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新たな書のかたち (着物布と)

2021年、7月に太田穂摂先生から1冊の本が届いた。

「太田穂摂 着物地が語る書の世界
      書で巡る伊勢志摩 -西行から現代まで- 」

私が観覧した東京展 日本橋三重テラス(2021年1月19~25日)
ふるさと三重 伊勢展 外宮参道ギャラリー(2021年7月16~19日)
両展で展示された書作品の内 23点とその解説が掲載されている。

元々「書」と「着物地」を合わせることじたいが新たな形、表具まで書家自身が思いを込めて選んでいることも珍しい。更に書作展の作品をこのようにオールカラー頁で表具まですべて掲載し1冊に纏める作品集もあまり無い物だそうだ。
作品集を戴いた私は頁を1頁ずつめくり、1月の会場での穂摂さんとの会話を思い出している。コロナ禍にも伊勢では3日半の開催で300人以上の来訪があったそうだ。

時間が経った時にこの作品集を見て思い出すことでまた新たな感覚が湧いてくるのではと思う。会場だけの記憶では次第に薄まっていくその時の感動を後によみがえらせる為に近くに置いておきたい1冊だと感じた。この本はどこで手に入る物なのだろう。判ったときにまた追記したい。

本に掲載されている書作品については当時綴った下記のnoteをご覧下さい。

                 (2021年8月8日 すぎもとかよこ)

作品集の購入方法が判りました。
発行 伊勢志摩ふるさと交流会
一冊 1200円  送料込 1400円 (2冊以上は送料無料)
ご希望の方は 太田穂摂 <suissuis4.10@gmail.com> まで

                        (2021年8月13日)

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表紙の図柄は書作品 1 西行法師の歌 に使われた表具です。

作品集23作の中の2作品をご紹介します。(作品頁と作品解説頁)

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追記 ■ お知らせ ■

太田穂摂書作展の案内をいただきました。
「書で巡る伊勢志摩 -西行から現代まで-」

2021.7.16(金)~7.19(月)10:00~17:00
(初日13時より 最終日16時まで)於:外宮参道ギャラリー

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三重県伊勢市の女流書家・太田穂摂の書で、伊勢志摩の魅力を紹介します。
西行・北園克衛・竹内浩三をはじめ同地にゆかりある作家の俳句・詩歌と
禅語の書作品約15点を展示します。穂摂自身が書に取り合わせた着物地の
表装も見どころです。本展は、1月に東京で開催された展覧会の伊勢巡回展です。どうぞ御高覧ください。(伊勢展では展示内容が一部変更されます)

案内に書かれている1月東京で開催された展覧会というのが下記noteです。どのような書展かを読んでいただきギャラリーに足を運ばれると余計にこの作品を興味深くご覧いただけるのではと思います。(以下、敬称略)

                 (2021年7月9日 すぎもとかよこ)

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ー  書  × 着物布 × 表具 の出逢いが新たな作品に  ー         
太田穂摂(おおたすいせつ)さんの書の世界を観て

東京日本橋にて開かれている「太田穂摂書作展」に行く機会があった。
きっかけは昨年、一昨年と三重の旧職場広報誌でお世話になった人が教えてくれたから。こうして人の輪は広がっていくんだと思う。最近行く機会が減っていた三重テラスでのイベントでもあり、久しぶりに日本橋に向かった。

太田穂摂書作展には「書で巡る伊勢志摩-西行から現代まで-」というサブタイトルがついている。三重県伊勢市の地に所縁のある人物や言葉を伊勢市で生きる女流書家が「書×布」という新しい形態を作り更に魅力的な作品に作り上げている。今回、その作品を東京で紹介している。

太田穂摂はもともと書道家として華々しい経歴を持っていることを知った。
三重県HP、三重の文化より
伊勢市在住の書道家。古典・古筆をベースに伝統を踏まえながら、現代に即した調和体で表した自身の作品の書を着物地の裂を用いて表装・額装し、発表しています。
  1962年 三重県伊勢市生まれ
  1995年 第27回日展初入選(以降20回連続入選)
  2005年 日展会友に承認
  2015年 国指定重要文化財賓日館にて個展(2017・2018)
  2018年 伊勢神宮奉納米を使った特別酒「納蘇(なそ)利(り)」
        ヒカリ酒販のラベル揮毫
新書派協会に所属し、近藤摂南氏・土井汲泉氏に師事
日展に入選21回他、読売書法展等各展で入賞・入選多数、
大阪NHK文化センター講師。  
新書派協会常務理事、読売書法会理事・審査員、穂(すい)の会(かい)主宰


👇 三重の文化 > みえの文化びと詳細 > 太田穂摂

穂摂の作品の特徴は作品すべて、着物布と書を融和させているところだ。
私はまったく書に明るくないので上手く伝えられないのだが、書体の形式(草書や行書)×着物布(色や柄)×表装(色や形)の組み合わせにより様々な表情が見えてくる。他で拝見する書展と比べると布地が増えた分、書だけに留まらず絵画の表情まで見えてくるような気がして腰かけてゆっくりと眺めさせてもらってきた。

ピカソやムンクは絵画の基礎を仕上げた後に表現の幅を広げて私たちが知っているあの絵を描き始めた。穂摂も書を書き続けその傍ら「書×布」という新しい表現の形を作ろうとしているのかも。第一印象、そう感じた。
私は今回偶然この作品たちとの接点をいただいたことにすごくワクワクしている。これからこの繋がりを大切にしたいと思う。

三重テラスの会場では21点の作品が展示されていて、どれも書体と布が一体化されている。書体と布と縁の組み合わせが同調であったり対比であったりして書本体とは別の楽しみ方ができる。布も可愛い模様だったりシックだったり、色も様々で文字の表情を増幅している気がする。書かれている言葉も有名な俳句や和歌だったりドラマの引用だったりで、自分のその言葉との出逢いと重ねて思う楽しみもある。もちろん書自体の確かさが有ってのことだが、それプラスの表情があり見ていても飽きない。

まず、興味深かった2つの作品を同時に紹介したい。
西行は1118-1190年に、松尾芭蕉は1644-1694年に生きた人。
何事のおはしますをば知らねどもかたじけなさに涙こぼるる(西行の和歌)
何の木の花とはしらず匂哉               (芭蕉の句)

芭蕉は西行を意識し西行の句のちょうど500年後にこの句を詠んだと言われている、と教わった。昨日解説員の方に聞いたばかりだが、本当はこんな一言ではなくとても長い丁寧な解説だった。詳しく知りたい人は会場に行ってくだされば素敵な物語が聞くことができる。
言葉の意味を知ると作品を観る心が少し作者(穂摂)に近づけた気がして、西行や芭蕉までも近しい人に感じだした。

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おまけに太田穂摂さんご本人がそこに居たので句と布を組み合わせる時の様子なども聞くことができ、解説書や記事を読むだけでは伝わってこないとても実になる時間となった。書の素人の私にも解りやすく話してくださった。
ここに写真は無いのだが、ある作品の前、「この着物布を持っていて合う句を待っていた、長く待ち続けてその句に出逢った時にようやく1つになれた作品、この作品がそうだ」と教えてもらえたり、その場でのリアルな会話はとても楽しかった。

次に紹介する作品。
写真で伝わるか気になるが書と布と縁が私の好みにドンピシャでその組み合わせにしばし見惚れていた。神宮の句というだけで身も引き締まる思いとなる作品。
御遷宮萬代守護の白鳥座    (山口誓子の句)

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次に紹介する作品。
御裳濯河歌合(みもすそがわうたあわせ)
左>岩戸あけし天つみことのそのかみに 桜をたれかうゑはじめけむ
右>神路山月さやかなるちかひありて 天の下をばてらすなりけり
御裳濯河は伊勢を流れる五十鈴川(本名)のことで着物を洗う川という意味からそういう呼び名(愛称)がついた。歌合は今でいうカルタや百人一首のような遊びの一種だそうだ。当時の遊びは優雅だなぁーと思う。

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最後に今回のイベントスペースで紹介されている21の句の目録を紹介する。この句や言葉たちがどんな布や縁と合わさり、どんな作品に成っているのか気になる人も多いだろう。

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21の書の作品たち。こんな形態の作品展に初めて行き、何を観てどのように感じたかをどれだけ人に伝えることができるのか、あまり自信はない。
情報量が多過ぎて聞いたことを全部理解しきれていなかったせいもある。
会場に行くと作品を直に目で感じることができる。なので、東京日本橋まで行けるならぜひその目で見て確かめてきてほしい。そんな風に友に薦めたい気持で帰ってきて、さっそく知らせた。夜遅くに note にも記している。
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三重テラスは銀座線・半蔵門線の三越前駅すぐ上。日本橋駅から歩いても
5~10分のお散歩コース。書作展は1/19~25日までで最終日のみ15時まで。
コレド室町隣YUITOビル1階が三重テラスのお店とレストラン、お店を通り抜けてエレベーターで2階に上がるとイベントスペースはすぐ目の前に在る。( 👆期間中は上の写真の風景) 

年間かなりの数のイベントをやっているのでいつでもふらりと立ち寄ってほしい。特に赤福祭りや鈴鹿サーキットのイベント、忍者が来る日などあり、マニアの人が嬉しいイベントが盛り沢山なのもお伝えしておきたい。
(※私は三重テラス「三重の応援団」のひとりです)


最後に、👇 翠穂 suissuis 太田穂摂さんのホームページを。


以下、後日追記

このnoteを作り、大胆にも太田穂摂さんご本人にメールで送らせていただいた。知識の乏しい私の感覚で書いた文章で何か間違ったりしてはいないか心配だったのもあるし、広く世の中にこの作品をお伝えしたい気持ちをお届けしたかった。すると、大きな認識不足を知ることになった。

会場で伺ったのは他の作品は表具は表具匠に任せている。しかし穂摂はすべて自分の手でその組み合わせまで考えていく、と。確かにそう聞いていた。
でも私はそれをあまり重大なことと考えていなかったようだ。だから聞いていながら文章に上げてなかった。でもその言葉の裏には大きな思いがちゃんと有って、それはここに追記しないではいられない。

その思いをそのままお届けできるように、私の下手な解釈を交えずそのまま穂摂先生の言葉、として残させていただこうと思う。
私が「書×布×縁」と書いたのは、1文字が表すインパクトを大切にしたかったからで、これは文章を作るという自分の思いの強さでもあった。この作品の形態が広く世の中に伝わって「布=着物地、縁=表具」と当たり前のように認識していただければ尚嬉しい。が、今の時点でそれは伝わりにくい。

着物地、それも思い出の詰まった貴重な着物地を生かした作品であることを最後にお伝えして終わりたい。私にも、私が勧めた知人にも、きっとその他の方々にも、穂摂先生ご本人が直接作品の前でご説明下さる。またメールの返信まで下さり、頭の下がる思いです。こうした相手との向き合い方が作品にも表れているのだと、作品やご本人とのやり取りを通じて、今回改めて実感したしだいです。沢山お時間をいただき、ありがとうございました。

穂摂先生からの手紙 -作品に関して、抜粋ー

私の書は、書を知らない人にご覧いただきたい。
一般的に、作品を、書いた書家は、表具匠におまかせするのです。
でもそれでは私は満足できません。
ピンクのブラウスを買いに行っても、思いえがいたピンクでないと嫌ですよね。
人におまかせした表具、作品は満足でも表具を含めて見るとどうしても不満が残る、そこで私が目を向けたのは捨てられる着物でした。
布、ではなく、着物布、なのです。
お褒めくださいました山口誓子の「御遷宮」の、俳句は帯なのです。
帯を横に使いました。

あの展示作品(21点)の中で、
大きな山崎豊子のと、(大きすぎて着物では無理。)、隷書の福海無量歓(本格的お茶室用)、波切大王(洋服地、)以外はすべて、
着物、帯、羽織の裏なのです。

母や祖母の小さな着物、解いたハギレ、残り布が捨てるに捨てられなくて。
よすが、として自分のために、作品を、作り始めました。

そのうち頂いた着物や、端切れも用いるようになりました。
行き場を失った着物たちが少しでも活かされるよう。
そして誰かが喜んでくださる作品を、作りたい、のです。

華々しい個展は、知っていただくために必要なことですが
この着物を使って作品を作ってください、と。
オーダーくださるのが一番嬉しいですね。その輪が広がればと思います。
表具という日本の職人芸を残すためにも私は、作品を作っておこうと思います。

というわけで、布、ではなく「不要の着物布」「不要の帯」「着物残り布」と、入れていただけましたら。 ・・・彼らが物語を作ってくれます。

一月二十二日 太田穂摂

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参考資料

翠穂のしごと
「古風な着物 × 古い伝統の書表現 = 新味な作品」

書のはなし  最終回
「眼福 ~書の味わい」   太田穂攝(書家)




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