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小説学校に通った二年間のこと

 二年ほど前に、小説の書き方を教えてくれるスクールを探していた時に、心斎橋大学というところを見つけたので、そこに通うことにしました。

「ジャンル小説の本科」というコースに一年通った後に、さらに「ジャンル小説の大学院」というコースに一年通ったので、合計二年間ここで勉強していたことになります。一旦はこれで卒業ということになっているので、二年間通ってみた感想などについて、ここでまとめておきたいと思います。

授業内容

 「ジャンル小説の本科」では、まず最初に「推理小説」「SF小説」「ホラー小説」「時代小説」「ライトノベル」など、各ジャンルについての歴史とか背景とか代表作についての解説授業があります。入学して最初の8ヶ月くらいはずっとそんな感じで、先生の話を聞いているタイプの授業でした。時々、ちょっとした課題みたいなものは出たりするのですが、基本は座学でした。
 正直、この座学の部分はあまり自分には必要なかったかなと思っています。何を習ったのか、今ではあまり覚えていないし、実際に自分の作品を書く上で役に立ちそうな感じでもなかったので…。
 で、それが一通り終わった後は、実践編として「50枚の短編を書き上げる」という課題が出されます。アイデア出しから始めて、プロットを立てて、小説を書くという手順を踏みながら、やっていきます。
 プロットを立てるところまでは全員が普通に進んでいけたのですが、いざ実作していくとなった時に、私も含めて何人かの生徒さんは「え、もう書くの?」みたいな感じで戸惑うことになりました。「いきなり書けと言われても、どうやって書いたらいいのかわからない。」といった質問をしていた生徒さんもいたのですが、それに対する先生の回答は「いや、ただ思いつくままに書くだけのことでしょう。」みたいな感じだったので、そこはもう少し手取り足取りしてくれるステップが欲しかったような気がします。
 なので、基本的には書きたいことを書きたいように書いてみて、できあがったところまでを先生に提出して、授業内で講評を受けるというスタイルでした。これが4ヶ月続いて、本科は終了となりました。

 その後、二年目の「ジャンル小説の大学院」ですが、こちらはもうひたすら実作と講評の繰り返しでした。それが一年間続く。
 毎月、締め切りが設定されるので、そこを目掛けて小説を仕上げて、できあがったところまででよいので先生に提出して、講評を受けるという形になります。毎月必ず、何かは提出しなければいけないので、それこそプロ作家のような感じで、「何もなくても何かをひねり出す」という練習になっていたように思います。
 ただ、その形式でずっとやっているとだんだん疲れてくるので、それ以外の何かも授業としてやって欲しかったかなと、今になって思ったりもします。例えば、あるジャンルの代表作を取り上げて、構成とか文章表現の技術とかについてみんなで議論するみたいな授業をやったら、実践的で役に立ちそうな気がしますね。

先生

 実作の講評ですが、本科の時は、田中啓文先生に担当していただきました。大学院の前半は牧野修先生で、後半は田中哲弥先生に担当していただきました。

 この三人の先生に指導していただいたことで、私が一番よかったなと思うのは、「作家」と「読者」と「編集者」の異なる三つの目線から、自分の作品をみてもらえたことだと思っています。
 田中啓文先生は「作家」の立場から、一行一行を詳細に舐めるようにして講評していただいて、「プロの物書きが文章を書いている時の思考回路ってこんなふうになっているんだよ」っていうのを、存分に見せてもらうことができたと思います。
 牧野先生は「読者」の立場から、この部分はすごい面白いとか、この部分は手抜きしているねとか、率直な意見を伝えてくれるので、これはこれで非常に勉強になったと思っています。
 最後の田中哲弥先生は「編集者」の目線で、こういう構成にするとどういう効果があるんだとか、こうすればもっとよくなるといった改善点について冷静に分析して指摘してくださるので、この三人の中では一番よい指導だったかなと思っています。

 三人共、長年プロの商業作家として活躍されている方なので、どんな難解な質問を投げかけても、それなりに納得の行く回答が返ってくるので、安心して授業を受けることができると思います。

生徒

 男性女性の比率でいうと、半々ずつくらいですね。年齢層は、若い人(学生もいた)から年配の方までまんべんなく幅広い感じでした。

 生徒のレベルは、優秀な人が2割、普通の人が6割、論外な人が2割といった感じ。
 優秀な人は、ほんとにすごいなと思いましたね。文章表現がものすごく巧みで、こういう人がガチでプロで活躍していけるんだなと思わされました。僕も含めた普通の人は、やっぱりどこまでいっても凡庸な作品しか書けないんだなっていうふうに、思い知らされることになります。
 論外な人については、基本的に文章を読んでいてもかけらもセンスが感じられないので、そもそもなんで小説を書こうと思ったのか不思議になってくることがよくありました。「てにをは」がおかしいなど、日本語がうまく書けないレベルの人も中にはいました。そういうのも先生は「味がある」とかなんとか言ってうまく講評しないといけないので、「大変だなー」と苦笑いしながら聞いていました。

 大学院の方なのですが、欠席が多くて、みんなあまり授業に出てこないのが意外でした。他の生徒が全員お休みで、私と先生とマンツーマンで授業を行っていた日さえあったのです。この時は、私がいろいろ質問しないと間が持たなかったので気を使ってしんどかった…。
 第一回目の授業だけ出席して、後は全く出て来ない人とかもいたので、なんかそれって大学生みたいですよね。

 あと、生徒同士での横のつながりが皆無だったのが意外でしたね。私は、他の生徒さんとほとんど会話することなく二年間の授業が終わってしまいました。これは、私がコミュ障だからとか、そういうことではなくて、みんながみんなそんな感じでした。
 一度、学校が主催する懇親会に行ってみたのですが、若い女の子ばかりで、おっさんには正直きつかったです。でも、そこで作られたライングループでちょこっとだけ会話するようにはなったかな。でも、教室では相変わらず会話というか、挨拶すらしないので、まぁなんというかそんな雰囲気のクラスでした。
 クラスによっては、授業上がりにみんなで喫茶店に言ってお茶会をやったりしているところもあると聞いたこともあるので、僕の通っていたクラスがたまたまそんな感じになってしまっただけなのかなと思ったりもしています。
 こう、卒業してからもずっと付き合っていけるような、一生モノの友達ができるかなと期待していたのですが、その期待とは真逆の結果になってしまったのが非常に残念です。

授業料

 1コマ90分の授業で、大体五千円くらいになります。本科は年間で30コマくらいあります。大学院の方は年間15コマくらい。なので、それでざっくりと学費はわかってもらえると思います。文化系のスクールに通うと、どこもこんなもんではないですかね。

総括

 もともと私は、「小説を書いてみたい」っていう気持ちがずっと心の中にあって、長年実行に移せないという状態が続いていたので、それを実現するきっかけとして、この学校を利用していました。
 二年間通ってみた結果として、50枚くらいの短編であれば実際に最後まで書き上げることができる程度の力はついたので、利用してみてよかったと思います。
 小説を書きたいと思っていても、なかなか書き始める人って少ないと思うので、そのためのきっかけづくりに利用するにはこの学校はいいと思います。

 卒業してしまったら、当然毎月あった締め切りがなくなってしまうので、もう自発的に書かなくなってしまうのではないかという危惧はあります。ですが、この二年間を通じて「書くこと」が習慣づいているし、日常生活の中でも「何か小説のネタにできるようなことはないか?」という風に常に感性を研ぎ澄ませた状態で生きるようになったので、やはりこれからも、書き続けていくことはできると思います。

 ただ、ここから商業作家を目指して公募に出したりして頑張るっていう方向にまでは行かないつもりです。そういう方向に行くと、必ず精神的に病んでくることが、なんとなく見えているからです。副業でちょこちょこっとお小遣い稼ぎにやる分には楽しそうでいいかなとは思うんですけどね。どうかな、それも厳しいかな。
 まぁ、今の段階ではカクヨムなんかで公開したら読んでくれて面白いって言ってくれる人たちが何人かいらっしゃるので、当面はそちらで楽しく書いていこうかなと考えています。

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