ユーザーがハマるツールを作るコツをNotionから考える
こんにちは。のっちです。
プロダクトマネジメントSaaSのFlyleでプロダクトマネージャーをしています。
みなさんには仕事をするときにお気に入りのツールはありますか?
私はNotionが好きで、毎日仕様書を作成したり、議事録をまとめたり、自分の思考を書き留めたり、と仕事プライベート関わらず幅広く使用しています。
EvernoteやGoogleドキュメントなどの競合ツールがあった中、一気に利用者を増やし、今はエンタープライズの利用も進むNotion。
Notionが普及する前と後で、Notion以外のドキュメントツールの体験も大きく変わったように思います。
ここまで世界中で普及した理由は様々な物があると思いますが、Notionというツールを「使うこと自体が好き」と感じている人が多いように思います。
このいわばNotionに「ハマっている」状態に近い感覚は、これまでのドキュメントツールになかった価値だと感じています。
この「ハマる」体験を言語化して自分たちのプロダクトづくりにも活かせないかと考えていたところ、脳が何かにハマっている状態である「フロー状態」の仕組みとNotionの設計を比べるといくつかの共通点があると感じ、書いたのがこの記事です。
この記事では、フロー状態について触れ、Notionの中でタスクを実行し、新しいスキルを獲得する体験とフロー状態の関連性、そして最後に私たちプロダクトの作り手が学べる点について、書いていきたいと思います。
フロー状態とは?
フロー状態とは、「自身がやっていることに完全に没頭し、時間を忘れ、外部刺激に気づかないような状態」のことを指します。アーティストの心理状態を研究する中で発見された用語で、好きなことに一心不乱に取り組んでいるときの感覚が近いと考えられます。
インタビューを行った際、「川の流れ(フロー)に乗っている感じ」と多くの被験者が表現したことから生まれました。
心理学者たちの研究の中で、フロー状態が生み出される環境を分析した結果、「フローモデル」は以下の図で表現されることがわかりました。
横軸が「自身が持つスキル」、縦軸が「タスクの難しさ」となっており、両者のバランスが取れた作業に取り組んでいる際、フロー状態が生まれる、ということが示されています。
逆にタスクが易しすぎると「退屈」を生んだり、スキルに比べてタスクが難しすぎると「不安」になるため、フロー状態を続けることはできません。
このフロー状態を上手く設計しているのがゲームで、ユーザーのスキルが無いところから、少しづつ弱い敵を倒し、最終的にゲームクリアするまで夢中が続く…という設計になっています。
もちろんNotionはツールなので、寝食を忘れてNotion自体に取り組む、ということは稀だと思います。
しかし「Notionというツールにハマる」という人が多くいることを考えると、Notionのツールの中に、この仕組みがうまく存在しているのでは、と考えられます。
ここから、Notionを実際に使用する中で、Notion初学者の段階から、どのようにスキルの獲得やタスクの実行が行われていくのかを考えていきたいと思います。
誰でもすぐに書き始められ、手軽にレベルアップできる設計
まずはNotion初心者の段階です。ここではまだスキルがないので、とにかく「ドキュメントを書く」という易しいタスクをこなすことに集中させています。
プロダクトを立ち上げ時にユーザーに表示するものはドキュメント以外一切なく、ユーザーは実行する選択肢が「入力」以外ありえません。その場でそのドキュメントを作成し、リアルタイムで保存されることで「ドキュメントを作成する」というタスクを実行し、スキルを1つ上げることができます。
次に、プロジェクト一覧を作るためにテーブルを作りたいとします。
実現したいこと(要求タスク)は、プロジェクト一覧に担当者や期間を入力したり、優先度順に並べたり、情報をインポートしたり…などたくさんあります。
これを最初にすべて設定するとなると、突然多くのスキルが要求されることになります。
しかしNotionでは、複雑な設定を分解し、1つ1つでタスクが完了するように設計されています。
まず「テーブルを作る」というシンプルなタスクを実行することから始めます。スラッシュを入力してメニューを表示し、テーブルを選択するだけでテーブルの作成が完了。これに名前を加えた時点で「テーブルを作る」作業は完了しました。
そしてできたテーブルに対して、タイトルを加える、データ型を変更するなどの作業を1つずつ個別に追加することで、カスタマイズできます。
これにより、複雑な要求タスクに対して、細かくタスクを分解し、スキルレベルに応じてカスタマイズできることで、初学者はかんたん・着実にNotionのレベルをアップすることができます。
デザイン的には、モードレスな設計がキーになっているということになります。
すぐにフィードバックがあり、正しく作業できているかわかる
上のような複雑な設定を作り上げる中で重要になるのが、操作のたびにフィードバックが行われることです。
Notionはすべての操作で、クリックしたタイミングで設定した処理が実行されます。
スキルを習得するとき、操作に対してすぐに反応があると、達成感につながりやすくなります。もし反応がなければそれがありませんし、「本当に正しく扱えているのだろうか?」と不安を感じやすくなります。
Notionでは、操作をおこなうとすぐに対象の状態が変化し、変更されたことがわかります。こうして素早く細かいフィードバックがあることで、ユーザーは自分の操作の正しさ・誤りを理解し、達成感を感じながらスキルを上げることができます。
スキルを正しく応用できる
このようにしてユーザーは自分の使いたいデータベースのスキルを身に付けますが、Notionが提供しているデータベースは数多く存在しており、広範な知識が必要です。
それぞれのデータベースに特徴があり、求められるタスクに応じてそれらを使い分ける必要があります。
ここで、Notionでは全く異なるデータベースでも、データベースの設定などのなどのカスタマイズがほとんど同じフローで行うことができます。
また、ドラッグアンドドロップやアイテムへの操作も同じ体験で行うことができます。
この統一された体験により、ユーザーはこれまで培った知識を正しく応用することができます。
データベースだけでなく、外部サービスとの連携、共有などの設定においても同じように、段階的なスキルアップできる設計になっています。
例えばJira連携は、URLをペーストするとタスクを表示できますが、更に設定することでNotion内にJIraのワークボードを表示させたり、コメントを入力できたりと、段階的により難しいタスクを処理できるようになっています。
既知のスキルを組み立てて自分の「作品」を作る
段階的にスキルを獲得していく仕組みによって、Notionで幅広いスキルをつけることができました。
ここからユーザーの創造性が広がっていくわけですが、ここでNotionの特筆すべき体験としてブロックの構造があります。
ドキュメントごとの段落をブロックに分け、その単位で、これまで作ってきたデータの引き出し、テキストや画像の作成ができます。
スラッシュ1回で広範なデータベースのすべてを呼び出すことができ、またどこにデータベースがあるか迷うことがないように構造化されています。
これにより、ユーザーはこれまでの知識をベースに、それを「組み立てる」ことで、オリジナルな「作品」を作っていくことができます。
組み立てるときには新しい創造性が必要になりますが、Notionでは既知のスキル同士の組み合わせを行うだけなので新しい知識は必要なく、ここでも着実に組み合わせるスキルを獲得する事ができます。
そして新しいブロックがほしい、となったらまた段階的にスキルを獲得するステップを踏む、というようにレベルアップします。
やりたいことに応じて、段階的にスキルアップできる仕掛けが随所にある
ここまでのNotionの設計を振り返ってみます。
①スキルのない段階では、とにかくシンプルなタスクに集中できる状態を作る
②作業はすべてのことを一気にするのではなく、タスクを細かく分解し、それぞれで「実行完了」の状態にできる
③操作ごとにリアルタイムでフィードバックが行われ、タスクが正確に実現できているか理解できる
④一貫した仕様により別データベースでもスキルを適切に応用でき、加速度的にスキルが向上する
⑤ブロックで手軽に資産を「組み立てる」ことでドキュメント全体のカスタマイズスキルを構築できる
これらの設計は、スキル0のところから、細かいタスクをこなしてリアルタイムにフィードバックを受けながらスキルを向上させ、他のデータベースへとスキルを応用させていき、それらを組み合わせることでオリジナルなドキュメントを作っていく、という流れになっています。
これによって、こなしたいタスクの難しさとその段階でも求められるスキルを細かく適切にバランスさせながらステップを登る設計を実現していると考えられます。
これが、ユーザーを飽きさせず、Notionに夢中な状態、「フロー状態」をキープしている理由と言えるのではないでしょうか。
Notionから学べること
ここまで、フロー状態を生み出すという視点で、Notionの段階的なスキルアップの設計を見てきました。
私達のプロダクトづくりにおいても、いくつか応用できることがあるのではないかと考えています。
①初心者ユーザーがシンプルなタスクに没頭できる環境があるか?
何も知らないユーザーに対して機能をたくさん表示して何をすべきかわからない状態や、長すぎるオンボーディングによって作業を開始できない状態を作っていないか、考える必要があります。
ユーザーの使い始めはCSサポートなど多様なユーザー接点の結果として生まれるものなので、知識のない状態で触れるユーザーがシンプルにタスクに集中できる環境になっているのか、プロダクトに閉じることなく考える必要があります。
②タスクをこなすとすぐフィードバックがある、の繰り返しにできているか?
タスクをこなすと、それが成果につながっていること(スキルが向上したこと)がわかる明示的なフィードバックができているか考える必要があります。
また、難しいタスクをこなす場合は、段階的にフィードバックをして少しづつタスクをこなすことで、大きな課題を解決できる体験を提供できているか、考える必要があります。
③ユーザーにニーズがあり、かつ簡単にできるカスタマイズは手の届く形で用意されているか?段階的にカスタマイズが設計されているか?
複雑なタスクになると、個別なカスタマイズが必要となります。
その際、簡単にカスタマイズできる機能が用意されているか、それは「提供しやすい」ものではなく「ユーザーにニーズがある」ものになっているか、考える必要があります。
そのカスタマイズを入り口に、よりオリジナリティの高いカスタマイズに足を踏み入れていく設計にする必要があります。
④難しさと効果はバランスしているか?
必要なスキルと得られる効果は常にバランスしている必要があります。そのスキルを付けても、得られる効果が大きくなければ、その機能が使われることはありません。
常にバランスし続け、要求タスクに応じてどんどんスキルをつけていく体験を作れているか、考える必要があります。
Notionは「得られたスキルを他にも転用できる」体験を提供することで、スキルの獲得コストを下げつつ、効果を上げています。
これと同じ効果が得られるような仕組みを、自社のサービスの中に取り込めているか、考える必要があります。
⑤積み重ねた資産やスキルを他の機能でも使え、ユーザーの効率化を加速度的に上げられているか?
ユーザーが積み重ねたデータを有効活用し、加速度的にユーザーの利用価値が高まる仕様になっているか、サービス全体で考える必要があります。
また、一貫した仕様にすることで、他機能で培ったスキル・知識から「こうすればできるだろう」というメンタルモデルを作り、それに応え続けられているか、考える必要があります。
これができれば、Notionのように、初学者でも使い始められ、利用が進むほど充実感を感じ、結果として「ハマる」状態を作れるツールになるのではないか、と考えています。
終わりに
今回は、初学者からタスクを実行しながら成長していくユーザーをどのようにNotionがサポートしているかを、フロー状態を生み出す環境の視点から見ていきました。
楽しい、使い続けたい、と思われるツールには、Notionのような、スキルを無理なく付けている仕組みがあると思います。
私達作り手も、それを理解して、より充実感を持って使ってもらえるようなプロダクトを作っていきたいと思います。
フローを作り出す条件には今回紹介した情報の他にもいくつかあり、それらも興味深いものが多いので、興味があれば見てみてください。
それでは、またよろしくお願いいたします。
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