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【ヴィジュアル系】2023年下半期ベストトラック大賞(後編)

勝手に下半期によく聴いていた楽曲をランキングする、ベストトラック大賞の後半戦。
第20位~第11位までを紹介した前編も、併せて読んでいただければ幸い。

① 2023年7月~12月に発表された楽曲であること
② 2023年12月現在時点でサブスクリプションサービスで配信されていること
③ V系シーンをメインフィールドとして活動しているアーティストの作品であること

最初に言っておくと、前編を書いた時点でトップ10も組んでいるため、12月25日以降にリリースされた楽曲は事実上対象外となってしまっているのでご了承を。


第10位 時の砂 / LAY ABOUT WORLD(「Beginning Of The End.」より)

独立してから初のアルバムとなったLAY ABOUT WORLDの4thアルバムより、「時の砂」を選出。
大人びた雰囲気が強まった印象で、鍵盤の音色が良い味を出している。
マスロック的なアプローチも、なかなかにハマっていたのではなかろうか。
お洒落なサウンドと、流れるような旋律に、Vo.狂太郎のハスキーな歌声が重なると切なさが炸裂。
彼らの音楽性からするとアクセント的な位置づけとも言えるのだが、新たな武器が出来たと捉えておきたいところだ。


第9位 solitude / umbrella(「solitude 」より)

スケールの大きさを感じさせるumbrellaのデジタルシングル。
これぞ空間系オルタナティブ、と言わんばかりに奥行きの表現が更に研ぎ澄まされた印象。
強みとして押し出しているVo&Gt.唯によるファルセット主体の歌唱は、広大な景色に溶け込むようで美しい。
加えて、オクターブ下でもメロディを歌いあげることで、同時に芯の太さ、根っこの部分での強靭さも感じさせる工夫。
1曲で2度おいしいナンバーに仕上がっていた。


第8位 死の産声 / MUCC(「産声」より)

deadmanとMUCCによるスプリットシングルより、MUCCが贈る「死の産声」。
まさか2023年にもなって、復活したdeadmanとMUCCが共演、更には音源のリリースまで実現するとは、と話題になった作品で、CD盤ではdeadmanのVo.眞呼が歌うヴァージョンも収録されている。
deadmanの「猫とブランケット、寄り添い巡り逢う産声」も佳曲であるのは疑いようがないとして、継続による実力を示したのはMUCC。
歌謡曲ベースのメロディを、Vo.逹瑯が臨場感たっぷりに表現。
力を入れるところ、抜くところの強弱バランスも完璧にこなし、もともと得意だった音楽性を、もうひとつ突き詰めて深掘りする百戦錬磨のキャリアは、さすがの一言だ。


第7位 TAMAKIN / 色々な十字架(「少し大きい声」より)

悔しいけれど、入れざるを得ない…!
と、何回彼らに屈しなければいけないのか。
待望の1stアルバムに収録された「TAMAKIN」は、そのタイトルの小学生男子感とは裏腹に、正統派のヴィジュアル系ロック。
一部を除けば、遂に歌詞においても耽美性を発揮しはじめた、と言えなくもない。
もちろん、それをたった一言で台無しにするというのが狙いなのだが、懐古主義的ヴィジュアル系の再現性が高いというのはもとより、わかりやすいオマージュではなく、体に沁み込んだ自然体の音楽としてアウトプットしているのがこれほどに受け入れられた要因なのだろう。


第6位 ガラス玉 / GrimAqua(「ガラス玉」より)

Bloomへの所属第二段となるデジタルシングル。
マイナーコードで疾走する王道的なナンバーで、ド頭からサビでスタートする構成がインパクト大。
どこか儚さ、切なさを帯びたメロディも、ほどよいスピード感があるからこそ際立っていて、いつ代表曲になってもおかしくない普遍性を感じずにはいられない。
もちろん、突っ走るだけでなく、緩急への意識も大事な資質。
Bメロのリズムに癖をつけることによって、サビでのカタルシスを増幅する工夫が冴えていた。


第5位 片想い心中 / the Raid.(「片想い心中」より)

歌謡曲ライクなメロディと、透明感のあるシンセが切なさを駆り立てるthe Raid.のメロディアスチューン。
あえてギミックは控えめに留め、歌詞の世界を膨らませやすくしていた印象で、聴けば聴くほどその世界観に没入してしまう。
ストレートに仕上げているからこそ、刺さったら抜けない純度の高さ。
関西弁による女性詞を多用するアプローチは、その中でフックになっていた。
シーンにおいて共感力を高めるためのテクニックとしてよく見かけるようになってきたが、彼らほど効果的に使っているバンドはさほど多くないのでは。


第4位 真夜中のピアノ係 / えんそく(「えんそくの七不死儀」より)

学校の七不思議をモチーフにしたコンセプト作品において、もっともテーマを深掘りしたと言える1曲。
大半が語りや台詞に割かれていて、メロディはサビのみ。
Vo.ぶうの歌唱する部分となると更に限定されてしまう、かなり特異な楽曲となるのだが、その特異性によってサブカル色の強いえんそくらしさを感じさせるから面白いものだ。
都市伝説の構造をそのまま歌詞にしているという印象で、怪談に新たな解釈を生むという点で、台詞を拾っていくだけでも楽しくなってくる。
そのうえで、心にグサグサ刺さるフレーズが頻出するのだから、スルメ系のナンバーであるにも関わらず、衝撃は大きかったのである。


第3位 夏の幻 / 洗脳Tokyo(「えろとぴあ。」より)

奇を衒ったヴィジュアルが特徴の洗脳Tokyoであるが、それを逆手に取るような素直さが清々しい。
率直に言って、ヴィジュアル系としては邪道中の邪道。
そのままドラマの挿入歌になっていそうなソフトなポップロックで、仮にメジャーデビューシングルでこれを切ってきたら、大人によって音楽性が捻じ曲げられただの、セルアウトに魂を売っただのと叩かれるレベル。
それをあえて、このタイミングでやり切ってしまうのが1周回って彼ららしくて、Vo&Ba.守護霊の飾り気のない歌声も見事にハマっている。
邪念なく、こういうタイプの楽曲を良いなと思える機会を与えてくれたという点でも、彼らの存在は貴重なのだと再認識させられた。


第2位 冷凍室の凝固点は繋ぐ体温 / nurié(「冷凍室の凝固点は繋ぐ体温」より)

12月に夏を舞台にした楽曲を送り込んできたnurié。
至るところに夏の情景を浮かび上がらせるギミックが張り巡らされているのだが、その一方で、冷たさを表現するサウンドワークが意識されていて、冬にリリースした意図というのも感じさせる。
アルペジオを巧みに使い、暑さと寒さを切り替えるギターのセンスは、もっと評価されるべきだろう。
原点回帰を謳い、ミクスチャー風の作風にまとめつつ、表現の鋭さに目を向ければ成長を感じ取れるのも、胸が熱くなるポイント。
nuriéには、いつまでも感性に正直でいてほしいと思わせる1曲だった。


第1位 残鐘 / ベル(「哀愁ロマンチカ」より)

イントロを聴いただけで、心を撃ち抜かれる。
賑やかしいアッパーチューンなのに、どうしてか漂う切ない余韻。
ベストアルバムのリリース予定を自ら覆してオリジナルアルバムを完成させたというエピソードも然ることながら、解散という事実に直面してもなお、Vo.ハロと、Ba.明弥の共作でこの名曲を作り上げたというのもたまらない。
哀愁レトロが好きなリスナーには間違いなく琴線に触れる楽曲と言えるのだが、いわゆる昭和歌謡系のフォーマットとは異なるアプローチ。
コンセプトを貫きつつ、マンネリに陥ることなく集大成的な1曲を生み出した彼らに、大きな賛辞を贈りたい。


1枚のアルバムの中に好きな曲が2、3曲あることなんて珍しくもないのだけれど、あえての1曲に絞っている恣意性は否定しない。
これについては、出来るだけ多くのアーティストを紹介したいという意図もあるのでご理解いただきたいところ。
そんな中、洗脳Tokyoだけ2曲を選出しているのだが、どうしても捨てきれないレベルで名曲を複数送り込んでくるバンドというのもやはりあって、なんだかんだ毎回、1、2組は2曲選んでしまう。
この辺のバランスはいつも悩みながら決めているので、1曲でも聴いてみたいと思っていただけたなら御の字だ。

また、断頭台のメロディの「Delight」や、稲山梢の「コバルト」などは、当初のラインナップには含めていたものの、選出時点でサブスクに入っていなかったので、レギュレーション上、選外とせざるを得なかった。
自分ルールで何を言っているのだ、ではあるのだが、入手困難な作品を名曲だ名盤だ煽るコーナーにはしたくないという意図からのルールメイクなので、音楽はサブスクで、という時代が継続するのなら当面は仕方ないかなと。
ちなみに、noteではSpotifyへのリンクを貼っているくせに、自分で使っているのはApple Musicである。

安眠妨害水族館の更新は残っているけれど、noteの記事は年内最後。
諸々の事情で、来年は更新頻度を落とすかもしれないのだけれど、趣味は趣味で熱量を維持したまま継続していく所存なので、2024年もよろしくお願い致します。
良いお年を。



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