カノジョに浮気されて『八犬伝』かおとぎ話かわからない世界に飛ばされ、一方カノジョは『西遊記』の世界に飛ばされました⑯

(なんか今回は、最初から気が乗らない話だなあ、独立した植民地の再征服なんて)
そう思いながら、佑月は話を聞いていた。
その後、青い人型ロボットに乗り込んで出撃した。
(不思議なもんだな、操縦方法がわかっているというのは)
佑月は、迷うことなくロボットを操縦しながら思った。
佑月が乗るロボットは、地球連邦軍の中でも特別に優れた兵器らしい。
佑月はロボットが持つライフルの照準を定め、次々とメノン軍のロボットを撃ち落としていく。
(まあ、わかるんだけどね、戦わなきゃいけないのは。地球にも攻め込まれて結構人が死んだってことだし、ただの再征服じゃないってこともね)
佑月が敵のロボットを撃つと、ロボットが爆発し、星のように光る。
あちらこちらで撃たれたロボットが、星のように光っている。
(でもね、俺も今まで何度も戦ってきたけど、「俺がやらなきゃ」というほどのものを、この戦いから感じないんだよね。「なんで俺が戦ってんの?」って感じで、こうしてたくさんの命が散っていくのを見続けて、それを毎日のように繰り返すのって、俺耐えられるのかな?)
そんな風に思った佑月は、ある時、軍を抜けて脱走した。
近くの宇宙植民地に行き、金がなくなるまでに生計の道を立てようと思ったが、ある時メノン軍の将校に会った。
佑月を連れ戻しにきた艦の仲間が敵軍に捕まったが、その将校は捕まった仲間が未成年だという理由で、仲間を解放してくれた。
佑月は脱走前にその将校と戦ったことがあった。その将校の用兵に苦しめられた覚えのある佑月は、
(この人に勝ちたい)
と思って、軍に戻りその将校と対決し勝利した。
その後も地球連邦軍のエースパイロットとして活躍し、戦局を有利に進めていった。

「も一度、落胎泉を取りに行ってきます」
悟空はそう言って、沙悟浄に耳打ちした。
悟空と沙悟浄は雲に乗って破児洞に行き、沙悟浄を茂みに隠れさせた。そして、
「おい如意真仙!落胎泉を渡しやがれ!」
と大音声で呼ばわった。
「猿め!性懲りもなくまた現れたか!」
如意真仙は出てきて、如意鉤で悟空と打ち合った。
その間に、沙悟浄は茂みから出て洞の中に入り、落胎泉の水を汲んだ。
「兄貴!水は汲んだぞ!」洞から出てきた沙悟浄が言った。
「でかした!」悟空が言った。
「待て!その水を持っては行かさんぞ!」
如意真仙は言ったが、動揺して攻撃の筋が乱れた。
その隙を突いて、悟空が如意真仙の脳天に如意棒を食らわせた。
如意真仙は血まみれになって倒れた。
悟空は沙悟浄が汲んだ落胎泉の水を持って、海松達が休んでいる店に行き、裏口から入って老婆に水を渡し、
「この水で湯を沸かし、お茶を淹れてお師匠様と八戒に飲ませてやってくれ」
と言った。
海松と八戒が老婆が淹れたお茶を飲んでしばらくして、海松と八戒は厠に行きたくなり、二人で交互に何度も厠に入った。
すると膨らんでいた腹が引っ込み、陣痛が収まった。
(まさかーーさっきのお茶は堕胎薬?)海松ははっとした。
そこに悟空が入ってきて、手をついて頭を下げた。
「すみません、俺が落胎泉の水で茶を淹れるように老婆に指示しました」
悟空は言った。
海松は、悟空をぼんやり見つめている。
「ーーほんとにすみません」悟空が重ねて言うと、
「ーーお猿さんがなんで謝るの?」
海松は言った。
悟空はなお頭を下げ続けて、ようやく下がった。
(わかってる、これは八つ当たりだ)
海松は思った。早くに堕胎したためか、胎児を失った悲しみはない。
(いや、あたしが薄情なのかもしれない。さっきまでは生みたいと思っていたんだから。でもこんな風に悲しめない自分が嫌だ)
かといって、生むとしたらどうだったか?
(決まってる、困ってた。相手がいてのことでないとはいえ、こんなこと佑月に言えない)
翌日、海松達は宿を出立した。
(ーーどんどん元の世界に帰れなくなっていく。あたしは佑月に会いたいのにーー)
馬に乗りながら海松は思っていた。
「その国の名はガンダーラ、どこかにあるユートピア……」
(佑月に会いたいのにーーえ?あたしは佑月に会いたくないからこの世界にいたんじゃなかったの?)
海松は思った。ふと前を見ると、辺りは一面の砂漠で遠くには砂嵐が見える。
(どこかにあるユートピア……あたしは佑月に会いたくなくて、ここがユートピアだと思ってた。でもそうじゃなかった。あたしは佑月に会うのは気まずいと思ってたけど、会いたかったんだ。ここは広い世界のように見えて、本当は箱庭世界だものーー箱庭世界?そうだ。この世界はあたし達に冒険をさせているようで、実際には誰かの助けで生きていけるようになっているーーここにいると、どんどん元に戻れなくなる。まるで狭い世間のようだ。ーー狭い世間のよう?箱庭世界?)
「次は黄風大王という妖怪がいますから、気をつけないといけませんよ」
悟空が言った。
「え?それどんな妖怪?」海松が訊ねると、
「なんでも三昧神風という黄風を起こす妖怪だとか」
「え?風?ーーお猿さん!みんな!止まって!」
と海松は言った。

「だからさ……俺は成長を感じたいのよ。それがなんでロボットな訳?」
佑月が言った。
時はメノン軍に最終攻撃をしようという直前、この一戦で戦争が終了するという直前の作戦会議においてである。
「ティムーーどうした?」
周りが聞いてきた。
「うん、やっぱり思ったけどさ、ここ半年くらい俺も頑張ってきた訳よ。乗りかかった船だし。でもやっぱり俺はロボットを操縦したいんじゃないんだよね。俺は成長したいの、心も体も」
「ーーそんなこと言うなよ」と、隣にいた男が佑月の肩に手を置いて言った。
「だからその本音を言うなって!」
男がそう言うと、また辺りの景色が歪んでいく。
(え?)
男が佑月に向かって何か言っているが、その声も聞こえなくなっていく。
(そうか、俺の言葉は俺の本音であり、みんなの本音でもあるんだーー次はどんなとこだ?)
と思っていると、目の前に塔があった。
佑月は西洋風の鎧を着ている。
(剣と盾もあるな。これで戦えってのか)
「最上階を目指せ」
と、どこからともなく声がした。
(最上階に誰がいる?魔王か?囚われの姫か?)
佑月は門を開け、塔の中に入った。
中は迷路で、モンスターがうじゃうじゃといる。
(ーーこれだ!俺はこれをやりたかったんだ!)
モンスターを何匹か倒すと、宝箱が出た。
(よし!アイテムゲット!)

「お猿さん、気づかないの?」海松は言った。
「何がです?」と悟空。
「戻ってるよ、あたし達」
「え?」
「黄風大王という妖怪は芭蕉扇を使う羅刹女と同じ。つまりこれまでと同じ話が、近い方から順番に繰り返されていくの。あたし達は先に進んでなんかいない。おんなじところをぐるぐる回ってるだけなの」
「そんな……考えすぎですよ」
(お猿さんが警戒心を持ってない!)
「お猿さん、なんで黄風大王のことを知ってたの?」
「え?」
「いつもはその土地に来てから妖怪のことを知ったじゃない。それなのになんでここの妖怪だけは知ってるの?」
海松がそう言ったのは、悟空を疑っていたからだった。
「そう言われてみれば……なんで俺は黄風大王のことを知っていたんだ?」
悟空は言った。
(お猿さんはあたしを騙そうとしてない!正気が残っている?)
「お猿さんお願い」海松が言った。
「はい?」
「この世界をぶっ壊して!」

佑月は塔をどんどん登っていったが、突然真っ暗になり、壁も敵も見えなくなった。
(なんだこれ?どうやって戦えばいいんだ?)
と思って闇雲に戦っていて、気がついたら塔の外にいた。
(そうか、俺は死んだのか……)
もう一度、佑月は塔の中に入った。
同じ階でまた真っ暗になり、見えない敵と戦って死ぬのを何度も繰り返した。
(真っ暗になるのはアイテムが出ないからだ。どうやったらアイテムが出る?)
そう思いながら塔の中で戦っていると、宝箱が出た。
宝箱を開けると、中にランプが入っていた。
(ーー今のはスライムを倒した順番か?赤、緑、黒、黄、青の順番でスライムを倒すとアイテムが出るのか?ーーわかるかそんなの!)
ともかく佑月は、上へ上へと進んでいく。
(アイテムを手に入れるには、その階ごとに謎解きをしなければならない。しかし謎解きには法則性が一切ない。こんな謎解きを何十回もしなければいけないのかーー)

「この世界を、壊すーー?」
悟空は考えた。
「無理だよ、兄貴だって世界を壊すことなんかできるもんか」と八戒が言った。
「いや、俺の持ってる如意金箍棒は太上老君が作ったもので、いにしえの帝王禹が江海の水深を図る重りに使い、その後東海竜王が竜宮の地下の蔵に海の重りとして置いてあったものを、俺が竜王から奪い獲ったものだ。重さは一万三千五百斤(約8トン)、長く伸ばせば上は三十三天(六欲天の第二の天)まで、下は陳莫(地獄の最下層、第18層まで届く」悟空が言った。
「だからって、世界を壊すことはできねえよ」
八戒が言うと、
「本当の世界は如意棒でも壊せない。しかしこの世界が偽物の世界なら」
悟空は如意棒をどんどん大きくしていった。如意棒はたちまち天に届くほどの大きさになった。
悟空の小さな体で、大きな如意棒を支えている。
「偽物の世界ならば、壊せる!」
悟空は、如意棒を思い切り振り下ろした。
しかし如意棒は、空しく空を切るだけだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?