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羅生門効果

私は68年生きてきて、毎年桜を見ているが一度も同じ桜を見たことがない。

毎年新鮮な思いで桜を眺めている。

これは今の職業を天職としたことに起因している。

脳科学者も言っているが、人の脳は基本的に楽をしようとする性質がある。だから、未知のものに出会うと、脳はまず、過去の記憶に置き換えようとし、多くの人はそのまま置き換えてしまう。

しかし、脳がそのように行なっていることに多くの人は気づいていない。
結果、大人になった人間が毎日見聞きする情報のほとんどが過去の記憶に置き換えられている。

だから、歳を重ねる毎に日々の感動が薄れる。

これはパソコンのキャッシュ機能と同様で、物事を瞬時に判断するための高速化機能だ。
人間社会で生きていく為には、必要機能と言っても良いだろう。
例えば、この機能がなければ車の運転はできないし、一瞬の判断で危険から回避することもできない。

ところが脳のキャッシュ機能は、良いことばかりではない。
万物、森羅万象は、一瞬一瞬うつろい変化している。
昨日と今日、見たものが同じに見えているだけで実は同じではない。
私たちの身体もそうだ。

だから、よく見る人には常に「気づき」がある。

あらゆる発明や問題解決方法の根幹にあるのは「気づき」だ。

僅かな変化に気づくと、ある程度の未来が予測できる。

この観察力は洞察力となる。
人の上に立つ人やクリエイターには必要不可欠な資質だ。

ところで、

黒澤明監督の映画「羅生門」から派生した言葉で、今や世界共通語となっている心理学用語に

「Rashomon effect」(羅生門効果)という言葉がある。

意味としては、

『ひとつの出来事において、人々がそれぞれに見解を主張すると矛盾してしまう現象のこと』を言いうが、それらの人々が意図的に間違ったことを言っていないのにこの現象が起こるのは、まさに「気づき」の違いからなのだ。

結局よく見た人とよく見ていない人の見解の相違だ。

私はこれまで数え切れない程の桜の景色を見てきたが、同じ桜は一度も見ていない。

だから、毎年感動する。

成願義夫
和文化デザイン思考 講師

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