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【ミステリーレビュー】ナミヤ雑貨店の奇蹟/東野圭吾(2012)

ナミヤ雑貨店の奇蹟/東野圭吾

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2017年に山田涼介主演で映画化もされた、東野圭吾の代表作のひとつ。

最初に断っておくと、これをミステリーと捉えることには賛否両論あるのだと思う。
東野圭吾の著であるという部分に引き摺られて、”感動ミステリー"などと呼ばれることもあるが、ハートフルなファンタジー作品としての側面が強く、そういうものとして読むべきであろう。

というのも、一番の謎は、解決されずに受け入れられてしまうからだ。
強盗を行い逃亡中の3人が、計画の失敗により雑貨屋の跡地である廃屋に逃げ込むところから話はスタート。
そこに、過去から悩み相談の手紙が届き、成り行き上、雑貨屋の主人であった故・浪矢雄治に代わって返事を書くことになる。
現在を生きる彼らが、過去に生きる相談者たちと手紙をやりとりすることで、この雑貨屋が起こしてきた奇蹟を徐々に明らかにしていくことが本作のおおまかなストーリーなのだが、結局、この不思議な現象は、不思議な現象のままで処理されてしまう。

これをミステリーとして読んでしまうと、ここに何らかの叙述トリックがあると疑うのが定石じゃないか。
だってミステリーの大家、東野圭吾だもの。
タイムスリップなんて実際起こっていなくて、想像を絶するような仕掛けが用意されているに違いない、と勝手に期待したくなるのである。

もっとも、断片的な情報がひとつに集約していく面白さは、確かにミステリーにも通じている。
相談者たちが、手紙の返事を踏まえてそれぞれの悩みとどのように向き合っていくかという各章のヒューマンドラマも面白いのだが、オムニバス形式の群像劇として進んでいるかに見えた相談者たちの生き様が、一本の線で繋がったときの驚き。
これこそが本作の肝であり、ここにカタルシスを感じるかどうかが、この作品を気に入るかどうかの分かれ目なのではないかと。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


彼の作風として、心理描写にはそこまで踏み込まず、少し淡泊に、あるいは飄々と起こったこと、話されたことが記述されていく。
テーマ的にヘヴィーになりがちなミステリーというジャンルで、彼が読みやすい作家として安定的にヒットを飛ばすことができるのは、このライトでドライな書きぶりによるところが大きいのだと思う。

ただし、本作については、それが裏目に出た部分もあるのかな。
複数の登場人物が織りなす人間ドラマなのに、どうもキャラの掘り下げが弱いため、急に大胆な行動をとるからびっくりする、という場面がしばしば。
その人物がどういう思考回路をしているかがある程度見えているからこそ、大胆な行動をとったときにドキドキハラハラするのであって、そこが曖昧だと、そういう性格なのかな?で終わってしまう。
松岡も、和久も、貴之も、境遇は違えど、それぞれの考え方の違いや個性というところにまで辿り着いておらず、強盗三人組にしても、いまいち関係性や性格がはっきりしないまま。
感情のメリハリに読者側もシンクロできれば、もう少しのめり込めたのかもしれない。

短編集的な性質もありサクサク読めるので、深くあれこれ考えずに、移動中のおともにするには最適。
和久のエピソードが、もう一歩メインのストーリーに絡んでくる話であればとか、浪矢雄治が未来から手紙が届くことを察知した理由付けがあればとか、三人組のバックボーンにも雑貨店が絡んでいればとか、ここに伏線と回収があればもっと良かったのにというポイントはいくつかあるのだけれど、それも東野圭吾ブランドであればそれも可能なはず、という期待があるからこそ。
ミステリーという先入観を持たず、ライトなファンタジー小説として読むのであれば、平均点は軽く超える作品である。
たまには人が死なずに心が温まる話が見たい、というときの箸休めに。

#読書感想文

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