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(映画・違国日記)もっと静かに泣いていたかった

映画、違国日記の個人的な感想です。
ヤマシタトモコさん原作の映画を観てきました。大きな出来事が起きない長時間映画を観るのに慣れてない身では少々疲れる感じもしたけれど、総じてとってもよかったです!
以下、ネタバレあります。考えたことをとりとめもなく書いていきます。


・関係性の演技
槙生のそっけなさ、朝の素直な生意気さ。子どもにうざって呟かれたときの肩の強張りとか、それに対して大人も正直にめんどくさ…っていう感じにスッキリしたり。
ななちゃん!!!は、出てくると華があった。槙生の口調が砕けてテンポが良くなったりして、すごく和やかになる。朝に説明しない飲み込む言葉が少なくない数ある槙生が、ななちゃんとや笠町くんたち大人の関係との対比で際立っている。

・瀬戸康史さん、こんな渋い人になってた!?!?!?
久しぶりに演技拝見したら声が渋くて動揺した。ちゃんとヒロインに対比するヒーローやってた……

・干渉する母と空虚な父、空虚な父の「描かれない」描かれ方が巧み
テーマを絞り込まないといけないのもあるだろうけど、父という存在のなさを潔いほど何も描かないことで「家庭の中の男の無」が描かれていて痺れた。

・初めて泣いたシーンは森ちゃんが映画に「存在していた」ところ
森ちゃんについても取り上げられはしないものの、黒人で長身の日本語を話す女の子の森ちゃん(違う名前だった?)が自然に朝と並んで喋り、恋をしていた。この作品じゃなかったら、クラスメイトに黒人・外国人はキャスティングされない。森ちゃんをなかったことにされなかったのが嬉しくて、何が嬉しいのかもわからなくて、でも嬉しくて泣いた。

・えみり、よかったなー!!!!!!
徐々な垢抜け感が高校生っぽい。可愛い。えみりの葛藤にはいつも泣いてしまう。映画もえみりにフォーカスされるとその高校生らしい息苦しさと、フィクションから飛び出ても大人になっても解決できていない現実のやるせなさにうんざりする。
朝に打ち明ける場面よかった。朝が謝って頭をゴンってぶつける音も良かった。

自分は異性愛者で、結婚するしないは個人の自由と信じつつ、日本では結婚しないと子供が産めない(祝福されないことが多い)から、出産前に結婚を選択するだろう。
名前が変わるのが嫌だけど、結婚はしなきゃいけないもの。結婚出産は、した方が望ましい。(子どもは育ててみたいから別にいいんだけど)、結婚出産を必修科目だと思っている自分が少なからずいて、差別が自分の中にある。
例えば、日本の政策や女性への考え方がオワっていることとは別に、出産を選ばない人に社会のため(少子化の解決)にならない関係だな……と思う瞬間がないわけじゃないし、ヒステリックな上司には(だから結婚できないんだよ……)という侮蔑がよぎったことがある。
でも、社会のために個があるわけではないし、個が集まっているのが社会だ。社会に呑まれる前の個としての幸せのことを、考えるきっかけになった。
わたしがこれからの子どもたちに伝えたいことはなんだろう。無邪気に結婚しないの、彼氏いるのって聞いてくる子どもに、伝えなきゃいけないことがきっとたくさんある。

・エコーについて考えて山手線する2人
・劇中歌が全部好き
一発でチャットモンチー橋本さんってわかる朝の歌。「満月に吠えろ」、監督も聴いてた?

・森本さんの問題
医大入試の性差別じゃなくなっていたが(その改変に賛否ある意見も転がっていたが)、十分にわかりやすく同じことを問題提起している。体力も必要とか、来年からは考える(=今年の森本さんは考慮されない)というセリフとか、すごく台詞が上手いと思った。ちゃんとむかついた。当事者じゃない男性が、どう感じるかはわからないけど。ちゃんと届いているといい。

・朝の自信の無さ
意思がない朝をどう魅力的に演じるのか、早瀬さんも美しかった。
インポスター症候群について最近知ったので、それと重なる。自信がない……というのは女性に多い。自信を持って道を切り開けることを、女らしさとされてこなかったから。
朝の母について、槙生は「人目ばかり気にして、好きな物ややりたいことのない、主張や主義のない人」と朝に説明すると、朝が「わたしにまったく当てはまる……」と落ち込む。
これを書いているわたしには好きなものがあるけど、それによって思想が強くなったりして生かされているなと思うけど、人目ばかりしている時は多い。朝の母のような、ちゃんとしてなさいの呪いも自分にかかっている。自分がもし子供を育てるなら……を考えた。


物語最初は、いかにも映画っぽい倒置法のセリフ回しとかが気になったし、改変に違和感もあった。けれど、高校生の瑞々しさに、訴えかける彼女たちの強さに、観られて良かったと思った。
わたしが映画を全然観ないからなのか、その人の特徴や過去を端的な言葉として台詞に変換するうまさに感動した。そもそも原作とメディア化を照らし合わせることがあまりないか……。

キャスト発表時には、槙生は江口のりこさんとか安藤サクラさんみたいな、可愛いよりかっこいい雰囲気の方がよかったーなんて言っていたし、実際そうだよなーとも思っているが、真っ白なエンドロールで新垣結衣の名前が出た時、ブワッと涙が出た。この物語を引っ張ってきた彼女の名前の放つ強さ。

違国日記と打つときに、違う国と入力して変換する。異国に変換されがちだけど、異なる国、ではない。意味の違いを調べたら、違うの方がより日常的で主観的な違いや誤りを差しているんだって。

漫画とは別のシーンで印象的なやり取りがされていたりなど、取りこぼさないように脚本を書かれていた。と個人的には思う。ちょっと自信がないのは、この記事を書き終わってから他の人の感想を見たからです(……)。

わたしにとっては、もっと余韻に泣いていたかった作品でした。受け取るものが多かった映画でした。映画が終わっても涙が出たままで、このままぼーっとしてから、涙の理由を温かい紅茶片手にゆっくり探して言葉にしたいと思った。美しい映画でした。

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