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【漫画感想文11】神と人間の境を示した「封神演義」

舞台は古代中国、殷から周に王朝が変わる易姓革命の時代である。この時代にはまだ仙人という半神的な超人が現世を歩き回っていた。仙人の力は人間に比べて遥かに強く、殷の紂王は妲己という仙女によって誑かされ、人間界は妲己によって狂わされていた。

主人公の太公望も仙人(正確には仙人の資格を持たないので道士)である。太公望は師匠で仙人界のボスの元始天尊から妲己の退治を命じられる。

仙人は能力が極めて高いだけで性格は人間であり、だからこそ深い人間関係や心理が現れる。非常に多くの登場人物がおり、それぞれが魅力的なキャラクターを持っている。その人間性あふれるストーリーが最大の魅力である。と同時に歴史を動かすのは他の何モノではなく、人間だということがわかる。

1.太公望

太公望自身がひどく人間臭い。非常に頭がいいがときに仲間から卑劣漢と呼ばれるほど卑怯な手を使う。どこまで本気かわからない行動を取り、敵味方を欺くほど優れた策士である。その反面実力の底を見せつけないように振る舞い、多くの犠牲を出すことをためらわない非情さと責任感の強さも見せる。

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2.聞仲

殷の軍師、聞仲は殷サイドにいながら妲己とは敵対している複雑な立場にいる。彼は数百年にわたって殷に仕えて、殷と紂王に絶対的な忠誠を誓っている。聞仲の強さは絶望的で、太公望のいる崑崙山の仙人全員と戦っても優位が変わらなかった。しかし結果として彼を追い詰めたのは彼の人間性を付いた策であった。

個人的には私が好きな悪役として、全漫画中屈指のキャラクターである。

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3.元始天尊

元始天尊は一見とぼけた爺さんで、太公望に封神計画を丸投げしているが、実際は計画を影で動かしていた。その動機はラスボスである歴史の道標への憎悪であった。太公望に封神計画を任せたのは自分の力不足を認識していたからであり、同時に自分自身が歴史の道標に操られているではないかという不安からだった。

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4.申公豹

申公豹はいきなり現れた最強の道士であった。最初に太公望の前に現れたが、一目で太公望の資質を見極めてライバル認定する。妲己や元始天尊を圧倒する実力を持ちながら、なぜかまったく行動を起こさない謎の存在であった。

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本作は安能務訳の「封神演義」が原作であり、あらかじめ結末が決まってるだけにところどころに伏線が貼られている。そもそも元始天尊が自分で妲己を倒さず、太公望に計画を任せたところから全ての伏線が始まっている(太公望は元始天尊に、自分でやれよと正論を吐いているが、のちにその理由に納得する)。

冒頭で述べたように、仙人は超人的な能力を持つが、ベースは人間である。一方で仙人は歴史の道標と呼ばれるモノの性質を色濃く受け継いだ存在である。そのため絶対的な神である歴史の道標から、仙人という(普通?)の神が派生したとも見える。このへんが一神教と多神教の比較のようで面白い。

ホモ・デウスという本で指摘されるように、現代人のテクノロジーは古代で言うところの神の力に匹敵する。風のように飛ぶ力、遠く離れた人と連絡する手段、地形を変えるほどの力などなど。古代中国ではこれが仙人に宿っていたのかもしれない。

ちなみに本漫画の原作は安能務訳の「封神演義」だが、その元は中国の古代怪奇小説「封神演義」である。全部同じ名前なのでややこしいが、中国版をやや簡略したのが安能氏の訳版で、それをアレンジしたストーリーが漫画版らしい。私自身翻訳版を読んでないので詳しいことはわからないが、漫画版と翻訳版も結構違うらしい。




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