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有能な人々が生み出した優れた商品をダメにする「無能な働き者達」


それは、バブル景気が終わる2年ぐらい前、東レは『シンデレラタイム』という東レシルックの企画商品を発売した。

私はその商品をきものの「さが美」(NC店)のある店舗の店内の在庫の中から発見した。

当時、私は仕事で訪れたさが美の各店の商品をできる限りチェックしていた。
NC店とは言え、呉服店の商品をバックヤードも含めて自由に見られるのは、またと無い勉強の機会だと思っていたからだ。
そこで、発見したのがこの「シンデレラタイム」だ。

消費者向けの商品説明文から、この商品の素晴らしいコンセプトを知って感動したのをはっきり覚えている。

当時は、日本中がバブル景気に浮かれ、職場では女性の活躍の場も広がり、良い意味で男女の格差が縮まり始めていた。
そんな状況下で、女性が仕事終わりに会議や打ち合わせと称する飲み会に参加することも増えていった。

そこで東レが考えたのがこの商品だ。

会社での仕事が終わり、飲み会に行く前に更衣室で数分で着替えることができる簡単着装二部式着物だ。
そして何よりも納得したことは、色柄もおしゃれだったことだ。

これまで、様々な会社が二部式着物を作り販売したが、買うのはいつも旅館の中居さんや飲食店の制服などで、一般消費者にはそっぽを向かれ、二部式は仕事着としてしか売れなかった。
そこで東レが考えたのが、シンデレラタイムだ。

それは「会社の飲み会は仕事だ」と、考えるならばまさにぴったりのコンセプトだ。
二部式と言えども、着てしまえば、側にいる者には普通の着物にしか見えない。
アフターファイブに、着物で現れた女性社員を見て会社の同僚も上司も驚く、「いつどこでこんなに早く着物に着替えたの?」そして、着物姿を見て、「君にそんな一面があったのか」と感動する。

もちろん、仕事終わりのデートやプライベートな食事会でも帰宅することなく着替えられる。

そして、そのセンスの良さと新たな魅力を皆が認め誉める。
それ以降一目置かれることは間違いない。

まさにセルフブランディングの最強のアイテムとしてこれを活かすことができるのだ。

そんな着物をわずか数分で会社のロッカー前で着替えることができるとは・・・・・
しかもプレタ着物なので、買った日から着ることができる。

「欲しい時が着たい時」を体現しており、そして価格は普通の着物の10分の1だ。
当時、私はそのコンセプトを理解し、さが美の店内でひとり感動したことを今も忘れない。
ところが・・・・・・・・・・

店の販売員はその商品を客に見せない、薦めない。
私が、シンデレラタイムのことを販売員に尋ねたが、存在は完全に忘れられていた。
商品コンセプトの重大性を理解していない。
当然のように、私に指摘され思い出しても見せようとしない。
見せるべき相手を選別できない。

販売員達が売りたいのは20万円以上の正絹の着物や帯だ。
「同じ接客するなら、単価の高いものを売りたい。」これが社員達の共通の考えだ。つまり目先のことしか考えない。
着物産業に最も必要な『種蒔き商品』がここにあるのに種を蒔こうとしない。
刈り取ることしか考えない。 
結果、刈り取った後はハゲ山となり、不毛地帯となる。
そして・・・・・・・

当時、360店舗まで店舗数を増やし、売上日本一を誇り、
1991年(平成3年)には東証一部上場までした「さが美」だったが、刈り取りばかりに精を出し種蒔きを怠った不毛地帯では当然何も実らない。
その後、どうなったかは言わずもがな。
平家物語の『盛者必衰』の戒めを見るかのようだった。

2018年、上場廃止等の決定。(以下公開情報)
(株)さが美はTOBされ、(株)ベルーナ の子会社となる。
さが美グループホールディングス(株)へ商号変更。
資本金は52億円から500万円に
店舗数は360店舗から82店舗に激減。

以上の結果はさが美だけに限ったことではなく、まさに呉服業界全体の縮図と言っても良いだろう。

ぜひ、現在和服の小売業に従事していらっしゃる皆さんは、着物愛に目覚め、今後は種蒔きと育てることに注力し、イノベーションを起こし、再び真の繁盛店を増やしていただきたい。

いくら着物ブームが起こっても、リサイクル商品ばかり売れていては、新品を扱う呉服店が繁盛しない。

それでは職人の生活が成り立たないのですから・・・・・

呉服店が繁盛しないことには、着物の未来は暗いものとなり、多くの人が困るのです。

#和文化デザイン思考 講師

#呉服繁盛店の作り方 講師

成願義夫

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