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【ADVゲームレビュー】十三機兵防衛圏 / Nintendo Switch(2022)

十三機兵防衛圏 / Nintendo Switch

2019年にPlayStation 4版、2022年に一部機能を追加したNintendo Switch版がリリースされたアドベンチャーゲーム。



あらすじ



1985年の日本、咲良高等学校に通う映画好きの高校生・鞍部十郎は、毎晩、特撮の世界に自分たちが入り込むような夢を見るようになる。
同じころ、クラスメートの冬坂五百里も、不思議な夢を見るようになり、慢性的な睡眠不足に陥っていた。
彼らを待ち受けていたのは、日常の終焉。
立ち向かえるのは、機兵と呼ばれるロボットのみ。
13人の少年少女を主人公に、それぞれが体験する不思議な出来事を通して、どのように彼らが人類の存亡をかけた戦いに巻き込まれていくのかを描いた、青春ジュブナイル大作。



概要/感想(ネタバレなし)


ゲームシステムとしては、横スクロールで探索を行う追想編と、機兵を駆使して怪獣を倒すシミュレーションバトルをメインにした崩壊編に大きく分けられ、断片的なシナリオを時系列にまとめたり、用語や設定を解説したアーカイブを補完していく究明編が付属する形。
シナリオを進めるためにバトルを消化していかなければいけない、と捉えると作業チックに感じてしまうが、キャラクターへの感情移入が深まることでバトルモードにも熱が入るし、バトルの前後には、本編では接点が少ないキャラ同士が会話するシーンが仕込まれていたりもするので、偏りなく進めていくのが上手いやり方であろう。

時代モノ的な重厚さも感じてしまううえに、タイムスリップ、タイプリープ的な要素も含んでいて、更には主人公が13人。
脳内リソースに余裕がないと、手軽にやってみよう、とはならないかもしれないのだが、いざはじめてみるとあっという間。
美麗なグラフィックに引き付けられ、簡潔な台詞まわしとアニメーションでテンポ良く進んでいく。
サクサク進むことを阻害しかねない情報量の多い設定は、会話の中ではすべてを語らず、Tipsとして究明編に回してしまっているのも、ある種、工夫と言える。

そして、何より圧巻なのがシナリオの見せ方。
設定の作り込みの丁寧さや、キャラクターの魅力、伏線回収の見事さなど、総じてレベルが高いのはもとより、13人の主人公の目を通して、ひとつの物語をすべての角度から語り切るという立体的な構造が素晴らしかった。
近年、この手のゲームはマルチシナリオが主流であり、特定の主人公の選択によって分岐していく、家系図のようなフローチャートが常だったが、本作では、1本だけ伸びたチャート線を、13人分の追体験によって太くしていくイメージ。
しかも、最初はパラレルで13通りのシナリオが用意されているのか、と思うぐらいに、それぞれが体験する出来事は、時系列も舞台設定も様々で独自性が高いのである。
最初のひとりをクリアすれば、残りのメンバーの辿る出来事もある程度推測できる、という形だけの複数主人公ではなく、パズルのピースを集めていくかのように、一見バラバラの13通りのエピソードを集めると、ひとつの物語に帰結していくというカタルシスは、従来のゲーム体験を飛び越えてきたなと唸らせるクオリティ。
口コミで広まり、80万本を突破するヒット作になったというのも納得である。



総評(ネタバレ注意)



シナリオについては、何を語ってもネタバレになりそうな本作。
とにかく面白かった、という感想に尽きるのだが、そもそものゲームバランスが抜群。
シナリオが複雑であるのに対し、謎解きで詰まるといった部分が少ないので、ストレスなくシナリオの把握や推理に集中できる。
キープアウトになるタイミングも絶妙で、ひとつのキャラクターに偏重することもない。
先行きが気になりながらも、頭を切り替えて別の主人公のストーリーに潜り込むというサイクルが10分~20分ぐらいで訪れ、いかにも物語の断片を拾って、大きな地図を作り上げているような気持ちにさせられる。

なんなら、崩壊編もアクセントのひとつ。
シナリオが読み疲れたら、怪獣にミサイルをぶっ放してストレスを解消する、といった寸法。
正直、シミュレーションバトルゲームとしては弱く、途中まではストーリーを先に進めるためのおまけゲームという認識だったのだが、実は、追想編をクリアした後に挑むラストバトルこそ、高揚感の最大値だったというのは僕だけではないはず。
この可もなく不可もなくの凡庸なゲームに、濃密な世界観を植え付けるために追想編があるのだとしたら、それはそれで凄いなと。
追想編と比較して、だいぶ絵柄がチープではあるが、その分、無限の想像力が駆り立てられるとも言えるのだ。

シナリオとしては、1945年、1985年、2025年、2065年、2105年と、40年単位で5つの世界を行き来することができるというSF設定が肝になっているのだが、それぞれの世界が断絶しており、過去を変えても未来へ干渉しない。
例え、1945年の日本が怪獣に滅ぼされた後でも、1985年の教科書には、戦争に負けたという事実は記載されても、怪獣に滅ぼされたという歴史はどこにも出てこない、といった具合に。
ご都合主義的な設定なのかと思いきや、後々、理由が判明するなど、謎が生まれては、別のシナリオで解消していくという驚きが、何層にも重なって襲ってくる。
シナリオを読む順番によっては、驚きのポイントも変わってくるのだと思うだけに、1回目のプレイは大事にしたいところ。
ある程度、プレイ時間を固めて設けて、記憶が新鮮なうちにやり切ってしまうこと推奨だ。

恋愛要素は、もう少し捻りがあっても良かった気はするけれど、少女漫画テイストを取り込みたかったと聞いて膝を打った。
もっとも、オリジナルたちが考え出した当初の目的を考えれば、そういう風に仕向けられたという考察があっても良いか。
最後までメンヘラ全開だった東雲さんについては、ちょっと与えられた役割が可哀想と思わないでもない。
強いて言うなら、トラブルメーカーとしてだけでなく、落ち着きを取り戻してからの彼女の活躍も見たかったかな。

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