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【ミステリーレビュー】ドラゴンフライ/河合莞爾(2013)

ドラゴンフライ/河合莞爾

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河合莞爾による"鏑木特捜班"シリーズの第二弾。

チームのキャラ立ちが前作「デッドマン」と比べて一段と強まった印象。
鏑木の"ヤマカン"は、プロファイラーの澤田により捜査アプローチとしての解説をさせることで、ある程度の納得感が与えられ、更に鋭さを増した。
昭和の江戸っ子、正木と、おぼっちゃまの刑事オタク、姫野のキャラクターもなんだかコミカルに強調された感があり、リアリティ第一主義の読者をふるいにかけた部分はあるも、上司である斉木の見せ場も用意されるなど、エンターテインメント作品におけるシリーズものとしての成熟と見るべきであろう。

多摩川の河川敷で、臓器を抜き取られ、黒焦げにされた"アジの開き"状態の猟奇死体が発見される。
手がかりを求めて向かった群馬県の飛龍村にて、死体の身元がトンボ研究に熱心な青年・遊介であると判明。
事件を追う鏑木特捜班の視点に加え、遊介の幼馴染である泉美の視点で、遊介の幽霊との交流が描かれ、複雑に真実が交錯していく。
前作から続く、オカルティックな事象の真相を解明するというフーダニット+αの要素は、シリーズの魅力としてますます磨きがかかっている。

山奥に現れた"東京の自宅"、子供達が発見したメガネウラ、死体を"アジの開き"状態にした理由、二十年前の殺人事件、田沼の声をした"お化け"、そして遊介の幽霊・・・
序盤から、同時並行的に謎のピースが多く散りばめられており、点が線になっていく面白さは、高くなっていたハードルを軽々と飛び越えてきた。
頁数は相応に多いも、長く感じさせないスピード感。
ミステリアスな猟奇的事件と、コミカルな掛け合いで引っ張るテンポの良さは痛快である。
ロジックでごちゃごちゃ考えずに、ヤマカンで動く特捜班。
無茶をしようが粗相しようが、彼らを自由に行動させてくれる警察組織。
まぁ、確かにご都合主義なのかもしれないが、それで中だるみせずにカタルシスを味わえるのだから問題あるまい。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


数の多い謎に対して、犯人が誰か、幽霊とは何か、というのには早い段階で気付けるのではないかと。
ヒントの出し方が下手なのか、そこはバレてしまってかまわないと考えているのか、あるいはむしろ解いてしまえる前提で後半戦に突入させたいのか、中盤ぐらいで大まかな仮説は立てることができる。
答え合わせをしながら読むのも、ミステリーの楽しみ方のひとつで、大部分はあっていたけど、ひとつふたつ、著者の発想が上手だった!という驚きがあるというのが最高だ。
前作も同じような難易度だったことから、読者にこの体験を意図的に味わせようとしているのではないか、と考えても良いのでは。

本作において最大の驚きといえば、この事件の終着点は何か、という点であろう。
泉美が田沼を殺す、というゴールについては泉美視点のパートから理解できるが、犯人がそこに導きたい理由や、殺人の方法はよくわからず。
最終的には、ここが肝になってくる。
泉美が盲目であるというハンデキャップを、ミステリーにおけるメリットとして活用する手腕は、なかなかのものであった。
最後のダムを透明にするシーンは、さすがにスケールが大きすぎて心がついていかなかったものの、インパクトは抜群。
この部分については映像化したら美しいだろうな、なんて思うが、"幽霊"のくだりでネタバレしないようにシナリオを書くのが難しそうである。

なんとなく綺麗にまとまった感はあるが、すれ違いによりバラバラになってしまった幼馴染たちを想うと胸が苦しい。
共通の敵である田沼が、良い思いをしたまま勝ち逃げするだろうと考えると腹立たしいので、何かしらの罪でしょっ引かれたことにしておいてほしいな。
次回作で、姫野の過去に触れていきそうな伏線もあり、気になるところ。
これは第三弾も読まないといけないだろう。


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