【名盤レビュー】LOST CHORD / Zephyr(2012)
LOST CHORD/Zephyr
2012年にZephyrがリリースしたCD+DVDのセット。
ライブ会場とオフィシャル通販での限定販売となっている。
2001年に無期限活動休止となった彼らだが、不定期での活動を継続。
ただし、フルアルバムのリリース情報が発表されても、その後、音沙汰なしという状態が続いていて、実態は掴めないまま。
10年以上経過して、半ば忘れていた頃に、ようやく発表されたのが本作だった。
CDに収録されたのは3曲のみと、待たされたわりにはボリュームが足りない気はしてしまうのだが、当初はVHSとして発表されていた「Astral relief」を、ボーナス映像を追加して復刻。
コストパフォーマンスとしては決して悪くない内容と言える。
リリース当時のメンバー編成は、Vo.Caime、Gt.Shinobu、Gt.Taka、Dr.真-Sin-の4人。
オリジナルメンバーであるBa.樹-Itsuki-は不参加となっているが、現役時代に脱退していたTakaがメンバーに復帰しており、彼らの強みであった、幻想的なメロディを重視するスタイルはそのまま。
Zephyrらしさを失うような復活劇にはなっていない。
そのうえで、声量や音程に課題があったCaimeのヴォーカリゼーションに大幅な進化が見られ、安定感と表現力が増した。
演奏技術やレコーディング環境も、10年の時間の中で向上。
当時、頭の中ではこういう音楽が鳴っていたのだろうな、というイメージをここにきて具現化してきたといったところだろう。
さて、Zephyrと言えば、関西コテコテ系の総本山レーベル・Matinaに所属していながら、ダークな世界観や攻撃的なシャウトに頼らない白系サウンドを貫いたことでニッチな印象を与え、記録よりも記憶に残るバンドであった。
事実、オムニバスに収録された「久遠の月」などが代表曲として知られているものの、単独作品のインパクトに欠け、セールス的なヒット作には恵まれていない。
そんな彼らにおいて、いよいよ名盤だと言える作品が誕生したのが、この「LOST CHORD」だ。
Matinaという母体を失った影響もあってか、広報活動が十分だったとは言えず、リリース時点で注目を集めることはほぼなかったのだが、口コミでじわじわと存在が知られるようになる。
まさか復活していたとは、という驚きに加え、もともと期待値は高かったものの、これといって推薦盤が存在しなかった立ち位置も相まって、ついつい誰かに教えたくなる作品に。
まさに、"隠れた名盤"となったのである。
なお、DVD「Astral relief」には、2002年7月26日、江坂Boomin'Hallにて行われた1日復活ライブの模様が収録されている。
「久遠の月」、「Last Will」、「Before the Wind」、「鼓動」、「メビウス」の5曲に加え、エンドロール後に、「繋がれた無神経に至上の快楽を」がプラスされた。
画質はそれなりであるが、露出が多かったバンドではないので、貴重な資料。
個人的にセットリストが好みだったこともあるが、間違いなく、本作の価値を高めていたはずだ。
1. LOST CHORD
Shinobuが作曲を担当。
SEを使ったイントロから、アグレッションの高いバンド演奏がスタートする疾走チューン。
シンセを取り入れて幻想的な雰囲気を保ちながら、キメを多用した古き良きのスタイルも再現。
柔らかく浮遊感を出す場面と、力強く迫力を持たす場面とを使い分けるCaimeの成長が、ただでさえ彼ら随一のメロディアス性を持っている楽曲に奥行きを与えていた。
まさに、地続きのZephyrサウンドであり、リスナーはこれを待っていた。
2. Scar;let
「LOST CHORD」同様に書き下ろし。
ジャジーに展開するアダルティーなナンバーで、彼らとしては新しい軸となるのだが、なるほど、活動休止時には在籍していなかったTakaによる楽曲。
どこかレトロな香りのする曲調は、違和感なく馴染んでおり、もし脱退がなかりせば、こんな楽曲が増えていたのかもしれないな。
当時のCaimeでは、この色気は出せなかったかもしれないので、ある種、このタイミングでのドロップとなったからこそのインパクトと言え、結果論ではあるが、運命的でもあるのでは。
3. 鼓動(New Recording Ver.)
この楽曲は真-Sin-がコンポーズしており、3曲とも作曲者が異なる作品となった。
作詞を担当するCaimeを含め、Zephyrの総合力を見せつけた形であろう。
入手困難となっていた会場限定のデモテープからの再録。
やはり歌唱力の強化に耳が奪われるが、切れ味鋭くスピード感を生み出すドラムや、切なさを駆り立てるギターソロも聞きどころ。
キャッチーなメロディを、ストレートにぶつけてくる気持ち良さは、わかっていてもたまらないのである。
当時のテイクを使っているのか、録り直しているかは定かでないものの、樹-Itsuki-がベースプレーヤーとしてクレジットされているのもポイントだ。
曲の良さ、演奏クオリティともに、過去の作品を大幅に振り切っていた1枚。
本作のリリースから10年、バンドは消滅していないようだし、次の展開はないものか、と待ち焦がれているのだけれど。