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【短編SF小説】2050年の生活①

今日も猫が可愛い。全部が好き。
ふわふわしているし、良い匂いがする。
目も耳も脚も、完璧すぎるデザイン。
これに関しては神様のセンスに脱帽しまくる。

こんなに可愛い生物なのに
歩き方と目つきは堂々としたもので
まるでこの世界は自分の為に回っていると言わんばかりにとても誇り高く美しい。

「猫」もう文字すら可愛く思えてきた。
「Cat」「Gato」言語が異なったとしても
とにかく全部が可愛い。好き。

猫には私と同じで、平日も休日もないから
毎日、寝たり食べたり遊んだりしている。
季節が変わって、また今日も好きな事に明け暮れる。

彼らが人間のことを、サイズ違いの猫だと思っているという話は、そう考えると妙に納得できる。

「だとしたら君も私のことが好きで堪らないの?」

寒い朝のベランダで、膝に飛び乗ってきた我が猫と、しばらく目が合っているものだからつい尋ねてしまった。

猫はこちらを見つめたままゆっくり瞬きをした。

シーン1
「人工物」


「荷物が到着しました」
「配送ドローンの評価をお願いします」

立て続けに2件も通知が来ていた事に全然気付かなかった。

玄関先に届いていたコンテナの中にはスーパーで購入した食料品が入っている。

形が揃って綺麗な野菜と新鮮な肉、卵は1つも割れていない。

配送ドローンの技術はここ数年でかなり向上していて、評価の下げようがない。最後に星4を押したのは注文したアイスが溶けていた時だ。しかしながらこれも受け取るのが遅れた自分のせいなのだから文句は言えない。

野菜も肉も何もかも、毎回形が同じで綺麗なものが届く。生産から品質管理、流通までの工程を全てロボットが行っているとはいえ、これには毎回感心する。

「新着メッセージ」

母から来たメッセージ、数日先の話ではあるが私の誕生日を祝う内容だった。

もう26歳なんて信じられない。

まだ結婚が世間的にある種のステータスとされていた時代に両親は出逢い、一生の愛を神に誓ったそうだ。

当時はもう一般的になっていた人工子宮という方法で私は誕生した。

通称"アート"
「Artificial」と「Artistic」の2つの意味を持つ。

アート生まれは自然分娩と違い、出生時にコードが振り当てられる事から、一昔前は"コード持ち"という差別用語が流行った。

しかしながらそれが少子化解消の打開策となって以来、もはや私たちはマイノリティではなくなった。今ではむしろ、自然派の方がマイノリティなくらいだ。自然分娩は一部の富裕層やセレブ達が、それこそステータスとして好む選択と言っても過言ではない。

現在私の両親は60代半ばで"終活"の真っ只中。

先週からインド旅行に出かけている。5年後に2人で生前葬を行う事が決まっており、それに向けて着々と準備を進めているそうだ。埋葬の方法は宇宙葬で、2人は死んだ後、何光年も太陽系を漂うらしい。流行りに敏感な2人らしい最期だと思う。

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