリーグは発足2年目で下部リーグとの連携も安定していない状況で、現状ではまだまだ高校サッカーに頼る部分も多い。
にも関わらず、本来WEリーグの認知度や人気を安定させるために必要な日本代表選手が流出しまくっている。

なでしこJAPANの国際競争力を高めるという側面で言えば必要という意見もあるかもしれないが、なでしこJAPANの成果は、女子サッカーの長期継続する安定的な人気には繋がらないというのは2011年以降の状況ですでに答えが出ている。
そのためのWEリーグの発足ではないのか?

もちろん選手個人は、より高い競技レベルの環境で勝負してみたいと考えるのは理解できるが、それでも全体のバランスが悪すぎるように感じる。

であるならば、なおさら「普及」という側面に強烈にアプローチしていかなければ、先行きが成り立たないのは自明の理だ。

極論で言えば、女子サッカーが現在抱えている大部分の問題は、競技人口さえ増えれば解決するはずだ。単純に競技人口が増えれば生産・消費の両コストが増えて、普及・育成・強化を大きなサイクルで回転させることが可能になるはずだから。

つまりWEリーグの存続は、ここから5年以内(個人的にはこのままでは10年以内に廃止になると思っている)で、3~8歳の女の子にどれだけWEリーグの試合に足を運んでもらうかが勝負だと思う。


WEリーグが行うべきリブランディング

そこで、WEリーグが「普及」という局面に全振り全ベットして、リブランディングするために必要なことは、以下の3つだと考える。

①     WEリーグの認知度を飛躍的に向上させる
②     普及のターゲットである幼年期の子供に関心を持ってもらう
③     WEリーグの継続的な活動を実現するための新しい財源の確保


① -1 WEリーグの認知度を飛躍的に向上させる

まず始めに取組むべきは、1も2もなくWEリーグの認知度の向上である。

現在、WEリーグはX-girlとユニフォームのオフィシャルサプライヤー契約を結んでいる。
私はファッションに疎いので知らなかったが、10・20代(F1層)の若い女性の間で人気のブランドで、WEリーグも客層のターゲットと重なっていたことから行ったブランディングなのだと思う。

しかし、現在WEリーグがターゲットにすべきは、「普及」に直結する幼年期の子供であり、そもそもの初期設定が間違っているように思う。

これはX-girlに対する批判ではなく、WEリーグのブランディングの失敗である。はじめに書いたが、WEリーグには全てに注力するだけのコストがない。
にも関わらず、選択と集中を考えずに全方位に展開した結果、理念先行で現実を無視したことから生まれた失敗である。

ちなみにX-girl(ビーズインターナショナル)は、WE LEAGUE事業部を設立するなど、WEリーグに対して積極的な姿勢を見せてくれている。
しかし、果たしてWEリーグの認知度の向上を目指すうえで、X-girlを入口として認知した人の量や速度で十分と呼べるだけの成果が出せているのか疑問だ。


①-2 ユニフォームサプライヤー統一の必要性

さらに言えば、オフィシャルサプライヤー契約と言いながらも、実際のサプライヤーは各クラブに決定権があることが問題である。
広島や浦和のような男子チームを持つクラブは、女子チームでもユニフォームを統一したいのだろうが、X-girlのユニフォームは着ていない。

しかしWEリーグの持つ最大の強みは、新たなプロサッカーリーグであることだ。
せっかく何者でもないところから、真新しいブランディングができるという強みがあるのに、Jリーグのブランディングやマーケティングをなぞっているのでは、最大の強みが生かせない。

WEリーグが絶対にしなければいけないことは、
WEリーグ主導による加盟全クラブのユニフォームサプライヤーの統一だ。

加盟全クラブのユニフォームは全て同じサプライヤーで統一し、販売についてもWEリーグが一元管理する。
広島や浦和が反対するのであれば、リーグから除名する措置も辞さない覚悟で行うべきだ。

そうしてこそWEリーグが一枚岩となって、女子サッカーを盛り上げていくんだという意思が伝わるだろうし、その機運も醸成できるはずだ。


①-3 認知度向上のためのコラボレーション

そして、認知度を向上させるための最も手っ取り早い方法は、
すでに高い認知度を誇っているモノとコラボすることである。

WEリーグは「普及」に全振りして幼年期の子供にターゲットを絞るべきとは言ったが、子供が実際にスタジアムに足を運ぶためには、まず子供の親の認知度を獲得しなければならない。

そこで提案したいのは、

WEリーグは、
ユニフォームのオフィシャルサプライヤーとして、『ユニクロ』と契約を結ぶこと。

ユニクロは日本国内で800店舗以上展開している。
サッカーに何の関心もない人でも、ユニクロに服は買いに行くのだ。
ユニクロ全店でWEリーグのユニフォームが取扱われるとしたら、その経済効果は計り知れないし、間違いなく飛躍的に認知度が向上するはずだ。


②-1 普及のターゲットである幼年期の子供に関心を持ってもらう

とは言え、ユニクロも相応の売上が見込める提案でなければ、ユニフォームのオフィシャルサプライヤーというリスクを負うことはできないだろう。

だから、前述と同様に、最も手っ取り早い方法として、すでに高い認知度を誇っているモノとコラボする。

そこで提案したいのは、

WEリーグのユニフォームデザインを、
『ポケモン』のキャラクターシルエットにする。

ポケモンは、現在800以上の種類が存在している。
まず、各クラブのチームカラーなどを基準にして、ポケモンのキャラクターの中からクラブマスコットを選定する。
ユニフォームは、選定したクラブマスコットのキャラクターの着ぐるみのようなシルエットデザインして子供たちに親近感を抱いてもらう。

このデザインであれば、ユニクロでも間違いなく人気商品となるだろうし、サッカーに興味がない人でも、子供用パジャマのニーズとしても売れると思う。


②-2 シナジー効果のあるコラボレーションの実践

Jリーグのようにマスコットを1からブランディングして認知してもらうには相当の時間やコストを要する。

であるならば、すでに高い認知度を誇るポケモンを各クラブマスコットとしてコラボする方が、認知度向上の面でも効果的だと思う。
既存のマスコットとの共存も可能だし、むしろシナジー効果さえ期待できると思う。

ピカチュウが「WEリーグマスコットチェアマン」として、毎節WEリーグのどこかの試合会場に視察する。と同時にポケモンショーを行うことができれば、幼年期の子供の動員につながるはずだ。

さらに、ポケモンは3年周期で新作ゲームが発売されるし、また劇場版ポケットモンスターの映画が公開される。

そこで、ゲーム発売や映画公開のタイミングに合わせて、ポケモン新作記念ユニフォームをデザインする。

プロモーション期間の1ヶ月間限定で、WEリーグの開催試合のすべてのホームチームは、新作記念ユニフォームを着用ことにすれば、これまでにない新しいプロモーションとして提案することができる。

これは、WEリーグ主導でユニフォームに関する権利を一元管理することでこそ、実現可能なプロモーションとなる。
契約しているサプライヤーやスポンサーの顔色を窺わなければ動けない、歴史と伝統あるサッカークラブでは実現できない。

まだ何者でもないWEリーグだからこそ可能な
WEリーグ一丸となったマーケティング手法となりえるはずだ。


③ WEリーグの継続的な活動を実現するための新しい財源の確保

上記で提案したマーケティング手法は、別にポケモンだけに限る必要はない。

お笑い芸人のラランド・ニシダが、普段背負っているリュックに広告を掲載する「ニシダ・アド」が20年以上予約待ちになっているが、WEリーグもユニフォーム自体を広告媒体として企業に販売すればいい。

例えば、女性をターゲットにした新商品を開発して、広告宣伝としてこれまでにない新しいプロモーションを実施したいと考えている企業があるとする。

WEリーグの試合で、その節のすべてのホームチームが着るユニフォームを、その企業の新商品のプロモーション用デザインにして着てもらえる企画を用意すれば、新しくて面白いプロモーションとして実施する企業はあると思う。

ユニフォームに企業名を載せることをスポンサー収入の基本としている、これまでのサッカー界では存在しなかった新しい財源の生み出し方になるはずだ。

そしてここで生み出されたものは、これからのWEリーグの存続のための貴重な原資として活用することができる。

さらには、この方法であれば再びWEリーグとX-girlが交わることもできるはずだ。


まとめ

以上が、個人的に考えたWEリーグのリブランディング戦略になる。

現在 WEリーグは存続の危機に立っている状況だと思う。
理念が先行していて、実情と嚙み合っていないと批判する声もある。

結局のところ、考えるべきは

WEリーグは「サッカー」なんですか?
それとも「女子スポーツ」なんですか?

ということなんだと思う。


大人がやろうが、
子供がやろうが、
男がやろうが、
女がやろうが、
サッカーは、結局サッカーなんだ。と。

男子サッカーと女子サッカーでは、見るポイントが違うこともあるだろう。
でも、サッカーというスポーツの面白いと思うポイントは、実は何も変わらない。

WEリーグは、女子選手がプレイしている「サッカー」でしかない。

しかし、WEリーグの理念は、
WEリーグは「女子スポーツ」です。
と、大きな声で喧伝しているように見えてしまっている。

これは何かが大きくズレているように感じる。
小難しい理念を振り回している状況は、正解から遠ざかっていると思う。

きっと正解は、シンプルな形の先にあるのだと思う。


(文中敬称略)

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

サッカーに対して個人的に思うことを発信していきます。サポートしていただけると励みになります。