【信州上田】2024秋の信州旅その1 別所温泉・上松やの絶品料理
デビュー作で得た収入で、両親を長野県の上田旅行へご招待!
ただし、来年に出る予定の次回作の取材も兼ねるので、全部経費扱い!
ちょっとケチくさい気もしないでもないけど。
◯
友達の誰を連れて行っても評判がよい〔別所温泉・上松や〕さん。
ここしばらくは、小説のことで大忙しで、お金も乏しいし、時間もとれないしで、行けないでいた。
またあの温泉や食事を堪能できるとなると、うきうきしないではいられない。
両親にも、おもいっきり楽しんでほしい。
えーと。
これから推し旅館の紹介をするけど、よかったらわたしの推しっぷりを生暖かく見守ってほしい。
なんなら、ぜひ訪れて、味わってほしいくらい。
◯
毎回、一番の楽しみは、前菜の「七久里籠」と呼ばれる、七種類の小さな椀に盛られた小品。
見た目に華やかで、毎回、どんなものが出てくるのかが楽しみでしかたがない。
手前、信州産虹鱒のマリネは、上品な酸味に、ほろりと崩れる虹鱒の身。
左、自家製のドライフルーツはキウイ、パイナップルなど数種類が円熟の甘さがかもしていて、食欲をそそる。
左上、揚げ蓮根の下には、つややかなパプリカやブロッコリーなどに、柚子ジュレがかかり、松茸味噌がさらに風味を引き立てる。
真上、岩魚のつみれ玉子豆腐はパプリカソースがかかり、食用の花が鎮座し、見た目も味も華やか。
右のカボチャには、胡桃のソースで、風味の良い濃厚さ。
栗豆腐という一風変わったものに、地元の洋梨が乗っていて、これはワイン煮。
最後に中央、一番楽しみにとっておいた、スモークサーモンの押し寿司。これは脇に添えてある野沢菜塩で食べる。
上松やさんでは、メニューに応じて様々な塩が添えられる。
毎回、行くたびに創意工夫があって、新しいメニューが出てくる。
〔上松や〕さんでは、厨房のことを「料理思考室」と称している。その名の通り、常に料理のことを思考している感が伝わってくる。
わたしが強く推すポイントなのだ。
◯
お造りは、信州サーモンと岩魚。
まるでゆりかごのような形をしたガラスの器に盛られていて、いかにも洒脱。
今回は、
「透明のお醤油でお召し上がりください」
と言われた。
素材の彩りを損なわず、醤油の味を楽しめるものらしいけれど、通常の醤油と比べて味に遜色がないのがすごい。
これなら、お刺身の鮮やかな色を楽しみながら食べられる。
◯
煮物の豚肉も美味しい。
ほくほくのさつまいもとともに、白馬豚の奉書巻という一品には、信州らしく蕎麦の身が散りばめてある。
しっかり味わうつもりが、うっかり一口で瞬殺してしまった。
汁を吸ってとてもジューシーで、その汁までしっかり飲み干す。我ながら意地汚い。
◯
メインディッシュともいえる「ひとり鍋」は、今回は豚のしゃぶしゃぶ。
ただ、白くて薄い、大豆スープだ。
これに、生姜、松茸味噌、七味などの薬味を添えるのだけど、味が薄いんじゃないかと少し不安に。
……なんてことはなく、見た目に反する濃厚さで、薬味すら不要なほどだった。
しかも、一見して薄い豚肉なのに、実際に食べてみると、実に食べ応えがある!
両親は食が細いので……というか、娘にたっぷり食べさせたいのかもしれなかったけど、自分たちは一枚だけ食した後、残りはすべてわたしに回してくれた。
「いやー、せっかく招待したんだし、味わってほしいのになあ」
と言いつつも、どうやらわたしの胃袋には別の意志がやどっているようで……。
それはともかく。
これもまた、スープまでしっかり飲み干してしまった。
◯
そうこうするうちに、松茸の土瓶蒸しが仕上がる。
黒い器から、すっきり透明な汁を注ぎ、
「ああ……五臓六腑にしみわたる」
などとつぶやく。
もちろん、飲むだけ飲むと、中の松茸も残さず食べ尽くす。
漬物や味噌汁と一緒に出されたご飯は、おかずがなくても口へほいほい吸い込まれる。
美味しいお米を、プロの板前さんが炊くと、口がブラックホールになったかのように、ご飯が吸い込まれてゆく。おかずすら要らないほど。
こうしている間にも、そうたくさんは食べられない両親から、次々とわたしの膳へ、あらゆるおかずの輸入作業が行われる。
「これ食べて」
「おい、これ食べるか」
まあ、仕方がない。上松やさんの食事は、いつもまんぷく仕様だし。
一口だけでも味わってもらったら、食べきれない分はわたしが引き受ける。
その分、よりたくさんの種類を味わってもらうために。まんぷくで「これ、食べられなくなった……」ということがないように。
もつべきは、食用大魔神な娘である。
◯
最後をしめくくる甘味は、
・わらび餅
・南瓜ムース
・秋映のコンポート
一見してプリンかと思ったものは、南瓜のムースだった。
舌触りが滑らかで、甘すぎず、すっと舌になじむ。
秋映は、信州でよく栽培されているりんごで、甘味と酸味がしっかりしているらしい。
そんなりんごだから、コンポートによく合うと思う。
部屋へ戻ると、お布団が敷き詰められていた。
さすがに、すぐには動けず、しばらくごろんと横になった後……母と二人で大浴場へと繰り出すのであった。
次回は、上松やさんの朝食!
この記事のシリーズ → マガジン「信州上田の旅と美味」