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注目の海外不動産ベンチャー6選


国内の不動産ベンチャーは近年急激に盛り上がっており、その数も年々増加しています。

しかし、(特に米国を中心として)海外ではかなり前から不動産ベンチャーは注目されており、とてつもない勢いで市場が拡大しています。

そこで本記事では、日本でまだまだ知られていない、特徴的な海外の不動産系のスタートアップサービスのうち、僕が個人的に気になっているものをいくつか勝手に紹介したいと思います。

1. Knotel(米国)🇺🇸

現在米国NYにおいてWeWorkの競合とも言われているKnotel(ノーテル)。ビジネスモデルとしてはRegusなどと同様の「サービスオフィス(=家具完備の短期レンタルオフィス)」に分類できるかもしれませんが、彼等が標榜するのは「オーダーメイド本社(Tailored Head Quarter)」

複数の会社が同一のスペースで働くコワーキングスペースとは異なり、きちんと本社機能を有するオフィスとして入居企業の要望に合わせて内装・家具等をカスタマイズし、その入居企業専用のコンシェルジュも派遣してくれます。同じKnotelメンバーであっても、同社が抱えるデザイナーによって各企業ごとに異なるデザインが施されています。

HPに掲載されているオフィス事例は以下の通り。出典リンクからその他事例を見て頂けると分かる通りどのオフィスもオシャレな内装ですが、それぞれテイストが異なっています。

出典:Knotel - Case Study

Knotelのオフィスに入居した企業が成長し、手狭になった場合は、Knotelが抱える他のスペースへとスムーズに移転可能。もちろん、内装デザインも注文している過去経緯があるため、コンセプト共有も省略できます。

Knotelがターゲットとしているのは20名を超える規模の企業。1名から入居可能なWeWorkとはその点で異なっており、「シェアオフィスではなく本社が欲しいけど、移転コストなどの一過性・多額のキャッシュアウトは避けたい」という、シェアオフィス・サービスオフィス・通常の賃貸オフィスのどれも満たせないニーズをうまく拾い上げています。


2. OYO(インド)🇮🇳

インドの成長中スタートアップであるOYO(オヨ)。ソフトバンクが巨額投資していることでも注目されています。日本では以前家具備え付けのスマホ完結型賃貸住宅のOYO LIFEを展開(現在はサービス終了)していましたが、彼等のグローバルでのメイン事業は格安ホテル予約サービス OYO Roomsです。

インドは有名ホテルブランドの他に、個人が経営する小規模ホテルやゲストハウスなどの安い宿がたくさん存在しています。しかし、創業者であるRitesh Agarwal氏はインド中を旅行し、そういった小さなホテルに泊まるたびに、HPに掲載された写真や施設説明と実際に提供される低クオリティなサービス・汚い部屋との大きなギャップに驚き、「これは何とかしないと!」と立ち上げたのがOYO Roomsです。

この課題に対して、OYOは以下のような解決策を打ち出します。

1)品質維持のための30項目のチェックリストを独自に用意し、その基準をクリアするホテルにOYOライセンスを与える。
(クリアできなければ運営助言を実施し、品質を上げてから付与)

2)OYOライセンスを与えられたホテルは、OYOのポータルサイトへの掲載、OYO看板の設置、内装費の一部負担、顧客管理アプリの導入などの特典を与えられる代わりに、宿泊費売上の20%をフィーとして支払う。

3)OYO社員が定期的にそのホテルに訪れ、品質維持が徹底されているかを厳しくチェックする。

(参考文献:Forbes - How OYO's Ritesh Agarwal transformed the business of budget accommodations

上記により、宿泊者側はOYOのポータルサイトを介して安心して品質が保証されたホテルを検索・宿泊できるようになり、ホテル側は強力なOYOブランドにより集客改善・売上向上が実現されるという好循環が生まれ、インド国内はおろか、世界中へとそのブランドを拡大していきました。

出典:Unsplash.com

ここからは個人的な考察ですが、OYOのビジネスモデルには興味深い特徴が2つあります。

まず1点目は、自らが資産を持たなくても良いこと。
シェラトンやマリオットなど、大手のホテルブランドは自社で資金を捻出してホテルを不動産ごと保有するケースが多いですが、OYOの場合はフランチャイズ形式を取り、莫大なキャッシュを必要とするハード(不動産本体)への投資は一部内装費など最小限で済ませ、運営手法や管理体制などのソフトを改善・浸透させることで顧客価値を向上させています。巨額資本を集めるのが難しいスタートアップだからこその発想と言えるでしょう。宿泊施設の98%が個人経営というインドのホテル市場にもこのフランチャイズ形式はピッタリハマっています。

2点目は、顧客に対して「必要十分な価値」を提供していること。
元々は先ほど説明した通り、低クオリティな小規模ホテルの品質改善からスタートしていますが、高級ホテルの過剰なサービスにより釣り上げられた宿泊費に対してのアンチテーゼにもなっています。確かに、高級ホテルを想像してみると、無駄に豪華なフロント、普段の生活では絶対使わないアメニティ、ルームサービスなど少数の客しか利用しないサービスのための人件費など、過剰なコストが宿泊費に反映された結果「宿泊」という本来の目的に対して高過ぎる価格設定になっている、と感じるホテルが意外にたくさんありませんか?

出典:OYO

過剰サービスの高額ホテル / 安いけど低品質な宿、という二択を突きつけられている宿泊者に対して、適度な宿泊費で必要十分なサービスに、ITによる利便性が付加された新しいホテルの選択肢を提供している、と考えれば、まだまだ他の国へ拡大していく余地は残されているでしょう。

3. Spacious(米国)🇺🇸

コワーキングスペースとは異なる不動産シェアリングを実現しているのがSpacious(スペイシアス)。コワーキングスペースは、「オフィスの執務エリアをシェアし、遊休化するスペースやアメニティを効率活用する」というコンセプトですが、このSpaciousが目をつけたのは不動産の「遊休時間」です。

彼らのビジネスモデルは、NYの高級レストランやバーの夜間営業時間以外をオフィススペースとして貸し出す、というものです。その他にWi-Fiや電源プラグの設置や、入出館管理をしてくれるコミュニティマネージャーなどを提供しています。

以下写真はオフィス兼バーの一例です。このようにオシャレなワークスペースが多くあります。(出典リンクから他のワークスペースも確認できます)

出典:Spaciou (spaces list)

確かに、大半の飲食店はランチタイムを除く日中の集客に苦労していますし、そこをオフィスとして貸し出すハードルは低いのかもしれません。利用料は日本円で月額約1.5万円。WeWorkなどと比較してもその安さは際立っており、一部の層から人気となっているそうです(※ 同社は2019年にそのWeWorkに買収されました)。

日本では、商業施設やホテルなどの遊休時間・スペースをポップアップクロークとして活用するecbo cloak(エクボクローク)が参入しています。

住宅分野ではこの「遊休時間」に目をつけた代表的なサービスとしてAirBnB(エアービーアンドビー)が有名ですが、オフィスや商業施設などの不動産における遊休時間に目をつけたサービスは珍しいですね。

特にオフィスは昨今の働き方改革と合間って、定時以外の実質稼働率はかなり低くなっており、平日の夜間と休日が丸々遊休状態となっているため、もしかすると住宅よりも遊休時間は多いかもしれません。将来はここに目をつけたスタートアップが誕生し、夜間のオフィスを宿泊施設として貸し出す、なんて日が訪れるかも?

4. Disruptive Technologies(ノルウェー)🇳🇴

高性能IoTデバイスを活用して不動産の管理業務を取っ払ってしまおう、という挑戦的な企業、Disruptive Technologies(ディスラプティブテクノロジーズ)。企業名からして、普通のビジネスであれば名前負けしてしまいそうですが、とてもユニークな技術を持っています。

出典:Disruptive Technologies

それは彼らが提供する19㎜ x 19㎜ x 2㎜の極小チップ型センサー。このセンサーには機能ごとに3種類が開発されており、それぞれ温度・振動・距離を定期的に検知し、その情報を屋内なら25m、屋外なら最大1㎞まで送信することが可能です。また、電池寿命が15年間と、とても長いのでメンテナンスコストも低いのが特徴です。

このセンサーにより不動産にもたらされる便益は以下の通り。

出典:Disruptive Technologies

1)室温管理により入居者の満足度を改善できる。
2)室内占有率の計測からスペース利用の効率化を検討できる。
3)室内の利用状況や人数で空調を制御し光熱費を節約できる。
4)室内の利用頻度の大小から清掃エリアの削減が検討できる。
5)排水管のつまりなどを温度から検知することができる。
(参考文献:Disruptive Technologies

他にも商業施設内での人流データ解析や、物品の欠損・盗難検知・扉の開閉セキュリティなどにも転用可能と謳っており、その可能性は無限大です。

もちろん、完全に普及するまでは耐久性などの機能要件も含めて完全に鵜呑みにはできませんが、本当に技術が確立されているならば建物の管理は圧倒的に効率化されることでしょう。

この企業は2018年のMIPIM(南仏で行われる不動産企業の見本市)で実施されたスタートアップバトルで優勝しており、今後も注目しておきたいスタートアップの1つです。

5. CoStar(米国)🇺🇸

米国、特にNYのオフィスビジネス従事者にとって欠かせないサービスと言われるのがCoStar(コースター)。1987年創業ということで、社歴だけを見るともはやスタートアップとは呼べないかもしれませんが、とても洗練されたアプリケーションを提供しています。

CoStarはオフィス不動産に関する大量のデータを収集・提供しており、オフィス事業に関わる複数のプレイヤーに対してそれぞれのニーズを満たすデータやUI/UXを複数提供することで、商流の多くを抑えているのが特徴です。

CoStar Group「CoStar Tutorial

プロダクトのイメージはこんな感じ。
地図上でソート機能を使って様々な物件を検索することができます。また、各物件の詳細ページには、各フロアの入居状況や賃料に到るまで、あらゆる情報が集約されています。

NYの不動産業従事者は、自社スマホにCoStarアプリをDLし、それを片手に日々物件情報を集めています。不動産仲介業者は懇意のテナントにCoStarからタイムリーな空室情報を伝え、不動産投資家は周辺の取引事例をCoStarから入手してスピーディーな投資意思決定を実現しています。

こういった情報を入手できる背景には米国不動産の商慣習も関係しています。米国ではオフィスに関する様々な情報の開示が行政によって義務付けられており、素人でも本気で探せば多くの情報を入手できますが、CoStarはその情報をシンプルなUI/UXに反映させている点で優れたサービスと言えます。


CoStarの特徴は、洗練されたUIやデータの管理技術も去ることながら、泥臭く不動産関連情報を集める根性にあります。一説によるとCoStarは東南アジアにコールセンターを抱え、毎日決まった時間帯になると一斉にNY中の仲介会社に架電し、直近の成約事例をアップデートしていると言われています。テクノロジーで解決できない部分は人力を使って(ただし最も効率的な方法で)集めているのです。

日本の不動産事情を見てみると、住所表記が曖昧だったり、ビルの呼称が複数存在したり、非公開データが多かったりと、高品質なデータ提供は困難を極めます。日本で同様サービスが出てくるのはまだ少し先の話かもしれませんね。

6. what3words(英国)🇬🇧

最後に紹介するのは、「住所をディスラプトする」と掲げる英国スタートアップのwhat3words(ワットスリーワーズ)。もはや不動産テックと呼んでいいのかもよくわかりませんが、簡単そうで思い付かない、コロンブスの卵的な着想のサービスを展開しています。

突然ですが皆さん、こんな経験はありませんか?

今日は友人たちと代々木公園で花見。
予定通り到着したものの、辺りにはブルーシートの上で盛り上がる団体客たちがたくさん。そんな中から自分の友人たちを探し出すのも一苦労。
電話して場所を聞いても「一番綺麗に桜が咲いてるところ」という回答のみ。
一体どこに行けばいいんだ…

こんな時、絶大な効果を発揮するのがこのwhat3words。この会社は地球上のあらゆる土地を3m四方のメッシュに分割し、それぞれ簡単な3つの単語の組み合わせを割り当てることで、住所表記の代わりに場所を定義してしまう、という優れもの。その数なんと約57兆個

出典:what3words

現在は37ヶ国語に対応しており、日本の国土は簡単な3つの日本語で定義されています(もちろん英語定義もあり)。皆さんも自分の住所を探してみてください!

このサービスの活用方法はパッと思い浮かびにくいかもしれませんが、島国のツバルでは国の正式な住所としてこのwhat3wordsを導入していたり、ベンツのカーナビシステムにはこのwhat3wordsの住所を搭載することで詳細な目的地設定ができるような機能の実装を予定しています。今後はさらに自動運転やドローン輸送にも応用することを検討しているとのこと。
(参考文献:what3wordsリリース(1, 2, 3)、メルセデスベンツリリース

確かに現在の住所表記はそもそも長くて覚えづらかったり、番地の指定区域が広すぎて位置情報としては曖昧すぎるケースがあったり(例えば広大な大学のキャンパス内ではどの棟も同じ住所だったりします)、色々な問題を抱えています。そんな従来型の住所は捨てて、みんなが特定の3単語で位置情報を共有し合う日がいつか来るのでしょうか。

ちなみに、僕は今年「すくすく・ごまだれ・まろやか」を訪れましたが、場所と単語には何の関係もなさそうですね。。

おわりに

上記以外にも気になる海外不動産テック企業はたくさんありますが、今回はこの辺で!

他業界の面白いサービスについても、今後まとめてみようと思います。

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