スペイン式フットボール分析学7:FIFAW杯2018ロシア 日本代表分析 対ベルギー戦(前半)

日本代表のディフェンス分析:


分析項目:

組織的守備:
7. ボール出しへの守備(ゾーン3):D. Salida de balón
8. 前進への守備(ゾーン2):D. Progresar
9. ダイレクトプレーへの守備:D. Juego directo
10. セットオフェンスへの守備ゾーン1:D. Finalizaciones
攻撃から守備への切り替え:
11. プレッシング:カウンタープレッシング含む:Pressing
12. 後退: Replegar
13. プレッシングと後退:Pressing y Replegar
セットプレー:
スローイン守備、フリーキック守備(ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3)、コーナーキック守備、セットプレーの攻撃から守備への切り替え


「GKからのボール出しへの守備」(プレッシングシステム:日本4−2対ベルギー3−2+GK)

ベルギーのキックオフで始まった。日本代表は前から激しくプレッシャーをかける。この図は試合開始1分、ベルギーの「GKからのボールに出し」に対する日本の攻撃的ハイプレッシングである。

ベルギーは日本のプレッシングの仕方を確かめるように、GKクルトワが3バックの右CBアルデルヴァイレルトにパス。CFW大迫が素早くプレッシャーをかけにいく。乾が右WGBメウニエルの縦パスのコースを切る。トップ下香川がCBコンパニをマーク。左ボランチ長谷部がヴィッツェルをマーク。日本はベルギーのグラウンド内側へのパスコースと縦パスのコースを切る。それ見たアルデルヴァイレルトはクルトワにボールを戻し、クルトワは逆サイドの左CBフェルトンゲンにパス。

図1:日本の「GKからのボール出しへの守備」

図2:日本の「GKからのボール出しへの守備」。ベルギーは「ダイレクトレプー」を選択。日本のDFラインで一瞬4対5の数的不利の状況。

左CBフェルトンゲンに対して、トップ下香川が縦パスのコースを切りながらプレッシャーをかけにいく。日本が右にスライドしグラウンド内側への縦パスのコースを消したので、「ダイレクトプレー」を選択、CFWルカクに向けて浮き玉のロングパスをする。この時、日本の両CBは吉田がルカクと競り合い、昌子がカバーリング、左SB長友もカバーリングポジションに入り、リスクマネージメントをしていた。右SB酒井宏はベルギー左WGBカラスコをマーク。ベルギーの3トップの左アザールと右メルテンスは競り合いのセカンドボールを拾う準備をしている。そして右WGBメウニエルは右アウトサイドレーンでフリーである。この状況は日本にとって非常に危険である。

図3:前半開始直後の高い位置からのプレッシング:システム4−2

日本の高い位置からのプレッシングのシステムは4−2(CFW、トップ下、両WG、ダブルボランチ)で実行している。ベルギーの方は3−2(3バックとダブルボランチ)で「ボール出し」をしている。ベルギーが5対6の数的不利であるが、GKを入れると6対6の数的同数である。この高い位置で日本がボールを奪えるとショートカウンターから一気にゴールを奪えることが可能である。これがベルギー戦のゲームプランの1つであろうと考える。

しかし、もし、吉田か昌子がルカクに競り負け、アザールやメルテンスに競った後のセカンドボールを拾われた場合、たちまちDFラインで4対5の数的不利の弱点があらわになる。試合開始2分と経たないうちにダブルボランチの長谷部がDFラインに入りDFラインを5枚にした(図4)。

日本の高い位置からのプレッシングシステムは長谷部がDFラインに入ったので4−1、1−3−1に変更(CFW、トップ下、両WG、ボランチ)した。

図4:試合開始1分30秒。長谷部がDFラインに入る。日本の高い位置からのプレッシング4−1もしくは1−3−1。

長谷部がDFラインに入ることにより、DFラインは5対5の数的同数の状況になった。この図では左WG乾がヴィッツェルにボールが出た場合にプレッシャーに行くことが可能である。長谷部がDFラインに入ることで、長友がメウニエルをマークすることができる。反対に、長谷部がDFラインに入らなかった場合は乾がヴィッツェルと右WGBメウニエルの両方を監視することになり、乾の左サイドで1対2の数的不利の状況になり、日本の左サイドから「ボール出し」をされることになったからだ。


5対5の「ボール出しへの守備」:(システム:日本3−2対ベルギー:2−3)

図6:日本の1−3−1のプレッシングシステムに対応するベルギー2−3

ベルギーもすぐに日本のプレッシングに対応してくる。トップ下の香川がデ・ブルイネをマークするために下がり1−3−1のシステムになるので、左CBのフェルトンゲンをダブルボランチのデ・ブルイネとヴィッツェルと同じラインまで上げ、「ボール出し」を2−3システムで実行するベルギー。このシステムにより、CBのコンパニかアルデルヴァイレルトのどちらかがフリーでボール受けて前に運ぶことができ、「ボール出し」が可能となる。

図7:前半11分、前5人、後ろ5人、5対5の状況になっている「ボール出しのへの守備」:(システム:日本3−2対ベルギー2−3)

対する日本もすぐに対応する。CFW大迫とトップ下の香川が2トップのような形になり、ベルギーの2CBに縦パスを切ってグラウンド内側へ追い込む守備方法で激しくプレッシャーをかける。両WGの乾と原口はグラウンド内側への縦パスのコースを切りながら、ベルギーのアウトサイドの選手を監視するハーフポジションを取り、ボランチ柴崎がデ・ブルイネを監視するようにした。前の5人でミックスディフェンスをして、グラウンド内側への縦パスのコースを塞いでいる。左FWアザールがトップ下の位置にポジションを取っているが、日本の前の5人が縦パスのコースを切っているので、ボールを受けることができない。

また、香川はアンデルヴァイレルトがGKにバックパスをすると「Lの動き」をして、右CBアンデルヴァイレルトへのパスコースを切りながらGKクルトワにプレッシャーをかけており、クルトワは「ダイレクトプレー」をする選択肢しかなくなっている。


「ダイレクトプレーへの守備」:

図8:日本が前の5人でハイプレッシングをかけているので、GKクルトワはCFWルカクに向けて「ダイレクトプレー」を選択。

前半11分の日本のハイプレッシングから「ボール出し」を断念し、「ダイレクトプレー」を選択するベルギー。ベルギーもターゲットとなる191cmのCFWルカクがいるので、ルカクにロングパスを送り、セカンドボールを拾うために前方へ走る右CFメルテンス。この図では左CB昌子がルカクと競り合い、右CB吉田がカバーリング、両SBの長友と酒井宏は自身のマークを捨てカバーリングポジションに移動し、メルテンスにセカンドボールを拾わせない。


「GKからのボール出し」の解決策を見つけた出したベルギー:

図9:ベルギーのダブルボランチが「センターレーン」で横並びのポジションを取る。

この図は前半33分過ぎに「GKからのボール出し」の解決策を見つけたベルギーのシステム3−4−3。

「GKからのボール出し」を、ダブルボランチのデ・ブルイネとヴィッツェルが「センターレーン」で横並びになり。両WGBの左メウニエルと右カラスコが下がり、「ボール出し」に参加。

これでトップ下の香川が大迫と同じ高さでプレッシングすることができなくなった。なぜなら、GKクルトワからパスがコンパニに渡ったとする。大迫が左CBフェルトンゲンへのパスコースを切りながら、コンパニへプレッシングすると、コンパニは右CBのアルデルヴァイレルトにパスを出す。ここに香川がプレッシャーに行くと、アルデルヴァイレルトは、前方に2つのパスコースを得る。1つはグラウンド内側へポジションを移動したヴィッツェルへのパスコース、もう1つは「右アウトサイドレーン」低い位置に落ちてきた右WGBメウニエルへのパスコースだ。左WG乾は縦パスのコースを切りながら、「ボール出し」の時は「アウトサイドレーン」にポジションを取っていたヴィッツェルを監視していたが、ヴィッツェルは「センターレーン」にいる。乾は縦パスのコースを切りながら、外側の相手メウニエルを監視するハーフポジション取る役割があるので、内側へ移動したヴィッツェルへの監視はできない。そのことで香川は前に出てプレッシャーをかけることに迷いが生じたと考える。

実際のプレーでは、乾の背後に右WGBメウニエルがいるので、乾がそちらを監視しようとした隙に、コンパニからセンターレーンにいるヴィッツェルへ縦パスが出され、香川は迷いながらプレッシャーをかけに行くので、ヴィッツェルにターンされてしまい、ゾーン1を超えられてしまい「ボール出し」をされてしまう。


前半終了間際に「ボール出し」の解決策も見つけるベルギー:

図10:右FWメルテンスがMFラインに入ることで、6対5の数的不利になる日本。ベルギーのシステム:3−5対日本2−3


ついに、前半終了間際になってからであるが、ベルギーは「ボール出し」の解決策を見つけてしまった。

右FWメルテンスがMFラインに入ることで、6対5の数的優位を作り出した。このメルテンスの配置とダブルボランチの中央でのプレー、両WGBのMFラインに参加する配置によって、日本はベルギーの「ボール出し」を防ぐことができなくなった。

なぜなら、中央に3人と外側に2人の選手をベルギーは配置したので、5人のMFになったのだ。日本の2トップ(大迫、香川)がベルギーの3バックに対応するが数的不利。次に日本のMF3人(左:乾、中央:柴崎、右:原口)ではベルギーのMF5人に対応することはできない。

できることは、図のようにベルギーの3バックにプレッシャーをかけないで、グラウンド内側への縦パスをケアするためにMFの選手をマークすることだ。大迫がボランチのデ・ブルイネをマーク、柴崎はMFラインに参加した右FWメルテンスをマーク。乾はハーフポジションでヴィッツェルとメウニエルを監視する。原口は左WGBのカラスコを監視しながら、ハーフポジションで縦パスをケアする。しかしこの方法だとベルギーの3バックだけでジワジワと前進することができる。

日本の後ろの5人(ボランチの長谷部と4バック)はベルギーの「ボール出し」を防ぐために前に出てプレッシャーをかけることができない。

なぜなら、長谷部はグラウンド中央にポジションを取っている左FWアザールをマーク、2CBの吉田と昌子は、昌子がCFWルカクをマークし、吉田がカバーをする役割である。左SB長友は、ベルギーが中央でボールを保持しているので、右WGBのメウニエルにいつでもプレッシャーをかけることができる距離を保っている。

右SB酒井がベルギーの「ボール出し」をさせないために前に出て左WGBカラスコをマークしても良いと考えるが、そうすると、左FWアザールに広大なスペースを与えることになり、もし、アザールにボールが入ったら、長谷部1人ではアザールを止めることができないので、日本のDFラインは4バックを維持しアザールにスペースを与えないようにしている。しかし、アザールが中央に移動したことで、長谷部がマークを担当することになり、長谷部が「ボール出しへの守備」に参加することができなくなった。

図11:メルテンスがアザールにスペースを作るために斜め前方へ移動。アザールがその空いたスペースでボールを受けて、「ボール出し」を完了し、ゾーン2から「前進」を始めるベルギー。

実際のプレーでは、メルテンスとコンパニが短いパス交換の後、メルテンスが斜め前方へ移動。その動きに柴崎がついていく。その空いたスペースにアザールが移動してボールを受けて、ターンしゾーン2からの「前進」を始めるベルギー。このようにスペースをグラウンド中央に作られてしまうと、長谷部がマークしてたとはいえ、質的優位で勝るアザールを止めるのは至難の技であろう。

このようにベルギーの選手の配置によって、日本は徐々にベルギーの「ボール出しへの守備」ができなくなっていった。ベルギーのポジショナルプレーが日本の「ボール出しへの守備」を上回ったのだ。

次回は後半の日本の「ボール出しへの守備」を分析するが、日本が後半2対0とリードした時に、なぜ、高い位置からプレッシングをすることができなかったのかがこの前半終了間際のベルギーの「ボール出し」に原因があるのではないかと考えることができる。

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